物語のようにはいかない

わらびもち

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やっと帰っていった招かれざる客

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「何を驚いているのです? そうなることぐらい予想がついたことでしょう?」

 第二王子はただ首を横に振り否定の意を示した。
 
「ミリアさんの行為はシスカ公爵である私に敵対するも同然。当家は子爵家程度簡単に潰せますのよ? 破滅を恐れたマリウス子爵が早々に問題を起こした娘を処分するのは家の存続を第一と考える貴族として当然じゃありませんか?」

「いや……それは分かるがどうして強制労働所なんだ? 問題を起こした貴族令嬢の行先といえば修道院か老貴族の後妻と相場が決まっているだろう?」

 修道院か後妻ならいいという考えに呆れてしまう。
 前者は生涯結婚が許されない上に厳しく質素な生活を送らなければならない。身の回り全てを使用人にしてもらい、贅沢に暮らしていた貴族令嬢にとっては苦痛だろう。

 後者は良いお相手にあたるかどうか天国と地獄に分かれる。悪いお相手だと新婚早々謎の死を遂げるなんてことだってあり得るのだ。

 やんごとなき王子はそういう世俗のことも知らないから“修道院”か“後妻”だなどと
 簡単に言えるのだ。これだから世間知らずのお坊ちゃまは……。

「当家は国中の修道院や孤児院へ多額の寄付を行っておりますの。そんな当家を敵に回した方をどこの修道院が受け入れてくれるというのですか? 後妻の件もそうです。シスカ家に喧嘩を売るような女性を後添えとはいえ妻に迎え入れるなど、親族一同が反対しますよ」

 筆頭公爵家の当主であり国王の姪でもある私を敵に回してまで弱小子爵家の娘を受け入れる貴族家がどこにあるというのだ。そんな奇特な家は国中探しても見当たらないだろう。

 修道院だってそうだ。当家からの寄付金を頼りにしているというのに、それが絶たれる原因になるだろう娘を受け入れる奇特な所はない。

「おまけにマリウス家は娘のやらかしへの謝罪として当家に慰謝料を支払う必要がありました。資産の少ないマリウス家はその資金を調達する為に借金をし、それをミリアさん自身に返させるために強制労働所へと送ったのですよ」

「慰謝料だと? お前の家は資産家だというのにそんなものをとるなんて恥ずかしくないのか?」

「……恥ずかしいのは貴方のお考えの方ですよ。マリウス家が社交界の爪はじき者とならぬよう、当家と和解したという証が必要なのです。最も手っ取り早い方法が慰謝料をマリウス家が支払い、当家がそれを受け取るというもの。それが二家との間で和解が成立したという証となります。こちらが受け取らねばマリウス家は最悪爵位返上まで追い込まれますよ? ただでさえミリアさんのやらかしのせいでご兄弟の結婚が破談となってしまったのです。これ以上損害を被るのは御免でしょう」

「は? どうして兄弟の結婚まで破談になる!?」

「それはそうでしょう。誰が筆頭公爵家を敵に回した家と縁付きたいと思いますか? 貴族の婚姻は基本的に政略が主です。何の旨味もないどころか損しかない家と縁戚になる必要性は皆無ですよ。……まったく、貴方のくだらない目的の為に一つの家を丸ごと不幸の淵へと落とすなんて……王族としても人としても最低ですよ」

 考えの浅い彼はそこまでの大事になると思わなかったのだろう。
 自分が引き起こした事の大きさに今更ながら怖くなったようだ。

「ああ、そうそう……言い忘れておりました。貴方がミリアさんを唆したことは。お粗末な計画を企ててまで私の夫になりたかったのかと笑い者になっておりますよ?」

「なっ……!? どうしてそのことが社交界に……」

「ミリアさんの王宮での発言を聞かれていたからですよ。あんな開けた場所で大声を上げて話すのですもの、王宮を訪れていた貴族や王宮の使用人に聞かれてしまうのは当然でしょう?」

 まさか社交界に自分の失敗に終わった企みが知れ渡っているとは想像もしていなかったのだろう。羞恥で顔を真っ赤に染めて何やら呟いている。

「リヒャルトの待機場所としてあの場所を指定したのも貴方と王妃様でしょう? ミリアさんが見つけやすいようにわざとあんな開けた場所を選んだのでしょうが……結局自分の首を絞めることになりましたわね?」

 社交界で自分が笑い者になるというのは体面を気にする第二王子にとって耐えがたいものなのだろう。すっかりと大人しく……というよりショックで精神を病みかけている。

 こんなにすぐに黙らせることが可能であれば最初からこれを告げればよかったな……。

。北の女王陛下が治める地でも……女王陛下に気に入られないと居場所が無くなりますよ? せいぜい尽くすことですね。ああ……決して“年増”などという言葉を使ってはなりませんよ? 女性の年齢について言及することはタブーです。理解できたのならさっさとお帰り下さい」

 項垂れたままの第二王子にやや高圧的に命令する。
 彼は情けなく肩を落としながら来た道を帰っていった。
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