どうして許されると思ったの？

家臣との距離感を間違えてはなりません

「旦那様には幼馴染のご令嬢が沢山いらっしゃると聞きましたが……」

　事実確認の為にシスティーナはジェーンに聞いたことを夫へと問いかける。
　しかしまるで取り調べを受けているような心地になったレイモンドは冷や汗を垂らしながら「あ、ああ……」と伝えるだけで精一杯であった。

「全員が家臣の娘と聞いておりますが……そうなのですか？」

「ああ、そうだ……。身分差はあるが私達は幼い頃から隔たりの無い友情を育んで「質問したこと以外答えずとも結構です」……はい、すみません」

　妻の迫力に気圧されたレイモンドは素直に謝罪した。
　もう完全に上下関係が確立されている。

「友情は大変結構ですけど、既婚者の邸に未婚の令嬢が通うというのは外聞がよろしくないですね。しかも家臣の娘が主君に気軽に会いにくるなど体裁が悪いですわ。今後はお控えになった方がよろしいでしょう」

　ついでに言いますと領主夫人であるわたくしを気安く訪ねるのもやめて頂きたいですね、と冷めた声音で告げるとレイモンドは大袈裟なまでに身震いした。

「そんな堅苦しく捉えずとも……彼女達はただの幼馴染だ。やましいことなど何もないぞ？　君とだってただ仲良くしたいだけだと思うし……それでも駄目なのか？」

「はあ……では、わたくしは王太子殿下と従兄妹で幼馴染のようなものでもありますけど、既婚者の殿下に気軽に会いに行って大丈夫だと思われますか？　同盟国の王女を妃に迎えた殿下に『わたくし達ただの従兄妹ですもの！』と頻繁に会いに行って本当に大丈夫だと？　そして妃殿下に『仲良くなりたいの！』と言って宮殿に押し掛けてもよいと？」

「い、いや……それは、大分不味いな……」

　いきなり出てきた“王太子”という単語に狼狽えるレイモンド。
　忘れていたが妻は王妃の姪で王太子の従兄妹だった。
　妻の背後に大きな権力の気配を感じてどうにも落ち着かない。

「そうですよね。下手をすると同盟にヒビが入りかねませんよね？　これが婚約相手もいない状況ならまだ大丈夫ですけど、流石に既婚者相手にそれはいけませんよね。妃殿下も嫌な気持ちになるでしょう？　何より格下が格上を気軽に訪ねる行為はその方を軽んじているも同然ですよ」

「軽んじるだなんて考えすぎではないか？」

「いえ、考え過ぎではありません。だいたい、王侯貴族なんて足の引っ張り合い競争を日々繰り広げているも同然なのですよ。臣下に軽んじられる主君なんて真っ先に蹴落とされる対象です。主君は家臣との距離感を間違えてはいけません」

　システィーナのど正論に何も言い返せないレイモンドだが、それでも納得がいかないのか不服そうな表情で俯いている。

「……システィーナ、妻といえども夫の交友関係に口を出すのはどうかと思うぞ」

　怒りを込めた声で呟くレイモンド。
　しかし、この程度でシスティーナは怯まない。

「何を勘違いしておりますの？　わたくしは妻としてではなく、伯爵夫人としての立場で物申しているのですよ」

「へっ…………？」

　その二つは何が違うのだろう……と首を傾げる夫にシスティーナは淡々と告げる。