58 / 86
ルナの報告
しおりを挟む
「そう、アニーがとうとう子供を産んだのね。しかも男児を……」
オーガスタ家の本邸では療養中のジュリアーナが密偵のルナより報告を受けていた。
まだ体が本調子ではなく、立つとふらつくのでベッドの上で体を起こした状態で聞いている。
「はい。しかもダニエルにそっくりの子だそうです」
元々アニーの専属メイドのような立場にいたルナはアニーが匿われている先にも顔を出すことが出来た。そこの使用人達から情報を仕入れ、それを全てジュリアーナの耳に届けている。
「当主にそっくりの男児ね……。平民の愛人との間に出来た子に継承権は無いとはいえ、跡目争いの火種になりそうな存在だわ」
愛する人が産んだ自分そっくりの男児となればダニエルは何が何でも跡継ぎに据えたくなるだろう。今後あの男がどういう行動に出るか考えただけで頭が痛くなる。
「それにしてもダニエルが少ししかアニーの元へ顔を出さないとは不思議ね。ルナの報告では四六時中傍を離れたがらないほど仲睦まじかったのでしょう? 本邸にもあまり戻っていないようだし……いったいどこで何をしているのかしら……」
「それが……他の密偵からの報告によると街で絹織物を見繕っているそうです」
「絹織物?」
「はい。異国の業者が取り扱っている店にわざわざ赴き、自ら吟味しているそうで……」
「わざわざ自分で? もしかして愛人への贈り物かしら……?」
「はい、おそらくは。女性が好む柄や色を選んでいたそうなので」
「そう……。呑気にそんなものを選んでいる場合ではないでしょうに……」
悠長にそんな物を見ている場合かと呆れてしまう。
ジュリアーナがここを経つ前にアニーと別れなければ当主の座を下ろされるというのに呑気なものだ。
「あの男は愛人と息子をどうするつもりなのかしら……」
別れるのなら手切れ金としてこれから住む家や纏まったお金くらいは渡すべきだが、そういったものを用意している様子はないらしい。まさか愛するアニーを無一文で放り出すなんて真似はしないとは思うが……そもそもそこまで執着している女を簡単に手放すだろうか。
一国の王女を簡単に犠牲にすることを躊躇わないほどダニエルはアニーに溺れている。
そんな男が当主の座を天秤にかけられたくらいで縁を切るとは考えにくい。
(なんだか嫌な予感がするわ……)
常人では考え付かないような愚策を後先考えず実行しようとするのがダニエルだ。
無能だが行動力はるという厄介な性格の持ち主は何をするか分からない。
一国の王女を愛人の産んだ子の母親に仕立てようなんて馬鹿な作戦を思いつくような男が、このまま大人しくしているとは思えない
「ダニエルは愛人と息子をしばらくあの邸に留めておくつもりです。今は乳母がつきっきりで二人の世話をしているようで」
「乳母? そんなのまで雇ったの?」
「いえ、赤ん坊の為に雇った乳母ではなく、ダニエルを育てた乳母です」
「ダニエルの? ああ……そういえばいたわね」
ここに来てから一度か二度顔を見かけたことがある。
一度目はまるで仇でも見るような鋭い形相だったのに、二度目はひどく怯えた表情ですぐに顔を逸らしていた。
「あら……でも、本邸の使用人を連れていくことはラティーシャ夫人が禁じていると聞いたけど?」
「はい、なので乳母は自ら辞職願を出したうえで愛人と赤ん坊の世話をしているそうです」
「ここを辞めてまで愛人達の世話を? 信じられないわ……」
「ええ、本当に。“オーガスタ家の使用人”という肩書が無くなれば別に愛人の世話をしようとも自由ですけど、普通そこまでしませんよね。まあでも……あの乳母はダニエル至上主義者ですし、ダニエルの為なら何でもするでしょうね」
「ダニエル至上主義者? ああ、例の執事のような人種なのね……」
ダニエルの周りには彼のやることなすこと全てを肯定し、彼こそが至上と唱えるような狂信者がいた。王女を相手に文句を言おうとしたあの執事同様に冷静な判断力を持ち合わせていない人種。貴族家の使用人という好条件の職を辞してまで愛人の世話を望んでするあたりまともじゃないと分かる。
オーガスタ家の本邸では療養中のジュリアーナが密偵のルナより報告を受けていた。
まだ体が本調子ではなく、立つとふらつくのでベッドの上で体を起こした状態で聞いている。
「はい。しかもダニエルにそっくりの子だそうです」
元々アニーの専属メイドのような立場にいたルナはアニーが匿われている先にも顔を出すことが出来た。そこの使用人達から情報を仕入れ、それを全てジュリアーナの耳に届けている。
「当主にそっくりの男児ね……。平民の愛人との間に出来た子に継承権は無いとはいえ、跡目争いの火種になりそうな存在だわ」
愛する人が産んだ自分そっくりの男児となればダニエルは何が何でも跡継ぎに据えたくなるだろう。今後あの男がどういう行動に出るか考えただけで頭が痛くなる。
「それにしてもダニエルが少ししかアニーの元へ顔を出さないとは不思議ね。ルナの報告では四六時中傍を離れたがらないほど仲睦まじかったのでしょう? 本邸にもあまり戻っていないようだし……いったいどこで何をしているのかしら……」
