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当主は舐められたら終わりです
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「貴方がこの伯爵家と伯爵領を束ねる長でないのでしたら、わたくしも貴方の交友関係に口を出したり致しません。常識的な範囲でご自由になさればよろしいかと。ですが、貴族家当主ともなれば話は別です。よいですか旦那様、当主は舐められたら終わりです。血筋と立場に胡坐をかいていたらすぐにその座を奪われてしまいますよ?」
「え? いや……それは大袈裟ではないか?」
「大袈裟ではありません、ちゃんと実例がございます。わたくしの伯父は若かりし頃、昔馴染みだからと気安く接し、家臣に立場を弁えさせなかったせいで跡継ぎの座を剥奪されました。そうして跡継ぎの座も婚約者の令嬢も弟である我が父のものとなり、自身は何も持たぬ状態で平民へと落とされた挙句放逐されたそうです。今何処で何をしているかは不明です……」
「跡継ぎの座を剥奪!? 平民落ち? 君の伯父上は一体何をしてそんな目に!?」
「伯父の家臣……といっても当時は家臣の家の嫡男という立場ですね。彼等と伯父は対等というより馴れ合いに近い間柄だったそうで。それで何を勘違いしたのか伯父の婚約者の令嬢を見下すようになり、無礼な態度ばかりとるようになったとか。婚約者は苦言を呈したのですが、伯父が彼等を諫めることはなかったそうです。皆自分の大切な友だから、と大分寝惚けた発言を繰り返していたようで……」
自分と状況が似通っていることにドキッとした。
心臓がやけにバクバクと早鐘を打って痛い。
「そんなことを繰り返しているうちに周囲は伯父を“当主として相応しくない”と思うようになりました。家臣を制することも出来ないばかりか増長させるような人に当主が務まると思います?」
「思わない、です……」
「そうですよね。それは当時の当主である祖父もそう判断したようで、早々に跡継ぎの座を剥奪して放逐したらしいです」
「え!? それだけで? 何か事件を起こしたとかではなく、それだけで……?」
「事件を起こしてからでは遅いからです。婚約者の令嬢……わたくしの母ですね、母は格上の公爵家の令嬢ですよ? 家臣達は皆下位貴族です。下位貴族が公爵家の令嬢に無礼を働いたら……どうなると思います?」
「それは……かなり不味いかと」
貴族の頂点である公爵家と下位貴族では身分に天と地ほどの差がある。
公爵家の一声で下位貴族の家など簡単に潰せる。鼠が獅子に喧嘩を売るようなものだ。
「ですね、祖父の判断は正しかったと思いますよ。後から分かったことですが、家臣達は母を手籠めにする計画を企てていたようですから。未遂で済んで本当にようございましたわ」
「嘘だろう!? 公爵家の令嬢を? 正気とは思えない……」
「伯父が婚約者よりも家臣を優先し、彼等の言動を何でも許してきたから自分達の方が上だと勘違いしたのでしょうね。勿論彼等も伯父同様の罰を受けましたよ。……と、まあこのような実例があったので、わたくしは伯爵夫人の立場として長たる貴方に苦言を呈しているのでございます。家臣との距離感を間違えてはなりません、と。親しみやすい主君は大変結構にございますが、侮られることは駄目です。失礼ですが旦那様の幼馴染は既に距離感を誤っているご様子。主君の邸に気安く訪れることも、主君の妻であるわたくしに気軽に会おうとするなど本来あってはなりません」
「……………………」
「旦那様は先触れ無しに王太子殿下を訪ねることが出来ますか? 従兄妹であるわたくしの夫だから仲良くしたいと殿下に言えますか?」
「そんなの無理だ! 不敬にも程がある!」
「そうでしょう? つまりはそういうことですよ」
ぐうの音も出ないほどの正論。レイモンドはそのまま押し黙ってしまった。
だが、夫の表情にはまだ納得がいかないと書いてあることをシスティーナは見逃さない。
まだ反論の余地があるのか、と呆れながら夫の次の言葉を待った。
「え? いや……それは大袈裟ではないか?」
「大袈裟ではありません、ちゃんと実例がございます。わたくしの伯父は若かりし頃、昔馴染みだからと気安く接し、家臣に立場を弁えさせなかったせいで跡継ぎの座を剥奪されました。そうして跡継ぎの座も婚約者の令嬢も弟である我が父のものとなり、自身は何も持たぬ状態で平民へと落とされた挙句放逐されたそうです。今何処で何をしているかは不明です……」
「跡継ぎの座を剥奪!? 平民落ち? 君の伯父上は一体何をしてそんな目に!?」
「伯父の家臣……といっても当時は家臣の家の嫡男という立場ですね。彼等と伯父は対等というより馴れ合いに近い間柄だったそうで。それで何を勘違いしたのか伯父の婚約者の令嬢を見下すようになり、無礼な態度ばかりとるようになったとか。婚約者は苦言を呈したのですが、伯父が彼等を諫めることはなかったそうです。皆自分の大切な友だから、と大分寝惚けた発言を繰り返していたようで……」
自分と状況が似通っていることにドキッとした。
心臓がやけにバクバクと早鐘を打って痛い。
「そんなことを繰り返しているうちに周囲は伯父を“当主として相応しくない”と思うようになりました。家臣を制することも出来ないばかりか増長させるような人に当主が務まると思います?」
「思わない、です……」
「そうですよね。それは当時の当主である祖父もそう判断したようで、早々に跡継ぎの座を剥奪して放逐したらしいです」
「え!? それだけで? 何か事件を起こしたとかではなく、それだけで……?」
「事件を起こしてからでは遅いからです。婚約者の令嬢……わたくしの母ですね、母は格上の公爵家の令嬢ですよ? 家臣達は皆下位貴族です。下位貴族が公爵家の令嬢に無礼を働いたら……どうなると思います?」
「それは……かなり不味いかと」
貴族の頂点である公爵家と下位貴族では身分に天と地ほどの差がある。
公爵家の一声で下位貴族の家など簡単に潰せる。鼠が獅子に喧嘩を売るようなものだ。
「ですね、祖父の判断は正しかったと思いますよ。後から分かったことですが、家臣達は母を手籠めにする計画を企てていたようですから。未遂で済んで本当にようございましたわ」
「嘘だろう!? 公爵家の令嬢を? 正気とは思えない……」
「伯父が婚約者よりも家臣を優先し、彼等の言動を何でも許してきたから自分達の方が上だと勘違いしたのでしょうね。勿論彼等も伯父同様の罰を受けましたよ。……と、まあこのような実例があったので、わたくしは伯爵夫人の立場として長たる貴方に苦言を呈しているのでございます。家臣との距離感を間違えてはなりません、と。親しみやすい主君は大変結構にございますが、侮られることは駄目です。失礼ですが旦那様の幼馴染は既に距離感を誤っているご様子。主君の邸に気安く訪れることも、主君の妻であるわたくしに気軽に会おうとするなど本来あってはなりません」
「……………………」
「旦那様は先触れ無しに王太子殿下を訪ねることが出来ますか? 従兄妹であるわたくしの夫だから仲良くしたいと殿下に言えますか?」
「そんなの無理だ! 不敬にも程がある!」
「そうでしょう? つまりはそういうことですよ」
ぐうの音も出ないほどの正論。レイモンドはそのまま押し黙ってしまった。
だが、夫の表情にはまだ納得がいかないと書いてあることをシスティーナは見逃さない。
まだ反論の余地があるのか、と呆れながら夫の次の言葉を待った。
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