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精神が不安定になる時期
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「王妃様はとても一途な方でして……。国王陛下を深く愛しておられるようでした。今の奥様のように……」
「ああ……確かに叔母様は政略で嫁いだとはいえ、陛下をとても愛していらっしゃるわよね」
完全な政略結婚だというのに国王夫妻はとても仲睦まじい。
国内では最も理想的な夫婦と謳われるほどだ。
「はい。それで……その、既婚者といえども陛下に近づく女性というのは当然存在するわけでして……。王妃様はそのような女性を……物理的に排除なさいました」
「物理的に……?」
「大丈夫です、相手は女性ですので平手打ち程度でございます。ただ、少々威力が強くはありましたが……」
「何も大丈夫じゃないわよね!?」
「表情だけは冷静であれば何をしてもいいと曲解された結果、そのような事態になってしまわれたのです。ただ……そのおかげで陛下に手出ししようとする女性はいなくなりました。無表情のまま暴力を振るう王妃様が恐ろしいと……」
「それは怖いわよ……。え、お待ちになって、まさか先生はわたくしが叔母様のようになると考えてらしたの……?」
「……はい、大変申し訳ございません。奥様には大変失礼なことをしてしまったと後悔しております。奥様と王妃様は性格も違うと理解してはいたのですが……どうもベロア家のお血筋の御方は皆お相手に一途な方ばかりですので、もしやと思ってしまいました……」
「いや、一途なのは認めるけど……流石に暴力は振るわないわよ?」
──あ、でも、そういえば以前夫の幼馴染に会わせようとした元侍女長を折檻しようとしたことがあったわ。やだ……もしかしてわたくしにも叔母様のように暴力的な部分が?
「ええ、奥様は思慮深い御方です。なので、特にこのことをお伝えしなくとも大丈夫だと勝手に判断してしまいました。大変申し訳ございません。今までずっと悩んでいらしたのですね……」
「今まで? ……いえ、そういえば悩みだしたのはここ最近かもしれないわ。それまでは特に気にもしていなかったのに……急にどうしてかしら?」
そういえばここ最近以前より気分の浮き沈みが激しくなってきたような気がする。
昔から感情の起伏はあまりない方だと思っていたのに……何故だろう。
「多分……今の奥様はお一人の体ではないからかと。妊娠中は精神が不安定になりますし、普段なら何とも思わないことでも悩むと聞きます」
「そうなの? それっていつまで続くのかしら……」
「個人差はありますが、子を産むまでは続くとお考え下さい。それまでは出来るだけ心安らかにお過ごしになるとよろしいかと。精神に負荷がかかりますとお体にも負担がかかってしまいますので」
「精神に負荷、ねえ……。今のところ、負荷と成り得るものが二つあるのよ」
「ならばその二つを排除いたしましょう。奥様の心身の健康は御子様の健康にも繋がります。負荷をかけるような者が近くにいてはなりません」
「ええ、ええ……その通りね。おかげで心が軽くなったわ。ありがとう、先生」
サリバン夫人は柔らかな笑みで「とんでもございません」と頷いた。
胸の奥に巣食っていた陰りがすうっと消えていく。今まで悩んでいたのが嘘のように晴れやかな気持ちになった。
穏やかな精神状態でいるためには、やはり早々にあの二人を処理せねばなるまい。
システィーナはいつもの余裕を取り戻し、早々に決着をつけることを決意するのだった。
「ああ……確かに叔母様は政略で嫁いだとはいえ、陛下をとても愛していらっしゃるわよね」
完全な政略結婚だというのに国王夫妻はとても仲睦まじい。
国内では最も理想的な夫婦と謳われるほどだ。
「はい。それで……その、既婚者といえども陛下に近づく女性というのは当然存在するわけでして……。王妃様はそのような女性を……物理的に排除なさいました」
「物理的に……?」
「大丈夫です、相手は女性ですので平手打ち程度でございます。ただ、少々威力が強くはありましたが……」
「何も大丈夫じゃないわよね!?」
「表情だけは冷静であれば何をしてもいいと曲解された結果、そのような事態になってしまわれたのです。ただ……そのおかげで陛下に手出ししようとする女性はいなくなりました。無表情のまま暴力を振るう王妃様が恐ろしいと……」
「それは怖いわよ……。え、お待ちになって、まさか先生はわたくしが叔母様のようになると考えてらしたの……?」
「……はい、大変申し訳ございません。奥様には大変失礼なことをしてしまったと後悔しております。奥様と王妃様は性格も違うと理解してはいたのですが……どうもベロア家のお血筋の御方は皆お相手に一途な方ばかりですので、もしやと思ってしまいました……」
「いや、一途なのは認めるけど……流石に暴力は振るわないわよ?」
──あ、でも、そういえば以前夫の幼馴染に会わせようとした元侍女長を折檻しようとしたことがあったわ。やだ……もしかしてわたくしにも叔母様のように暴力的な部分が?
「ええ、奥様は思慮深い御方です。なので、特にこのことをお伝えしなくとも大丈夫だと勝手に判断してしまいました。大変申し訳ございません。今までずっと悩んでいらしたのですね……」
「今まで? ……いえ、そういえば悩みだしたのはここ最近かもしれないわ。それまでは特に気にもしていなかったのに……急にどうしてかしら?」
そういえばここ最近以前より気分の浮き沈みが激しくなってきたような気がする。
昔から感情の起伏はあまりない方だと思っていたのに……何故だろう。
「多分……今の奥様はお一人の体ではないからかと。妊娠中は精神が不安定になりますし、普段なら何とも思わないことでも悩むと聞きます」
「そうなの? それっていつまで続くのかしら……」
「個人差はありますが、子を産むまでは続くとお考え下さい。それまでは出来るだけ心安らかにお過ごしになるとよろしいかと。精神に負荷がかかりますとお体にも負担がかかってしまいますので」
「精神に負荷、ねえ……。今のところ、負荷と成り得るものが二つあるのよ」
「ならばその二つを排除いたしましょう。奥様の心身の健康は御子様の健康にも繋がります。負荷をかけるような者が近くにいてはなりません」
「ええ、ええ……その通りね。おかげで心が軽くなったわ。ありがとう、先生」
サリバン夫人は柔らかな笑みで「とんでもございません」と頷いた。
胸の奥に巣食っていた陰りがすうっと消えていく。今まで悩んでいたのが嘘のように晴れやかな気持ちになった。
穏やかな精神状態でいるためには、やはり早々にあの二人を処理せねばなるまい。
システィーナはいつもの余裕を取り戻し、早々に決着をつけることを決意するのだった。
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