「それが……他の密偵からの報告によると街で絹織物を見繕っているそうです」
「絹織物?」
「はい。異国の業者が取り扱っている店にわざわざ赴き、自ら吟味しているそうで……」
「わざわざ自分で? もしかして愛人への贈り物かしら……?」
「はい、おそらくは。女性が好む柄や色を選んでいたそうなので」
「そう……。呑気にそんなものを選んでいる場合ではないでしょうに……」
悠長にそんな物を見ている場合かと呆れてしまう。
ジュリアーナがここを経つ前にアニーと別れなければ当主の座を下ろされるというのに呑気なものだ。
「あの男は愛人と息子をどうするつもりなのかしら……」
別れるのなら手切れ金としてこれから住む家や纏まったお金くらいは渡すべきだが、そういったものを用意している様子はないらしい。まさか愛するアニーを無一文で放り出すなんて真似はしないとは思うが……そもそもそこまで執着している女を簡単に手放すだろうか。
一国の王女を簡単に犠牲にすることを躊躇わないほどダニエルはアニーに溺れている。
そんな男が当主の座を天秤にかけられたくらいで縁を切るとは考えにくい。
(なんだか嫌な予感がするわ……)
常人では考え付かないような愚策を後先考えず実行しようとするのがダニエルだ。
無能だが行動力はるという厄介な性格の持ち主は何をするか分からない。
一国の王女を愛人の産んだ子の母親に仕立てようなんて馬鹿な作戦を思いつくような男が、このまま大人しくしているとは思えない
「ダニエルは愛人と息子をしばらくあの邸に留めておくつもりです。今は乳母がつきっきりで二人の世話をしているようで」
「乳母? そんなのまで雇ったの?」
「いえ、赤ん坊の為に雇った乳母ではなく、ダニエルを育てた乳母です」
「ダニエルの? ああ……そういえばいたわね」
ここに来てから一度か二度顔を見かけたことがある。
一度目はまるで仇でも見るような鋭い形相だったのに、二度目はひどく怯えた表情ですぐに顔を逸らしていた。
「あら……でも、本邸の使用人を連れていくことはラティーシャ夫人が禁じていると聞いたけど?」
「はい、なので乳母は自ら辞職願を出したうえで愛人と赤ん坊の世話をしているそうです」
「ここを辞めてまで愛人達の世話を? 信じられないわ……」
「ええ、本当に。“オーガスタ家の使用人”という肩書が無くなれば別に愛人の世話をしようとも自由ですけど、普通そこまでしませんよね。まあでも……あの乳母はダニエル至上主義者ですし、ダニエルの為なら何でもするでしょうね」
「ダニエル至上主義者? ああ、例の執事のような人種なのね……」
ダニエルの周りには彼のやることなすこと全てを肯定し、彼こそが至上と唱えるような狂信者がいた。王女を相手に文句を言おうとしたあの執事同様に冷静な判断力を持ち合わせていない人種。貴族家の使用人という好条件の職を辞してまで愛人の世話を望んでするあたりまともじゃないと分かる。
1,371
あなたにおすすめの小説
【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?
つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。
平民の我が家でいいのですか?
疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。
義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。
学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。
必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。
勉強嫌いの義妹。
この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。
両親に駄々をこねているようです。
私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。
しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。
なろう、カクヨム、にも公開中。
【完結】そんなに好きなら、そっちへ行けば?
雨雲レーダー
恋愛
侯爵令嬢クラリスは、王太子ユリウスから一方的に婚約破棄を告げられる。
理由は、平民の美少女リナリアに心を奪われたから。
クラリスはただ微笑み、こう返す。
「そんなに好きなら、そっちへ行けば?」
そうして物語は終わる……はずだった。
けれど、ここからすべてが狂い始める。
*完結まで予約投稿済みです。
*1日3回更新(7時・12時・18時)
【完結】元婚約者であって家族ではありません。もう赤の他人なんですよ?
