97 / 161
第95話 包囲
しおりを挟む二十階のボスを打ち倒し、ユークたちは達成感を胸に次の階層へと足を踏み入れた。
目の前に現れたのは、想像していた石造りの迷宮ではなく。そこには、青空が広がっていた。
「……空?」
ユークが思わず立ち止まり、空を見上げた。どこまでも澄んだ青が広がっている。流れる雲が陽の光を受けて白く輝き、頬をかすめる風は心地よかった。
足元には柔らかな草が生い茂り、その感触は明らかに土の上だと教えてくれる。
振り返ると、小さな石の建物がぽつんと建っていた。そこから延びる地下への入口こそ、彼らが登ってきた階段だった。
「風が気持ちいい……」
セリスが風に揺れる金髪を押さえながら、穏やかな声を漏らす。
「おかしいわね……今の時間帯だったら、太陽があの位置にあるはずは無いんだけど……」
アウリンは目元に手を当て、太陽の位置を確認していた。短く切りそろえた青髪が、風に揺れている。
「見晴らしはいいけど……そのぶん隠れられる場所が少ないわ。奇襲の心配は薄いけど、油断しないほうがよさそうね~」
ヴィヴィアンは兜の奥から鋭い目で辺りを見回していた。彼女の仕草から、気を抜いていない様子が伝わってくる。
そのとき、ユークが遠くを指差した。
「ねぇ……あのでっかい木って何なのかな……」
視線の先には森が広がっていた。その奥に、天を突くような一本の巨木がそびえ立っている。遠くからでも幹の太さが異様なのがわかり、周囲の木々とはまったく比較にならなかった。
「……次の階層への道が、あれなのかも。あの木に何か仕掛けがあって、登っていけば二十二階に行けるとか?」
アウリンが腕を組みながら考え込む。眉間に皺を寄せ、真剣な表情だ。
「でも~、それだとこの階って、広すぎる気がしないかしら~」
ヴィヴィアンが首をかしげ、不思議そうに言う。
「近くまで行ってみようよ。何か分かるかもしれないし!」
ユークが前のめりになって提案する。
「わたしも、ちょっと気になるかも」
セリスが小さくうなずいた。
「待って、ちょっと見るだけの話だったはずよ!」
ヴィヴィアンが声を上げ、慌てて引き留める。
「でもさ、今の俺たちなら危ないことなんてないって!」
ユークは軽い口調でそう返した。完全に油断しているように見える。
「ほんの少しだけ、ちょっとだけだから……」
セリスが両手を顔の前で合わせ、ヴィヴィアンを見上げた。
「だーめ! 約束したんだから一度帰りましょう?」
ヴィヴィアンは腰に手を当て、二人の提案をきっぱり却下する。
「まあ……今の状態なら体力も十分残ってるし、一戦くらいはしてもいいんじゃないかしら?」
アウリンが間を取るように提案し、結局その場で一度だけ戦ってから戻るという案に落ち着いた。
「じゃあ約束よ? 一戦したら、必ず戻ること。今回はそれで譲ってあげるわ」
ヴィヴィアンはため息をつきながらも、しぶしぶ首を縦に振った。
こうしてユークたちは森の中へと足を踏み入れる。
見た目は一見、普通の森だった。だが、耳を澄ませばすぐに異変に気づく。
「……虫の声が、しない」
セリスが低くつぶやいた。普段の森であれば、どこかしらから生命の気配が聞こえるはずだった。
「やっぱりここも塔の一部……本物じゃないってことね」
アウリンが冷静に分析する。《賢者の塔》の魔力によって生み出された、偽物の森――
しばらく進むと、視界の先に異様なものが現れた。
それは一見すると大木だった。だが、よく見ればただの木ではない。
幹は太くねじれ、枝はまるで手足のように広がっている。中央には人の顔のような割れ目があった。
そして、それがゆっくりと動き出す。
「動いた……!」
ユークの一言で、全員が一斉に構えを取った。
「トレント。木の姿をしたモンスターよ! 伸び縮みする腕に注意して!」
アウリンが声を張る。
「いくよっ!」
セリスは魔槍を構えると、一気に距離を詰めた。鋭い横なぎが、怪物の胴を真っ二つに裂く。
「なんか、弱すぎないか……?」
ユークが肩をすくめながら呟いた。
「まあ、私たちよりレベルはずっと下なんだから、当然といえば当然よね……」
アウリンが冷静に返す。だが、セリスの表情は変わらない。鋭い目で周囲を見渡し、槍を握る手にも緩みがなかった。
「はいっ! じゃあ、帰るわよ!」
ヴィヴィアンが両手を合わせて宣言した、その直後。
「囲まれてるっ!」
セリスの鋭い声が響いた。緩んでいた空気が一瞬で張り詰める。
全員が一気に構える。森のあちこちから、得体の知れない気配が忍び寄ってきていた。
「間違いない……何かいるわ。姿は見えないけど、完全に囲まれてる!」
ヴィヴィアンの声には、かすかな焦りが混じっていた。
「どういうこと……? 今までダンジョンのモンスターで、こんなふうに気配を殺して包囲してくるなんて……こんなの、聞いたことないわ!」
アウリンが戸惑いの表情を見せる。ダンジョンの常識を覆すような敵の動きに、思考が追いつかない。
そして――
前方の茂みが揺れた。
全員が構えを崩さぬまま、息をのむ。
そこから現れたのは――モンスターではなかった。
「貴様ら! 何様のつもりだッ! 横殴りとはいい度胸じゃないか!」
飛び出してきたのは、茶色い長髪を肩に垂らした男だった。鋭い眼光に、引き締まった顔立ち。その身なりは、どう見ても探索者のものだった。
敵か、味方か――判断がつかない。
新たな緊張が、その場を満たしていく。
◆◆◆
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
ユーク(LV.28)
性別:男
ジョブ:強化術士
スキル:リインフォース(パーティーメンバー全員の全能力を10%アップ)
備考:最近、いろいろなことが起こりすぎて、少し調子に乗ってしまっている自覚はある。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
