やり直すなら、貴方とは結婚しません

わらびもち

文字の大きさ
26 / 28

やり直し後の、幸せな結婚

しおりを挟む
「まあ……! とても綺麗よ、シャルロット……!」

「うむ、さすがは我が娘。まさに国一番の花嫁だ」

 よく晴れたこの日、私は花嫁衣裳に身を包んだ。
 
 一度目はやり直し前のデイビットと。
 早すぎる結婚、そして急で拵えた花嫁衣裳を身に着けた私を見て両親は不安に満ちた表情をしていたと記憶している。

 でも、やり直した後の、この二度目は違う。
 十分に準備期間を設けられた結婚、そして大公殿下がわざわざ王家御用達のサロンで仕立ててくださった豪華絢爛な花嫁衣裳。

 愛され、望まれ、大切にされ、幸福な気持ちに包まれて嫁ぐ。

 両親も私の幸せな花嫁姿を目にし、涙を滲ませて喜んでいる。

「お父様、お母様、今まで大切に育てていただきありがとうございます。私は……このローレン家に生まれ、とても幸せでしたわ」

 一度目の人生では分からなかった。自分がどれだけ恵まれた生活を送っていたのかを。

 デイビットに嫁ぎ、食べていくことがやっとな毎日を過ごす中、心の中で生家での生活に戻りたいと何度願ったことか……。

 食べる物にも、着る物にも困らず、身の回りのことを全て使用人がしてくれる生活の、なんと幸福なことか。
 それが当たり前すぎて気づかなかった。

 そして私はもう、あのような辛い生活を二度と送りたくない。

 あの頃はまだデイビットを愛していたから。そしてブルーギル伯爵夫人として誇りがあるから耐えられた。

 耐えて、耐えて、その結果……愛する人から侮辱される。
 到底幸せとは言えない私の一度目の結婚。

 やり直したからには、二度とあんな愚かな男とは結婚しない。

「……っ!! 必ず……幸せになるんだぞ……」

「ううっ……貴女と離れるのは寂しいわ。でも、必ず幸せになるのよ。辛いことがあればいつでも家を頼ってね……」

 私の言葉に両親は滲ませていた涙を床に零すほどに感極まる。

 そうしていると、白い礼装に身を包んだ大公殿下が私を迎えに来てくれて、両親は気を利かせて部屋を出た。

「シャルロット……! ああ、なんて美しいんだ! 貴女を妻に出来る私はこの世の誰よりも幸福な男だな!」

 大公殿下は私を見るなり目を輝かせて抱き締めた。

 これから自分の夫となる方が、着飾った自分を見てこんなに喜んでくれることが何より嬉しい。
 そして、この方の喜ぶ顔を見ると幸せな気持ちが満ちてくる。

 もう一度、誰かを愛せたことが嬉しい。
 そして愛した人が自分を愛して大切にしてくれることが幸せ。

「殿下……愛しております。貴女の妻になれて、私はこの世の誰よりも幸福な女ですわ……」

 そう告げる私にたまらなくなった殿下が口づけようとして、慌てた様子の侍従に止められる。

『花嫁の口紅がとれたらどうすんですか!?』と叱られ、シュンとなる殿下が可愛らしくて思わず笑みが零れた。

 そんな私に一人の侍女が近寄り、恭しく頭を下げた。

「お嬢様、ブーケでございます」

 侍女は花嫁が持つブーケを乗せた銀のトレイを渡しに差し出す。
 それを受取ろうとして、ふと彼女の容姿に目が釘付けになった。

(まあ……! 海のように綺麗な青い瞳に、空のように澄んだ青い髪……。なんて珍しい色なのかしら……!)

 名も知らぬ侍女は大公殿下の使用人だろうか?

 だが彼の邸でこんなに珍しい髪と瞳を持った侍女は見たことがない。
 それにこんな華やかな美貌、一度目にしたらきっと忘れられないはずだ。

 思わず見惚れていると、艶やかな笑みを浮かべたその侍女がそっと囁いた。

「おめでとうございます。どうぞ、末永くお幸せに……」
 
 色香に満ちた声が耳をくすぐる。
 その艶めいた囁きに頬が自然と赤くなり、思わず顔を下に向けた。

 だが不思議なことに、顔を上げた瞬間その侍女の姿は消えてしまった。

「あら………………?」

 周囲を見渡すと、やはりその侍女の姿はない。
 唖然とする私に大公殿下が声をかけてきた。

「ん? どうしたシャルロット? ……おお、そのブーケには珍しい花が使われているのだな」

「え? あ、これは……青い、薔薇……?」

 いつの間にか私の手に収まっていたブーケ。
 それには珍しい青い薔薇が使用されていた。

「青い薔薇とは初めて見た。この国で花嫁のブーケといえば幸福を運ぶ青い花が使われるが、それに薔薇を使用するとはな。式場も随分と気を利かせてくれたものだ」

「あ……、このブーケは式場で用意されたものなのですか?」

「うん、そうだ。ここは独自で温室を持っていてな、朝一番に咲いた瑞々しい花でブーケを拵えてくれるそうだ」

「まあ……では、この青い薔薇は式場の温室で栽培されたものなのですね。すごく瑞々しくて、形も綺麗だわ……」

 ではあの侍女は式場の従業員なのだろうか。
 私はぼんやりとそう考えた。

 後で思い返してみると、私や殿下のこの反応は少し変だ。
 王侯貴族である私達が検閲されたかも分からないブーケをそのまま受け取ることも、それを変だと思わないことも有り得ない。

 だけど私はこの時何故かこう思ったのだ。

 と。

 何の根拠もないただの直感でしかないのだが、何故かそれが正しく思えた。



「それでは行こう、私の花嫁」

「はい、殿下。いいえ……私の旦那様」

 夫となる愛しい方の手を取り、共に皆の待つ会場へと向かう。

 晴れやかで澄んだ青い空の下、陽の光のように眩い未来を思い描いて―――。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】え、別れましょう?

