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プロローグ
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前世の記憶を思い出したレイチェル・シスカは床に転げまわりたい衝動に駆られていた
「よりにもよって……なんで『お前を愛することはない』発言を初夜で言ってしまう側に転生しちゃったのよ……!!」
実際には“お前”じゃなくて“貴方”なのだが、そんな些細な違いはどうでもいい。
それよりも後半部分の“愛することはない”が駄目だ。駄目すぎだ。
相手の呼び方云々の問題ではない。わざわざ言わなくていいことを言ってしまうことが駄目なのだ。
初夜ものの定番の台詞『お前を愛することはない』を言ってしまう側に転生するなんて誰が予想できただろうか。
少なくとも自分は全く予想できなかった。普通は言われた側の哀れな妻に転生するものじゃないか。
だいたい何だ、その『お前を愛することはない』って。
せめて相手から「愛してほしい」と言われてから言うものじゃないのか?
こんなの、例えば菓子を食べている人間が何の脈絡もなくいきなり「あげないよ」と言ってきたようなものだ。こちらが「ちょうだい」と言っていないのにいきなりそんなこと言われたら「はあ? いらんわ!」と怒り出してしまうかもしれない。
それを踏まえるとこの台詞は失言以外のなにものでもない。
何も言っていないにも関わらず、こちらが当然それを要求しているかのようにとられては不愉快でしかない。
そんなことすらも分からないような想像力の無い思い込みの激しい人間に転生してしまった……。
そしてその人間がやらかした後始末を転生したての私がやらねばならないというこの絶望。最初から詰んでいる。
「だめだ……頭が混乱する。一旦、情報を整理しよう……」
えーっと……まず私の名はレイチェル。シスカ公爵家の当主だ。
18の年にデュラン伯爵家の次男リヒャルトを婿に迎えた。
ちなみにこのリヒャルトだが、かなり見た目が良い。
女性と見紛う程の繊細な美貌、艶めく黒髪と輝くペリドットの瞳。
街を歩けば10人中10人が振り向くであろう文句なしの美青年だ。
そしてそんなリヒャルトを見初めたレイチェルが金と権力を使って婚姻までこぎつけたのだ。困窮しているリヒャルトの生家を支援すると申し出て。
恋焦がれた男性との婚姻。だが、リヒャルトの態度はどこまでも義務的で、思い描いていたものとはかけ離れていた。
レイチェルは美しいリヒャルトが自分をお姫様のように甘やかして溺愛してくれるものだと思っていたのだ。自分が愛されないという想像は全くしていなかった。
シスカ公爵家の一人娘で国王の姪でもあるレイチェル。
そんな彼女は幼い頃より沢山の人から大切にされ、甘やかされてきた。
だから夫となったリヒャルトも当然のように自分を大切にしてくれると根拠もないのに信じていたのだ。
その期待が裏切られて恥ずかしいやら悔しいやらで怒りのままにあの発言をかまし、初夜を放棄した。気位の高いレイチェルは「わたくしをここまで怒らせたリヒャルトが悪い!」と拗らせ、以降ずっと顔を合わせないままだ。
そう、ずっと。つまるところ結婚してから一度も顔を合わせていないという家庭内別居状態にある。余談だが一緒の家に住んでいて一切顔を合わせないなんて庶民には無理だ。そこら辺はさすがは豪邸に住むお貴族様だと感心してしまう。
「いやいや、リヒャルトは別に悪くないよね…………?」
その当時の記憶を思い返してみても、リヒャルトに悪い所が思い当たらない。
確かに結婚式での彼は終始淡々とした態度を崩さなかったが、特段何か失礼な言動をしてはいないのだ。
見ようによっては仏頂面と言えなくもない表情ではあったが。
そもそもこれは政略結婚だ。しかも婚姻期間をすっ飛ばしていきなりの結婚式だ。愛や情を育む期間も無かったうえに、彼は別にレイチェルを好いていたわけでもない。そう考えると彼の態度は普通なんじゃないかと思う。
リヒャルトからしてみれば、初対面の花嫁にいきなりヒステリーを起こされた挙句の家庭内別居だ。理不尽極まりない。
「こんな状況で前世の記憶を思い出しても何の意味もないじゃない……! やらかしたのは私じゃないのに、尻拭いは私がしなければならないってどういうこと!?」
レイチェルは「向こうが謝ってくるまで会わない」と高慢なお嬢様らしい気位の高さで家庭内別居を続けていたが、気の小さい私ではこの状態を続けていく方が無理だ。何も瑕疵のない夫をシカトする生活なんて普通に嫌だ。
とにかく彼に謝罪するなり何なりしてこの家庭内別居を終わらせないといけない。
しかし、終わらせると言っても……どうすればいいのだろうか。
前世の記憶を思い出した途端にぶつかった問題。
私はこの問題をどう解決すべきかで頭を悩ませた……。
「よりにもよって……なんで『お前を愛することはない』発言を初夜で言ってしまう側に転生しちゃったのよ……!!」
実際には“お前”じゃなくて“貴方”なのだが、そんな些細な違いはどうでもいい。
それよりも後半部分の“愛することはない”が駄目だ。駄目すぎだ。
相手の呼び方云々の問題ではない。わざわざ言わなくていいことを言ってしまうことが駄目なのだ。
初夜ものの定番の台詞『お前を愛することはない』を言ってしまう側に転生するなんて誰が予想できただろうか。
少なくとも自分は全く予想できなかった。普通は言われた側の哀れな妻に転生するものじゃないか。
だいたい何だ、その『お前を愛することはない』って。
せめて相手から「愛してほしい」と言われてから言うものじゃないのか?
