どうして許されると思ったの?

わらびもち

文字の大きさ
34 / 136

誰も欲しがらないものに金を払うほどの価値があるとでも?

しおりを挟む
「なっ……失礼ではありませんこと!?」

「失礼はどちらかしら? 金でフレン伯爵夫人の座を得たなどと、何をどうしたらそんな考えに至るのかさっぱり分かりませんわ。だいたい、金を支払うほどの価値があると思って? 社交界で悪評が広まっているフレン伯爵の元へ嫁ぎたがる令嬢も、娘を嫁がせたいと思う家もありませんことよ」

 顔を真っ赤にして怒り出すミスティ子爵夫人に対して冷静に正論を返すシスティーナ。
 その目は完全に馬鹿を見るようなものだった。

「価値がないなんてそんな……伯爵様にも失礼よ!」

「事実ですし、旦那様もそれを十分理解なさっています。二度も奥方に離婚された殿方に嫁ぎたいと思います? それこそわたくしが嫁がなければ旦那様の元に三度目の花嫁が来ることはなかったでしょう。それくらい“フレン伯爵の妻”の座は社交界で忌避されているのですよ。に価値があると思って?」

「そんな……酷い、……」

 伯爵に問題があったわけではない? 
 どうして子爵夫人がそれを知っているのか、と疑問を抱いたが今はあえてそれを指摘しないことにした。それより今はこの意味不明な勘違いを正したい。

「たとえ離婚の原因がだったとしても、第三者から見れば二度も妻に逃げられた問題のある男としか思われません。社交界なんて足の引っ張り合いが常の世界なのですから、誰かの醜聞など面白おかしく広められてしまいます。わたくしが嫁ぐ前の旦那様の噂を知らないのですか?」

 外的要因という部分に一瞬ビクリと身を震わせる。その反応から夫と前妻との離婚の原因に彼女も何らかの形で関わっているのだと思えた。

「伯爵様の噂、ですか……? それって……」

 あれだけ広まっているレイモンドの噂を知らないことに驚く。
 本当に知らないのか、それとも知らないふりをしているのか。
 社交しているならば前者は考えにくいのだが……。

「妻に暴力を振るっていただとか、先代のように愛人を沢山抱えていただとか、隠し子が山のようにいるだとか、そんな事実無根の悪い噂です。言っておきますがこんなの序の口ですよ? もっと屈辱的な噂を面白おかしく話す方もいますからね?」

 先程まで顔を赤くして怒っていたのに、今や顔面蒼白となって絶句している。

「う、うそ……。伯爵様がそんな悪く言われているだなんて……」

「大分前からそうですけど、知らなかったのですか?」

「知らなかった……です。だって、離婚ぐらいでそんな……」

「ぐらい、ではありません。社交界は他者を蹴落とすことに命を懸けているような人の集まりです。だから醜聞は致命的なのですよ。それこそ金を払わねば新しい妻を得ることも叶わないほどフレン家の評判は低い。だからわたくしが金で“フレン伯爵の妻”の座を得たなど有り得ません」

 きっぱり言うと子爵夫人は唖然としていた。
 フレン家の評判が悪いことは社交界で周知の事実なのに、何故そこまで驚くのか。
 
(もしかして社交をしていないのかしら……)

 知らないふりをしているのかと思ったのだが、もしかすると彼女はほとんど社交をしていないのかもしれない。だが、貴族夫人が社交をしていないなんて信じがたいことだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

兄にいらないと言われたので勝手に幸せになります

毒島醜女
恋愛
モラハラ兄に追い出された先で待っていたのは、甘く幸せな生活でした。 侯爵令嬢ライラ・コーデルは、実家が平民出の聖女ミミを養子に迎えてから実の兄デイヴィッドから冷遇されていた。 家でも学園でも、デビュタントでも、兄はいつもミミを最優先する。 友人である王太子たちと一緒にミミを持ち上げてはライラを貶めている始末だ。 「ミミみたいな可愛い妹が欲しかった」 挙句の果てには兄が婚約を破棄した辺境伯家の元へ代わりに嫁がされることになった。 ベミリオン辺境伯の一家はそんなライラを温かく迎えてくれた。 「あなたの笑顔は、どんな宝石や星よりも綺麗に輝いています!」 兄の元婚約者の弟、ヒューゴは不器用ながらも優しい愛情をライラに与え、甘いお菓子で癒してくれた。 ライラは次第に笑顔を取り戻し、ベミリオン家で幸せになっていく。 王都で聖女が起こした騒動も知らずに……

継子いじめで糾弾されたけれど、義娘本人は離婚したら私についてくると言っています〜出戻り夫人の商売繁盛記〜

野生のイエネコ
恋愛
後妻として男爵家に嫁いだヴィオラは、継子いじめで糾弾され離婚を申し立てられた。 しかし当の義娘であるシャーロットは、親としてどうしようもない父よりも必要な教育を与えたヴィオラの味方。 義娘を連れて実家の商会に出戻ったヴィオラは、貴族での生活を通じて身につけた知恵で新しい服の開発をし、美形の義娘と息子は服飾モデルとして王都に流行の大旋風を引き起こす。 度々襲来してくる元夫の、借金の申込みやヨリを戻そうなどの言葉を躱しながら、事業に成功していくヴィオラ。 そんな中、伯爵家嫡男が、継子いじめの疑惑でヴィオラに近づいてきて? ※小説家になろうで「離婚したので幸せになります!〜出戻り夫人の商売繁盛記〜」として掲載しています。

戻る場所がなくなったようなので別人として生きます

しゃーりん
恋愛
医療院で目が覚めて、新聞を見ると自分が死んだ記事が載っていた。 子爵令嬢だったリアンヌは公爵令息ジョーダンから猛アプローチを受け、結婚していた。 しかし、結婚生活は幸せではなかった。嫌がらせを受ける日々。子供に会えない日々。 そしてとうとう攫われ、襲われ、森に捨てられたらしい。 見つかったという遺体が自分に似ていて死んだと思われたのか、別人とわかっていて死んだことにされたのか。 でももう夫の元に戻る必要はない。そのことにホッとした。 リアンヌは別人として新しい人生を生きることにするというお話です。

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

私を追い出した結果、飼っていた聖獣は誰にも懐かないようです

天宮有
恋愛
 子供の頃、男爵令嬢の私アミリア・ファグトは助けた小犬が聖獣と判明して、飼うことが決まる。  数年後――成長した聖獣は家を守ってくれて、私に一番懐いていた。  そんな私を妬んだ姉ラミダは「聖獣は私が拾って一番懐いている」と吹聴していたようで、姉は侯爵令息ケドスの婚約者になる。  どうやらラミダは聖獣が一番懐いていた私が邪魔なようで、追い出そうと目論んでいたようだ。  家族とゲドスはラミダの嘘を信じて、私を蔑み追い出そうとしていた。

三年の想いは小瓶の中に

月山 歩
恋愛
結婚三周年の記念日だと、邸の者達がお膳立てしてくれた二人だけのお祝いなのに、その中心で一人夫が帰らない現実を受け入れる。もう彼を諦める潮時かもしれない。だったらこれからは自分の人生を大切にしよう。アレシアは離縁も覚悟し、邸を出る。 ※こちらの作品は契約上、内容の変更は不可であることを、ご理解ください。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

処理中です...