僕たちはまだ人間のまま

ヒャク

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第39話「悩むより動け」

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今日は会社に2人しかいないのだから、わざわざ周りを警戒する必要はなかった。
会社で堂々と婚活アプリを開き、鷹夜はMEIとメッセージを送り合っているページを開く。

(そう言えば、メールとか他のアプリとかのアドレス、聞かれてないな)

ふと、今更ながらに、芽依との連絡方法がこの婚活アプリしかないのだと気が付いた。

「うわ、」
「え?どうしました!?」

開いたアプリを見て、鷹夜は思わず声を漏らして目を見開く。
油島はトラブルが起きたのかとパソコンを2台挟んだ向こうの椅子から立ち上がり、上から鷹夜を見下ろしている。

「あ、いやごめん、何でもない。友達、と、連絡取ってて」
「もしかして今日予定ありました!?」
「あー、うん、まあでも、夜?からだし」
「夜、夜っすね。夕方には終わらせますから!!」
「ん、ありがとう。頑張ろうな」

絶対に夕方では終わらない。
鷹夜は張り付けた笑みを油島に向けて落ち着かせ、また携帯電話の画面を見つめた。
そこには、昨晩の内に芽依が送って来ていた様々な飲食店のアドレスがズラリと並んでいる。
それも、和食とハンバーガーの店ばかりだ。

「、、、」

楽しみにしてくれているんだ。

鷹夜の胸が、ぎゅっと締め付けられた。
実際に笑った顔は見た事がないものの、何度か話したせいか想像できた芽依の優しい笑みが頭に浮かんで消えない。

(会いたかったな)

唇をグッと引き結んで、タッチパネルに触れた。

[芽依くん、ごめん。急に仕事が入って、昼飯食べに行けそうにない。今日中に終わるかも分からない。待たせて芽依くんの休みを潰したくもないから、今日はなしにして欲しい。また今度、休みが合うときにしよう。本当にごめんね]

素早くそう打つと一度ため息をこぼしながら読み返して、誤字がない事を確認するとパッとMEIとのメッセージ欄に送った。

(ごめんね)

それが終わるとすぐにまた、パソコン画面を睨みつけた。




午後12時02分。
芽依は相変わらずひとつしかない楽屋に入った。
明後日からは主演2人が務める会社を撮影地にしてのロケーション撮影になる。
結局、今日は撮り止めていたシーンの撮影のみで、予定通りに午前中で仕事が終わった。

「、、、うーん」
「お疲れ様です、竹内さーん」
「あ、お疲れ」

衣装部屋で着替えを終えて来た松本が楽屋に入るなり、ピッと片手を上げて芽依に笑い掛けると、彼も合わせて笑い返す。
けれどすぐさままた携帯電話の画面を見つめ、難しい顔をしながら椅子に座って項垂れるようにズリズリと上半身をテーブルの上に乗せた。
雰囲気は、どよよん、としている。

「どうしたんですか?また彼女みたいな人ですか?」

魚角はまたスタッフルームに遊びにいっているようだ。
松本は着替えた私服の裾を直し、悩ましい顔をしている芽依をキョトンとした顔で見つめた。

「よく分かるね」
「悩める顔射イケメンの顔、やっぱ見てるだけで妊娠ものですもん。さぞ美しい人に振り回されてるんですね、竹内さん」
「顔射イケメンて何だ、、俺、前からその、存在に感謝と顔射かけてるやつものすごーく嫌いなんだけど」
「ええっ!?」

向かいの席に座りながら、松本はふざけたようにその大きな2つの目を更に大きく見開く。
眼球がゴロッと出て来てしまいそうだ、と芽依は引き気味に彼女にチラリと視線を合わせた。

「面白いじゃないですか、存在に顔射。思わずウッ出るッ!ってなるってことっすよね?初めて知ったとき爆笑しましたよ、私。言いよるのお、って」
「おい、今をときめく若手女優がウッ出るッ!とか言うな」
「なはははは」
「あとね、結構恥ずかしいからね?街中で急に、あ!顔射の人!とか言われるの。女子高生にだよ??思い切り下ネタだよ?中学生に言われたときは普通に近くにいた警官によからぬことしてるって疑われて職質されたことあるし」
「ぶっ!!あはははは!それはイヤっすね!!天下の竹内メイが職質!!」

松本はケタケタ笑いながら椅子の背もたれに引っ掛けていたキャメルのキャップを頭に被り、立ち上がってリュックを背負う。

「で、どうしたんですか。彼女みたいな人」
「んー。ランチ行く約束してたんだけど、仕事入ったって。ブラック企業勤めなんだよねー」
「えー!?一般人なんだ、、」
「これってさ、こう言ってるだけで本当は俺と会いたくないとかなんかな」
「え?」

ううむ、とネガティブ思考になっている芽依は画面を睨んだまま口を尖らせる。
松本はそれを見てフッと笑うと一度リュックを胸の前に持ってきて、ついている小さなポケットを開けて中から苺ミルク味の小さな飴を取り出し、コロンと芽依の目の前に置いた。

「?」
「どーぞ。あんね、竹内さんたまーにマイナス思考ヤベーっすよ。そんなん考えても楽しくないからやめましょうよ!そう言う分かんないときは、意地でも会いに行きましょ!で、ハッキリ聞いた方がいいっす!避けてんの?俺じゃダメなの?って!」

言い切ると、松本はリュックを背負い直してから右手の親指を立てて、グッと芽依の顔の前に突き出した。

「ファイトっすよ!」
「、、ぶはっ!ははは!ありがとう、元気出たわ!」

真似して親指を立てた拳を見せると、松本はニッと笑って「じゃ、お疲れした~」と足取り軽やかに楽屋から出ていく。

(悩むよりも行動。それもありだよな)

芽依は鷹夜に返事を打ち、それに対して来るだろう返答を待ちながらも、何とか楽屋を出て自分の車で新宿駅に向かった。
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