つくも茄子
ファンタジー
私、ヘスティア・スタンリー公爵令嬢は今日長年の婚約者であったヴィラン・ヤルコポル伯爵子息と婚約解消をいたしました。理由?相手の不貞行為です。婿入りの分際で愛人を連れ込もうとしたのですから当然です。幼馴染で家族同然だった相手に裏切られてショックだというのに相手は斜め上の思考回路。は!?自分が次期公爵?何の冗談です?家から出て行かない?ここは私の家です!貴男はもう赤の他人なんです!
文句があるなら法廷で決着をつけようではありませんか!
結果は当然、公爵家の圧勝。ヤルコポル伯爵家は御家断絶で一家離散。主犯のヴィランは怪しい研究施設でモルモットとしいて短い生涯を終える……はずでした。なのに何故か薬の副作用で強靭化してしまった。化け物のような『力』を手にしたヴィランは王都を襲い私達一家もそのまま儚く……にはならなかった。
目を覚ましたら幼い自分の姿が……。
何故か十二歳に巻き戻っていたのです。
最悪な未来を回避するためにヴィランとの婚約解消を!と拳を握りしめるものの婚約は継続。仕方なくヴィランの再教育を伯爵家に依頼する事に。
そこから新たな事実が出てくるのですが……本当に婚約は解消できるのでしょうか?
他サイトにも公開中。
もう二度と、あなたの妻にはなりたくありません~死に戻った嫌われ令嬢は幸せになりたい~
桜百合
恋愛
旧題:もう二度と、あなたの妻にはなりたくありません〜死に戻りの人生は別の誰かと〜
★第18回恋愛小説大賞で大賞を受賞しました。応援・投票してくださり、本当にありがとうございました!
10/24にレジーナブックス様より書籍が発売されました。
現在コミカライズも進行中です。
「もしも人生をやり直せるのなら……もう二度と、あなたの妻にはなりたくありません」
コルドー公爵夫妻であるフローラとエドガーは、大恋愛の末に結ばれた相思相愛の二人であった。
しかしナターシャという子爵令嬢が現れた途端にエドガーは彼女を愛人として迎え、フローラの方には見向きもしなくなってしまう。
愛を失った人生を悲観したフローラは、ナターシャに毒を飲ませようとするが、逆に自分が毒を盛られて命を落とすことに。
だが死んだはずのフローラが目を覚ますとそこは実家の侯爵家。
どうやらエドガーと知り合う前に死に戻ったらしい。
もう二度とあのような辛い思いはしたくないフローラは、一度目の人生の失敗を生かしてエドガーとの結婚を避けようとする。
※完結したので感想欄を開けてます(お返事はゆっくりになるかもです…!)
独自の世界観ですので、設定など大目に見ていただけると助かります。
※誤字脱字報告もありがとうございます!
こちらでまとめてのお礼とさせていただきます。
「本当に僕の子供なのか検査して調べたい」子供と顔が似てないと責められ離婚と多額の慰謝料を請求された。
佐藤 美奈
恋愛
ソフィア伯爵令嬢は、公爵位を継いだ恋人で幼馴染のジャックと結婚して公爵夫人になった。何一つ不自由のない環境で誰もが羨むような生活をして、二人の子供に恵まれて幸福の絶頂期でもあった。
「長男は僕に似てるけど、次男の顔は全く似てないから病院で検査したい」
ある日、ジャックからそう言われてソフィアは、時間が止まったような気持ちで精神的な打撃を受けた。すぐに返す言葉が出てこなかった。この出来事がきっかけで仲睦まじい夫婦にひびが入り崩れ出していく。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。
ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。
彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。
「誰も、お前なんか必要としていない」
最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。
だけどそれも、意味のないことだったのだ。
彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。
なぜ時が戻ったのかは分からない。
それでも、ひとつだけ確かなことがある。
あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。
私は、私の生きたいように生きます。
両親に溺愛されて育った妹の顛末
葉柚
恋愛
皇太子妃になるためにと厳しく育てられた私、エミリアとは違い、本来私に与えられるはずだった両親からの愛までも注ぎ込まれて溺愛され育てられた妹のオフィーリア。
オフィーリアは両親からの過剰な愛を受けて愛らしく育ったが、過剰な愛を受けて育ったために次第に世界は自分のためにあると勘違いするようになってしまい……。
「お姉さまはずるいわ。皇太子妃になっていずれはこの国の妃になるのでしょう?」
「私も、この国の頂点に立つ女性になりたいわ。」
「ねえ、お姉さま。私の方が皇太子妃に相応しいと思うの。代わってくださらない?」
妹の要求は徐々にエスカレートしていき、最後には……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる