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ルナの報告
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「そう、アニーがとうとう子供を産んだのね。しかも男児を……」
オーガスタ家の本邸では療養中のジュリアーナが密偵のルナより報告を受けていた。
まだ体が本調子ではなく、立つとふらつくのでベッドの上で体を起こした状態で聞いている。
「はい。しかもダニエルにそっくりの子だそうです」
元々アニーの専属メイドのような立場にいたルナはアニーが匿われている先にも顔を出すことが出来た。そこの使用人達から情報を仕入れ、それを全てジュリアーナの耳に届けている。
「当主にそっくりの男児ね……。平民の愛人との間に出来た子に継承権は無いとはいえ、跡目争いの火種になりそうな存在だわ」
愛する人が産んだ自分そっくりの男児となればダニエルは何が何でも跡継ぎに据えたくなるだろう。今後あの男がどういう行動に出るか考えただけで頭が痛くなる。
「それにしてもダニエルが少ししかアニーの元へ顔を出さないとは不思議ね。ルナの報告では四六時中傍を離れたがらないほど仲睦まじかったのでしょう? 本邸にもあまり戻っていないようだし……いったいどこで何をしているのかしら……」
「それが……他の密偵からの報告によると街で絹織物を見繕っているそうです」
「絹織物?」
「はい。異国の業者が取り扱っている店にわざわざ赴き、自ら吟味しているそうで……」
「わざわざ自分で? もしかして愛人への贈り物かしら……?」
「はい、おそらくは。女性が好む柄や色を選んでいたそうなので」
「そう……。呑気にそんなものを選んでいる場合ではないでしょうに……」
悠長にそんな物を見ている場合かと呆れてしまう。
ジュリアーナがここを経つ前にアニーと別れなければ当主の座を下ろされるというのに呑気なものだ。
「あの男は愛人と息子をどうするつもりなのかしら……」
別れるのなら手切れ金としてこれから住む家や纏まったお金くらいは渡すべきだが、そういったものを用意している様子はないらしい。まさか愛するアニーを無一文で放り出すなんて真似はしないとは思うが……そもそもそこまで執着している女を簡単に手放すだろうか。
一国の王女を簡単に犠牲にすることを躊躇わないほどダニエルはアニーに溺れている。
そんな男が当主の座を天秤にかけられたくらいで縁を切るとは考えにくい。
(なんだか嫌な予感がするわ……)
常人では考え付かないような愚策を後先考えず実行しようとするのがダニエルだ。
無能だが行動力はるという厄介な性格の持ち主は何をするか分からない。
一国の王女を愛人の産んだ子の母親に仕立てようなんて馬鹿な作戦を思いつくような男が、このまま大人しくしているとは思えない
「ダニエルは愛人と息子をしばらくあの邸に留めておくつもりです。今は乳母がつきっきりで二人の世話をしているようで」
「乳母? そんなのまで雇ったの?」
「いえ、赤ん坊の為に雇った乳母ではなく、ダニエルを育てた乳母です」
「ダニエルの? ああ……そういえばいたわね」
ここに来てから一度か二度顔を見かけたことがある。
一度目はまるで仇でも見るような鋭い形相だったのに、二度目はひどく怯えた表情ですぐに顔を逸らしていた。
「あら……でも、本邸の使用人を連れていくことはラティーシャ夫人が禁じていると聞いたけど?」
「はい、なので乳母は自ら辞職願を出したうえで愛人と赤ん坊の世話をしているそうです」
「ここを辞めてまで愛人達の世話を? 信じられないわ……」
「ええ、本当に。“オーガスタ家の使用人”という肩書が無くなれば別に愛人の世話をしようとも自由ですけど、普通そこまでしませんよね。まあでも……あの乳母はダニエル至上主義者ですし、ダニエルの為なら何でもするでしょうね」
「ダニエル至上主義者? ああ、例の執事のような人種なのね……」
ダニエルの周りには彼のやることなすこと全てを肯定し、彼こそが至上と唱えるような狂信者がいた。王女を相手に文句を言おうとしたあの執事同様に冷静な判断力を持ち合わせていない人種。貴族家の使用人という好条件の職を辞してまで愛人の世話を望んでするあたりまともじゃないと分かる。
オーガスタ家の本邸では療養中のジュリアーナが密偵のルナより報告を受けていた。
まだ体が本調子ではなく、立つとふらつくのでベッドの上で体を起こした状態で聞いている。
「はい。しかもダニエルにそっくりの子だそうです」
元々アニーの専属メイドのような立場にいたルナはアニーが匿われている先にも顔を出すことが出来た。そこの使用人達から情報を仕入れ、それを全てジュリアーナの耳に届けている。
「当主にそっくりの男児ね……。平民の愛人との間に出来た子に継承権は無いとはいえ、跡目争いの火種になりそうな存在だわ」
愛する人が産んだ自分そっくりの男児となればダニエルは何が何でも跡継ぎに据えたくなるだろう。今後あの男がどういう行動に出るか考えただけで頭が痛くなる。
「それにしてもダニエルが少ししかアニーの元へ顔を出さないとは不思議ね。ルナの報告では四六時中傍を離れたがらないほど仲睦まじかったのでしょう? 本邸にもあまり戻っていないようだし……いったいどこで何をしているのかしら……」
「それが……他の密偵からの報告によると街で絹織物を見繕っているそうです」
「絹織物?」
「はい。異国の業者が取り扱っている店にわざわざ赴き、自ら吟味しているそうで……」
「わざわざ自分で? もしかして愛人への贈り物かしら……?」
「はい、おそらくは。女性が好む柄や色を選んでいたそうなので」
「そう……。呑気にそんなものを選んでいる場合ではないでしょうに……」
悠長にそんな物を見ている場合かと呆れてしまう。
ジュリアーナがここを経つ前にアニーと別れなければ当主の座を下ろされるというのに呑気なものだ。
「あの男は愛人と息子をどうするつもりなのかしら……」
別れるのなら手切れ金としてこれから住む家や纏まったお金くらいは渡すべきだが、そういったものを用意している様子はないらしい。まさか愛するアニーを無一文で放り出すなんて真似はしないとは思うが……そもそもそこまで執着している女を簡単に手放すだろうか。
一国の王女を簡単に犠牲にすることを躊躇わないほどダニエルはアニーに溺れている。
そんな男が当主の座を天秤にかけられたくらいで縁を切るとは考えにくい。
(なんだか嫌な予感がするわ……)
常人では考え付かないような愚策を後先考えず実行しようとするのがダニエルだ。
無能だが行動力はるという厄介な性格の持ち主は何をするか分からない。
一国の王女を愛人の産んだ子の母親に仕立てようなんて馬鹿な作戦を思いつくような男が、このまま大人しくしているとは思えない
「ダニエルは愛人と息子をしばらくあの邸に留めておくつもりです。今は乳母がつきっきりで二人の世話をしているようで」
「乳母? そんなのまで雇ったの?」
「いえ、赤ん坊の為に雇った乳母ではなく、ダニエルを育てた乳母です」
「ダニエルの? ああ……そういえばいたわね」
ここに来てから一度か二度顔を見かけたことがある。
一度目はまるで仇でも見るような鋭い形相だったのに、二度目はひどく怯えた表情ですぐに顔を逸らしていた。
「あら……でも、本邸の使用人を連れていくことはラティーシャ夫人が禁じていると聞いたけど?」
「はい、なので乳母は自ら辞職願を出したうえで愛人と赤ん坊の世話をしているそうです」
「ここを辞めてまで愛人達の世話を? 信じられないわ……」
「ええ、本当に。“オーガスタ家の使用人”という肩書が無くなれば別に愛人の世話をしようとも自由ですけど、普通そこまでしませんよね。まあでも……あの乳母はダニエル至上主義者ですし、ダニエルの為なら何でもするでしょうね」
「ダニエル至上主義者? ああ、例の執事のような人種なのね……」
ダニエルの周りには彼のやることなすこと全てを肯定し、彼こそが至上と唱えるような狂信者がいた。王女を相手に文句を言おうとしたあの執事同様に冷静な判断力を持ち合わせていない人種。貴族家の使用人という好条件の職を辞してまで愛人の世話を望んでするあたりまともじゃないと分かる。
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