この身を滅ぼすほど、狂った執着を君に。─隻眼の幼馴染が、突然別人に成り代わったみたいに、おれを溺愛し始めた─

髙槻 壬黎

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第二章 追憶と真実

変化

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 討伐訓練から数日が経った。オーディスは結局、魔呼玉を外部から取り寄せたことがバレて、一月の謹慎とブラウによる特別鍛練メニューが課されたようだ。
 退学とならなかったのは、ひとえに彼の生家であるへルマン家の尽力が大きいが、それよりもまず、地獄を見ると言われるブラウの鍛練メニュー。これが一番きつい処罰といっても過言ではなかった。
 自分のした行いに悔い改めよ、というブラウの方針により、何度も気絶するまで体を酷使させられるその鍛練は、むしろ退学した方が軽いくらいの罰であっただろう。
 だからオーディスがそれを乗り越え、無事に戻ってこれるのかどうかはまだ分からない。が、せっかくこうして、反省する機会を与えられたのだ。
 フレデリクは彼に対する少しの不安と期待を胸に滲ませながら、今はどこか変わりつつある日常を送り始めていた。


***


「おはよう、フレデリク」
「あ、おはよう。リオール」

 通学前の朝。フレデリクは対面に座るイアンと共に食堂で朝食を摂っていると、トレーを片手に持つリオールが隣の席についた。

「イアン殿下も、おはよう」
「…………」

 彼は同様の挨拶をイアンにも送ったが、いつものごとく、返ってくる言葉はなかった。イアンは目線すら上げずに、ちぎったパンを口の中へ放っている。

「うーん、今日もダメか。フレデリクとは仲良くなったみたいなのに、僕は全然だね」

 肩をすくめて呟くリオールに、フレデリクは何と言えばいいのか分からず、スープを掬ったスプーンを空中で止める。
 ここ最近、寮以外でも一緒に過ごすようになったイアンは、フレデリクに対してかなり態度を軟化させたものの、その他に対しては冷たいまま。こうした気まずさを覚えるのは、一度や二度じゃなかった。

(でも、おれから仲良くしてほしいとも言いづらい……)
 
 人を信じるのが怖いと話していたイアンを思うと、簡単に頼める話でないのは事実。せめて彼自身がリオールのことを悪い人じゃないと気づいてくれればいいのだが、今のやり取りを見ている感じ、それも難しそうだった。

「どうしたの、フレデリク。もしかして今日のスープ美味しくない?」

 スプーンを持ったまま動かないフレデリクを見て、リオールが不思議そうに首をかしげる。
 
「ん? あっ、いや、違うよ。少し考え事をしてて……」
「それってテオドアのこと?」
「……えっ?」
「やっぱり気になるよね。フレデリクも反省して謝ったのに、これ見よがしに避けたりなんかしてさ」

 リオールの目線の先にいるのは、離れた席で食事をするテオドアだ。周りにはこれ幸いと女生徒たちが座っていて、四方八方にいる男子生徒たちからは、妬み混じりの視線が感じ取られる。

「彼、いつまでああやって拗ねてるつもりなんだろうね」

 リオールは幼い子供を相手取るみたいにそう言って、スープを口に運ぶ。

(拗ねてる……。本当にそれだけだったら、どれだけ良かったことか)

 テオドアを視界へ入れないようにしていたフレデリクは、改めて現実を直面してしまい、込み上げてきた悲しみの渦に唇を噛みしめる。

(テオはもう、おれに愛想が尽きたんだ。だから謝っても許してくれないし、話しかけてもくれない)

 まさに、恐れていた事態が起きていた。テオドアは余程怒りが収まらないのか、この数日は一言も喋ってはくれず、こんなにも喧嘩が尾を引くのは初めてだった。
 このまま疎遠になってしまったらどうしよう――と、マイナスなことばかりが頭に浮かぶ。もう一度謝って、また無視されたら、今度こそ立ち直れる自信がないのに。この状況を打破するきっかけが見つからなくて、不安だけが募っていく。

「フレデリク。早く食べないとスープが冷める」
「っあ……。そ、そうだね」

 イアンに声を掛けられ、フレデリクは慌てて皿ごと持ち上げ、スープを口に含んだ。既に湯気は立っておらず、息を吹き掛ける必要もないくらい生ぬるい。
 しかし、勢いよく飲み干そうとしたのはいいものの、含んだスープが誤って気管支へ入りそうになり、思い切り噎せてしまった。

「……っ! ケホッ、ゴホッ……!」
「ちょっと、大丈夫!? ああもう、一気に飲もうとするから……。ほら、ゆっくり呼吸して」

 隣に座るリオールが背中を擦ってくれる。

「ごっ、ごめ」

 息も絶え絶えの中、フレデリクが謝ろうとしたその時。正面からガチャンッと、スプーンを銀のトレーに叩きつける音が聞こえてきて、フレデリクは思わず身体をビクつかせた。
 イスから立ち上がり、向かいの席までやってきたイアンは、リオールの手を払いのけるように外すと、フレデリクを自分のもとへ引き寄せる。

「フレデリク、一旦寮に戻ろう」
「え? でもまだ残って、」
「さっきからずっと、食事の手は進んでいなかっただろう。食欲がないなら、無理して食べる必要はない」

 そう言うと、イアンは半ば強制的にフレデリクを立ち上がらせ、問答無用で腕を引く。

「あっ、ちょっ――、リ、リオール! ごめん、またあとで!」

 振りほどけないことを悟ったフレデリクは、ポカンと口を開けるリオールにそれだけ伝えると、引きずられるようにして食堂を後にした。
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