須木 水夏
恋愛
「実は他に好きな人が出来て」 「は?え?別れましょう?」 何言ってんだこいつ、とアリエットは目を瞬かせながらも。まあこちらも好きな訳では無いし都合がいいわ、と長年の婚約者(腐れ縁)だったディオルにお別れを申し出た。  ところがその出来事の裏側にはある双子が絡んでいて…?  だる絡みをしてくる美しい双子の兄妹(?)と、のんびりかつ冷静なアリエットのお話。   ※毎度ですが空想であり、架空のお話です。史実に全く関係ありません。 ヨーロッパの雰囲気出してますが、別物です。

王命を忘れた恋

須木 水夏
恋愛
『君はあの子よりも強いから』  そう言って貴方は私を見ることなく、この関係性を終わらせた。  強くいなければ、貴方のそばにいれなかったのに?貴方のそばにいる為に強くいたのに?  そんな痛む心を隠し。ユリアーナはただ静かに微笑むと、承知を告げた。

あなたなんて大嫌い

みおな
恋愛
 私の婚約者の侯爵子息は、義妹のことばかり優先して、私はいつも我慢ばかり強いられていました。  そんなある日、彼が幼馴染だと言い張る伯爵令嬢を抱きしめて愛を囁いているのを聞いてしまいます。  そうですか。 私の婚約者は、私以外の人ばかりが大切なのですね。  私はあなたのお財布ではありません。 あなたなんて大嫌い。

貴方が側妃を望んだのです

cyaru
恋愛
「君はそれでいいのか」王太子ハロルドは言った。 「えぇ。勿論ですわ」婚約者の公爵令嬢フランセアは答えた。 誠の愛に気がついたと言われたフランセアは微笑んで答えた。 ※2022年6月12日。一部書き足しました。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。  史実などに基づいたものではない事をご理解ください。 ※話の都合上、残酷な描写がありますがそれがざまぁなのかは受け取り方は人それぞれです。  表現的にどうかと思う回は冒頭に注意喚起を書き込むようにしますが有無は作者の判断です。 ※更新していくうえでタグは幾つか増えます。 ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

嘘をありがとう

七辻ゆゆ
恋愛
「まあ、なんて図々しいのでしょう」 おっとりとしていたはずの妻は、辛辣に言った。 「要するにあなた、貴族でいるために政略結婚はする。けれど女とは別れられない、ということですのね?」 妻は言う。女と別れなくてもいい、仕事と嘘をついて会いに行ってもいい。けれど。 「必ず私のところに帰ってきて、子どもをつくり、よい夫、よい父として振る舞いなさい。神に嘘をついたのだから、覚悟を決めて、その嘘を突き通しなさいませ」

【完結】私が貴方の元を去ったわけ

なか
恋愛
「貴方を……愛しておりました」  国の英雄であるレイクス。  彼の妻––リディアは、そんな言葉を残して去っていく。  離婚届けと、別れを告げる書置きを残された中。  妻であった彼女が突然去っていった理由を……   レイクスは、大きな後悔と、恥ずべき自らの行為を知っていく事となる。      ◇◇◇  プロローグ、エピローグを入れて全13話  完結まで執筆済みです。    久しぶりのショートショート。  懺悔をテーマに書いた作品です。  もしよろしければ、読んでくださると嬉しいです!

【完結】側妃は愛されるのをやめました

なか
恋愛
「君ではなく、彼女を正妃とする」  私は、貴方のためにこの国へと貢献してきた自負がある。  なのに……彼は。 「だが僕は、ラテシアを見捨てはしない。これから君には側妃になってもらうよ」  私のため。  そんな建前で……側妃へと下げる宣言をするのだ。    このような侮辱、恥を受けてなお……正妃を求めて抗議するか?  否。  そのような恥を晒す気は無い。 「承知いたしました。セリム陛下……私は側妃を受け入れます」  側妃を受けいれた私は、呼吸を挟まずに言葉を続ける。  今しがた決めた、たった一つの決意を込めて。 「ですが陛下。私はもう貴方を支える気はありません」  これから私は、『捨てられた妃』という汚名でなく、彼を『捨てた妃』となるために。  華々しく、私の人生を謳歌しよう。  全ては、廃妃となるために。    ◇◇◇  設定はゆるめです。  読んでくださると嬉しいです!

好きだと言ってくれたのに私は可愛くないんだそうです【完結】

須木 水夏
恋愛
 大好きな幼なじみ兼婚約者の伯爵令息、ロミオは、メアリーナではない人と恋をする。 メアリーナの初恋は、叶うこと無く終わってしまった。傷ついたメアリーナはロメオとの婚約を解消し距離を置くが、彼の事で心に傷を負い忘れられずにいた。どうにかして彼を忘れる為にメアが頼ったのは、友人達に誘われた夜会。最初は遊びでも良いのじゃないの、と焚き付けられて。 (そうね、新しい恋を見つけましょう。その方が手っ取り早いわ。) ※ご都合主義です。変な法律出てきます。ふわっとしてます。 ※ヒーローは変わってます。 ※主人公は無意識でざまぁする系です。 ※誤字脱字すみません。

処理中です...