セリス(LV.28)
性別:女
ジョブ:槍術士
スキル:槍の才(槍の基本技術を習得し、槍の才能をわずかに向上させる)
備考:さすがに、人を好んで殺したいとは思わない。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
アウリン(LV.29)
性別:女
ジョブ:炎術士
スキル:炎威力上昇(炎熱系魔法の威力をわずかに向上させる)
備考:最悪、周囲を焼き払う準備だけは、こっそりと詠唱しながら進めている。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
ヴィヴィアン(LV.28)
性別:女
ジョブ:騎士
スキル:騎士の才(剣と盾の才能を向上させる)
備考:囲まれていたことに気づかなかった事を、反省している。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
17
あなたにおすすめの小説
最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした
新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。
「もうオマエはいらん」
勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。
ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。
転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。
勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』
ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。
全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。
「私と、パーティを組んでくれませんか?」
これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!
少しの間、家から追い出されたら芸能界デビューしてハーレム作ってました。コスプレのせいで。
昼寝部
キャラ文芸
俺、日向真白は義妹と幼馴染の策略により、10月31日のハロウィンの日にコスプレをすることとなった。
その日、コスプレの格好をしたまま少しの間、家を追い出された俺は、仕方なく街を歩いていると読者モデルの出版社で働く人に声をかけられる。
とても困っているようだったので、俺の写真を一枚だけ『読者モデル』に掲載することを了承する。
まさか、その写真がキッカケで芸能界デビューすることになるとは思いもせず……。
これは真白が芸能活動をしながら、義妹や幼馴染、アイドル、女優etcからモテモテとなり、全国の女性たちを魅了するだけのお話し。
S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります
内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品]
冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた!
物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。
職人ギルドから追放された美少女ソフィア。
逃亡中の魔法使いノエル。
騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。
彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。
カクヨムにて完結済み。
( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )
『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる
仙道
ファンタジー
気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。 この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。 俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。 オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。 腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。 俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。 こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。
12/23 HOT男性向け1位
「お前と居るとつまんねぇ」〜俺を追放したチームが世界最高のチームになった理由(わけ)〜
大好き丸
ファンタジー
異世界「エデンズガーデン」。
広大な大地、広く深い海、突き抜ける空。草木が茂り、様々な生き物が跋扈する剣と魔法の世界。
ダンジョンに巣食う魔物と冒険者たちが日夜戦うこの世界で、ある冒険者チームから1人の男が追放された。
彼の名はレッド=カーマイン。
最強で最弱の男が織り成す冒険活劇が今始まる。
※この作品は「小説になろう、カクヨム」にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる