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第二章 追憶と真実
クラスメイト
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結局、フレデリクは男が出ていってからも釈然としない気持ちのまま、教室のある校舎までやってきた。
どうしてあんな態度を取られたのか。その内意味が分かるって、どういうことだろう。
そんなことをつらつらと頭の中に並べながら、廊下を歩いて目的の教室まで向かう。
寮と一緒で歴史を感じさせる木造の校舎は、踏みしめる度に床板が低く軋んだ。磨き込まれた木の壁や柱は艶を帯びて、無駄な装飾は一切ない。質素だが、木特有の温かみに触れ、自然とフレデリクの心は落ち着いた。
同じ廊下を進むのは、彼と同じ、まだ着なれてない制服に身を包んだ新入生たち。さりげなく見渡した中に、テオドアの姿は見当たらない。
部屋は分かれてしまったが、クラスは同じで良かったと心の底から思う。そうでなければ流石のフレデリクも、あの男と部屋を共にする内に気が滅入ってしまいそうだった。
戸を横に引き、ガヤガヤとざわめく教室の中へ入る。二人掛けの長机と椅子が整然と並ぶ室内は、既に半分ほど席が埋まっていた。もう一方の戸から入ってきた生徒が、適当な空いてる席へ着席したところを見るに、どうやら決められた座席もなさそうだ。
フレデリクはテオドアがまだ来ていないことを確認すると、廊下側の前から二つ目の長机、その左の席に腰を下ろす。なるべくあの部屋にいたくなくて早めに出てきたから、テオドアが来るのはもう少し後かもしれない。先程のこともあり、誰かに話しかけるのが億劫になっていたフレデリクは、前方の戸を眺めて静かに待つ。
「ここ、空いてる?」
その時、フレデリクの前の席を指差し、問いかけてくる生徒がいた。
「あ……空いてるよ」
「良かった。じゃあここにしようかな」
ニッコリと笑って前の椅子を引くその人は、一瞬女性かと疑ってしまいそうなほど、中性的な面立ちをしていた。高い位置で一つに束ねた金髪は背中まで届き、サラサラとシルク糸みたいに揺れるのが可憐さを増す。
しかし、魔力さえあれば性別を問わない魔法科と違って、騎士科が受け付けるのは男性のみ。だから目の前の生徒が女性だということは、絶対にあり得ないことだった。
「今、僕の顔見て驚いてたよね」
「あっ、ごめん! 変な意図はなくて……!」
「ああ、謝らないで。女の子みたいって思ったんでしょ? そう思われるのには慣れてるから、大丈夫」
椅子の背もたれに片手をつき、微笑むその姿は、やはり女性とも男性とも取れる美しさがある。
「僕、リオール・アルヴェ。君は?」
「あっ、おれはフレデリク。……家名はその、持ってないんだけど……」
「ふーん? わざわざ言わなくても、気にしないのに。僕のこと、そういうの気にするような人に見えた?」
「い、いやっ、そういうわけじゃないよ。ただ、どう接したらいいのか分からなくて。あんまり馴れ馴れしくすると、よく思わない人もいるかもしれないから」
ここは、実力主義の学校だ。だからフレデリク自身、そこまで身分について重要視してはいなかった。
けれど寮での一件を思い返すと、あの男はやたら身分がどうこうと言っていた気がする。もしフレデリクが平民であることに原因があるのなら、これから先、少し態度を改めるべきかもしれないと、彼はそう考え頭を悩ませていた。
「同じ学舎で学ぶ者同士、そこに優劣なんてないよ。あるとすれば実力の差だけ。だからそう畏まらないで。僕は純粋に君と仲良くなりたいんだ」
しかし、リオールの真っ直ぐな瞳に当てられて、フレデリクの杞憂は一瞬で吹き飛んでいった。
「っあ、ありがとう。そんな風に言ってもらえるなんて思わなかった……。でも、すごく嬉しいよ」
「ふふ、最初に話しかけたのが君でよかった」
「あの、おれもリオールくん……と仲良くなりたい。……仲良くなれたらなって、そう思ってる」
「もちろん。でもそれなら、リオールって呼んでよ。その方が、もっと親しくなれそうで嬉しいな」
「じゃっ、じゃあ……リオール?」
「うん。よろしくね、フレデリク」
「こちらこそ、よろしく」
差し出してきたリオールの手を、そっと握り返す。上品な顔に似合わずゴツゴツと分厚い掌が、彼もまた騎士を目指し、日夜鍛練を重ねてきた者だと分かる。
(優しそうな人だ。友だちに、なれるかも)
期待していた展開に、フレデリクの沈んだ気分が浮き上がってきた。
同じ部屋の人と仲良くなれなかったからといって、それが全てじゃない。こうして歩み寄ってくれる人もいることに、フレデリクは感動と喜びを覚え、胸がジンと震えた。
どうしてあんな態度を取られたのか。その内意味が分かるって、どういうことだろう。
そんなことをつらつらと頭の中に並べながら、廊下を歩いて目的の教室まで向かう。
寮と一緒で歴史を感じさせる木造の校舎は、踏みしめる度に床板が低く軋んだ。磨き込まれた木の壁や柱は艶を帯びて、無駄な装飾は一切ない。質素だが、木特有の温かみに触れ、自然とフレデリクの心は落ち着いた。
同じ廊下を進むのは、彼と同じ、まだ着なれてない制服に身を包んだ新入生たち。さりげなく見渡した中に、テオドアの姿は見当たらない。
部屋は分かれてしまったが、クラスは同じで良かったと心の底から思う。そうでなければ流石のフレデリクも、あの男と部屋を共にする内に気が滅入ってしまいそうだった。
戸を横に引き、ガヤガヤとざわめく教室の中へ入る。二人掛けの長机と椅子が整然と並ぶ室内は、既に半分ほど席が埋まっていた。もう一方の戸から入ってきた生徒が、適当な空いてる席へ着席したところを見るに、どうやら決められた座席もなさそうだ。
フレデリクはテオドアがまだ来ていないことを確認すると、廊下側の前から二つ目の長机、その左の席に腰を下ろす。なるべくあの部屋にいたくなくて早めに出てきたから、テオドアが来るのはもう少し後かもしれない。先程のこともあり、誰かに話しかけるのが億劫になっていたフレデリクは、前方の戸を眺めて静かに待つ。
「ここ、空いてる?」
その時、フレデリクの前の席を指差し、問いかけてくる生徒がいた。
「あ……空いてるよ」
「良かった。じゃあここにしようかな」
ニッコリと笑って前の椅子を引くその人は、一瞬女性かと疑ってしまいそうなほど、中性的な面立ちをしていた。高い位置で一つに束ねた金髪は背中まで届き、サラサラとシルク糸みたいに揺れるのが可憐さを増す。
しかし、魔力さえあれば性別を問わない魔法科と違って、騎士科が受け付けるのは男性のみ。だから目の前の生徒が女性だということは、絶対にあり得ないことだった。
「今、僕の顔見て驚いてたよね」
「あっ、ごめん! 変な意図はなくて……!」
「ああ、謝らないで。女の子みたいって思ったんでしょ? そう思われるのには慣れてるから、大丈夫」
椅子の背もたれに片手をつき、微笑むその姿は、やはり女性とも男性とも取れる美しさがある。
「僕、リオール・アルヴェ。君は?」
「あっ、おれはフレデリク。……家名はその、持ってないんだけど……」
「ふーん? わざわざ言わなくても、気にしないのに。僕のこと、そういうの気にするような人に見えた?」
「い、いやっ、そういうわけじゃないよ。ただ、どう接したらいいのか分からなくて。あんまり馴れ馴れしくすると、よく思わない人もいるかもしれないから」
ここは、実力主義の学校だ。だからフレデリク自身、そこまで身分について重要視してはいなかった。
けれど寮での一件を思い返すと、あの男はやたら身分がどうこうと言っていた気がする。もしフレデリクが平民であることに原因があるのなら、これから先、少し態度を改めるべきかもしれないと、彼はそう考え頭を悩ませていた。
「同じ学舎で学ぶ者同士、そこに優劣なんてないよ。あるとすれば実力の差だけ。だからそう畏まらないで。僕は純粋に君と仲良くなりたいんだ」
しかし、リオールの真っ直ぐな瞳に当てられて、フレデリクの杞憂は一瞬で吹き飛んでいった。
「っあ、ありがとう。そんな風に言ってもらえるなんて思わなかった……。でも、すごく嬉しいよ」
「ふふ、最初に話しかけたのが君でよかった」
「あの、おれもリオールくん……と仲良くなりたい。……仲良くなれたらなって、そう思ってる」
「もちろん。でもそれなら、リオールって呼んでよ。その方が、もっと親しくなれそうで嬉しいな」
「じゃっ、じゃあ……リオール?」
「うん。よろしくね、フレデリク」
「こちらこそ、よろしく」
差し出してきたリオールの手を、そっと握り返す。上品な顔に似合わずゴツゴツと分厚い掌が、彼もまた騎士を目指し、日夜鍛練を重ねてきた者だと分かる。
(優しそうな人だ。友だちに、なれるかも)
期待していた展開に、フレデリクの沈んだ気分が浮き上がってきた。
同じ部屋の人と仲良くなれなかったからといって、それが全てじゃない。こうして歩み寄ってくれる人もいることに、フレデリクは感動と喜びを覚え、胸がジンと震えた。
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