こんなの、例えば菓子を食べている人間が何の脈絡もなくいきなり「あげないよ」と言ってきたようなものだ。こちらが「ちょうだい」と言っていないのにいきなりそんなこと言われたら「はあ? いらんわ!」と怒り出してしまうかもしれない。
それを踏まえるとこの台詞は失言以外のなにものでもない。
何も言っていないにも関わらず、こちらが当然それを要求しているかのようにとられては不愉快でしかない。
そんなことすらも分からないような想像力の無い思い込みの激しい人間に転生してしまった……。
そしてその人間がやらかした後始末を転生したての私がやらねばならないというこの絶望。最初から詰んでいる。
「だめだ……頭が混乱する。一旦、情報を整理しよう……」
えーっと……まず私の名はレイチェル。シスカ公爵家の当主だ。
18の年にデュラン伯爵家の次男リヒャルトを婿に迎えた。
ちなみにこのリヒャルトだが、かなり見た目が良い。
女性と見紛う程の繊細な美貌、艶めく黒髪と輝くペリドットの瞳。
街を歩けば10人中10人が振り向くであろう文句なしの美青年だ。
そしてそんなリヒャルトを見初めたレイチェルが金と権力を使って婚姻までこぎつけたのだ。困窮しているリヒャルトの生家を支援すると申し出て。
恋焦がれた男性との婚姻。だが、リヒャルトの態度はどこまでも義務的で、思い描いていたものとはかけ離れていた。
レイチェルは美しいリヒャルトが自分をお姫様のように甘やかして溺愛してくれるものだと思っていたのだ。自分が愛されないという想像は全くしていなかった。
シスカ公爵家の一人娘で国王の姪でもあるレイチェル。
そんな彼女は幼い頃より沢山の人から大切にされ、甘やかされてきた。
だから夫となったリヒャルトも当然のように自分を大切にしてくれると根拠もないのに信じていたのだ。
その期待が裏切られて恥ずかしいやら悔しいやらで怒りのままにあの発言をかまし、初夜を放棄した。気位の高いレイチェルは「わたくしをここまで怒らせたリヒャルトが悪い!」と拗らせ、以降ずっと顔を合わせないままだ。
そう、ずっと。つまるところ結婚してから一度も顔を合わせていないという家庭内別居状態にある。余談だが一緒の家に住んでいて一切顔を合わせないなんて庶民には無理だ。そこら辺はさすがは豪邸に住むお貴族様だと感心してしまう。
「いやいや、リヒャルトは別に悪くないよね…………?」
その当時の記憶を思い返してみても、リヒャルトに悪い所が思い当たらない。
確かに結婚式での彼は終始淡々とした態度を崩さなかったが、特段何か失礼な言動をしてはいないのだ。
見ようによっては仏頂面と言えなくもない表情ではあったが。
そもそもこれは政略結婚だ。しかも婚姻期間をすっ飛ばしていきなりの結婚式だ。愛や情を育む期間も無かったうえに、彼は別にレイチェルを好いていたわけでもない。そう考えると彼の態度は普通なんじゃないかと思う。
リヒャルトからしてみれば、初対面の花嫁にいきなりヒステリーを起こされた挙句の家庭内別居だ。理不尽極まりない。
「こんな状況で前世の記憶を思い出しても何の意味もないじゃない……! やらかしたのは私じゃないのに、尻拭いは私がしなければならないってどういうこと!?」
レイチェルは「向こうが謝ってくるまで会わない」と高慢なお嬢様らしい気位の高さで家庭内別居を続けていたが、気の小さい私ではこの状態を続けていく方が無理だ。何も瑕疵のない夫をシカトする生活なんて普通に嫌だ。
とにかく彼に謝罪するなり何なりしてこの家庭内別居を終わらせないといけない。
しかし、終わらせると言っても……どうすればいいのだろうか。
前世の記憶を思い出した途端にぶつかった問題。
私はこの問題をどう解決すべきかで頭を悩ませた……。
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