どうして許されると思ったの?

わらびもち

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レイモンドの拒絶

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「レ、レイモンド様…………」

「名を呼ぶな! 貴女に私の名を呼ぶことを許可した覚えはない!」

 怒りのままにレイモンドは立ち上がり、一歩前に出る。その勢いに思わず夫人は一歩引かざるを得なかった。

 怒鳴った本人の息が荒く、肩が上下している。
 もはや言葉だけでは収まらない激情がその身体から溢れ出していた。

 恋しい相手から怒鳴られ、夫人はもう涙目で後ずさっていた。
 ここに入ったと同時に閉めたドアに背がぶつかると、拒むようにふるふると首を横に振る。

「そ、そんなに怒らないで? 怖いわ……」

「怖い? どちらが? 影から人を使って私の妻を追い詰め、離婚にまで追い込んだのは何処の誰だ? 何故そんな真似をした! 何故罪の無い妻を苦しめるような真似をしたんだ……!」

「ひっ……! だ、だって……許せなかったから……。私が貴方と結ばれなくて苦しんでいるのに、のうのうと妻の座に収まっているのが許せなかったの……」

「そんなことでか!? そんなことの為に私の妻達に嫌がらせを繰り返したのか? 気づかなかった私が一番悪いが……陰湿な真似をするような君達も最低だ!」

「っ……!」

 夫人の口から言葉にならない息が漏れる。
 指先が小刻みに震えていることに自分でも気づいていない。
 レイモンドの怒りの熱に焼かれるように目を逸らすこともできず、ただ怯えた瞳で見上げていた。

「……私は妻の苦しみに気づけなかった鈍感な自分を許せないが、君達のことも同じように許せない。君達は卑劣で、陰湿で、卑怯だ。心の底から軽蔑する。そんな君を妻に迎えることなど、一生有り得ない。私は君が……大嫌いだ」

「…………!!?」

 その言葉は彼女の胸に刃のように鋭く突き刺さった。
 
 目の前の景色が歪み、現実が形を失っていく。胸の奥から何かが崩れ始め、息をするのも苦しくなった。
 足に力が入らなくなり、彼女はまるで重力に負けるように膝から崩れ落ちる。
 まるで、感情の重みが身体を押しつぶしたかのように。
 指先が震え、冷たい地面の感触が現実であることを無言で告げる。

 愛する人からの拒絶に夫人は自分の中で何かが壊れていくのを感じた。

 レイモンドは彼女が膝をついたのを見ても構うことなく横をすり抜け、部屋から出ようとドアノブに手をかける。

「ま、まって……。まってください、レイモンド様……」

 夫人が必死に縋りつこうと手を伸ばすが、軽蔑の表情を隠しもしないレイモンドにすげなく振り払われた。

「二度と私の前に現れないでくれ。もう、顔も見たくない」

「っ…………!!」

 拒絶の言葉に夫人はショックのあまりその場で固まる。その目からは涙だけがとめどなく溢れていた。

 レイモンドはそんな彼女に構わずドアを開け、部屋から出て行く。
 バタン、とドアが閉まる音だけが室内に響き渡った。

「そんな……レイモンド様……」
 
 夫人はその場で泣き崩れた。もう誰もいない部屋の中、止まったような空気の中で子供のように泣きじゃくる彼女の声が響いていた。
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