どうして許されると思ったの？

財力で殴る

　システィーナは国内最高峰の資産家ベロア家の財力と、王妃の外戚という権力を持つ高貴な存在である。というのは周知の事実だと思っていたのだが、どうやら目の前の二人はそれを忘れていたようだ。今気づくことじゃないだろうと内心呆れてしまう。

　予想していたことだが、やはりこの二人はシスティーナを舐めている。
　何をもって立場も身分も財力も上の人間を見下せるのか理解不能だ。

　こういった根拠のない自信を持ってこちらを見下してくる相手には財力を思う存分見せびらかして脅せ、と母から教わった。それに倣い、一目で高級品だと分かるドレスと宝石を身に着け、滅多に手に入らない希少品を手土産に持って行き財力を見せつけた。正直ここまでしないと分からない相手というのもまた希少な存在だ。大抵はベロア家の名を出すだけで震えあがるものなのに。

「ま、まあ……それは大変希少な品をありがとうございます」

「いいえ、喜んでいただけたようで何よりです」

　にっこりと微笑んでやれば二人は苦虫を噛み潰したような顔を見せた。
　こんな簡単に心の内を表に出す貴婦人がいることに驚いてしまう。
　社交界でここまで分かり易い態度をとる貴族は見たことがない。

（フレン伯爵家に嫁いでからというもの、貴族の常識が通じない人にばかり会うわね。何なのかしら一体……）

　あの侍女長といい、幼馴染達といい、この子爵夫人といい、貴族の常識や当たり前の礼儀作法がまるで備わっていない。本当に貴族なのかと疑いたくなるほど基本的なことがなっていない。

　目の前の二人はまだ己の立場とシスティーナの敵に回ることがどういうことかを理解していないようだ。どうにかしてやり込めてやろうという無謀な勇気を持っていることは表情から察することが出来る。

　それにしても分からない。彼女達のその無謀な勇気はどこから湧いてくるのだろう？
　
　パメラの方は自分が“フレン伯爵の幼馴染”だから、という謎の特権意識を持っている。
　それのどの辺に優越感を抱けるのかを小一時間ほど問い詰めたくはあるが、彼女がシスティーナを見下す根拠はそれだと分かる。

　だが、ミスティ子爵夫人は何を根拠としてこちらを見下しているのだろうかさっぱり分からない。彼女は夫の幼馴染ではないし、身分もシスティーナより低い。実家が名家だとかそういうわけでもないのだ。なのに、この自信はどこからくるのだろう……。

「フレン伯爵夫人の生家は大富豪ですものね。その豊富な資産をもってフレン伯爵の妻という座を買ったのですね……？」

「はい？」

　ミスティ子爵夫人が物憂げに零した言葉にシスティーナは耳を疑った。
　フレン伯爵の妻の座を金で買った？　何を言っているんだろうこの人は……。

「伯爵様の妻になりたい方は大勢いますのよ？　それをお金で買い取るなんて、浅ましいとは思いませんの……？」

　いきなり訳の分からない発言をされてシスティーナは一瞬唖然としてしまった。
　何をどう考えればこういう発想に至るのか全く分からない。
　あまりにも見当違いの発言に思わず本音が零れてしまう。

「ミスティ子爵夫人、貴女……頭は大丈夫ですか？」

　頭が沸いているとしか思えない発言に婉曲な表現で遠回しに言うことも忘れ、つい直接的な口撃をかましてしまった。そんなことを言われると思っていなかったであろう夫人はポカンとした顔でこちらを見ていた。