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ランカ男爵の後悔②
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「お前は何ということをしてくれたんだっ!?」
邸内の玄関ホールにて、ランカ男爵は娘のビビの頬を打った。
邸中に響く男爵の金切り声に驚いた夫人は、慌てた様子で玄関ホールへと向かう。
「あなた、どうなさったの!?」
「どうもこうもない! この馬鹿娘がとんでもないことをしてくれたんだ!!」
「ビビが? 何をしたというの?」
「この馬鹿娘はよりにもよって、コンラッド侯爵家とヴィクトリア伯爵家の婚約を壊したんだ! ああ~もう、この家は終わりだ……」
膝から崩れ落ち、泣き始めた夫に妻はひどく困惑した。
大の男である夫がこんな子供のように泣くだなんてただ事じゃない。
夫の口から説明を聞くのを無理だと悟った夫人は、近くにいた家令に説明を求めた。
「いったい何があったの? ビビが婚約を壊したってどういうこと?」
「奥様……それが……」
男爵の傍にいた家令は事の次第をずっと聞いていた。そしてビビの口から出た説明もである。そんな家令の説明を聞いて、夫人の口からか細い悲鳴が上がる。
「そ、それじゃあ……夜会でビビがコンラッド侯爵子息にダンスを申し込んだことが原因で、子息とヴィクトリア伯爵令嬢の婚約が破棄されると?」
「ええ、そのようでして……」
「しかも……今日、何を血迷ったのかビビは面識のないヴィクトリア伯爵令嬢の邸にいきなり訪問したと? しかも、ひどい暴言まで吐いたと……?」
「ええ、左様です……」
男爵夫人は不意に足に力が入らなくなり、その場に膝をついた。
そして近くに蹲るビビを見つけ、激昂する。
「このっ……淫売が! 婚約者がいる令息に擦り寄っただけでなく、その婚約を壊したですって!?」
扇子で思い切りビビの頭を打ち、睨みつけた。
一度だけじゃおさまらず、何度も手を振り上げては打ち付ける。
「痛っ! お義母様、おやめください……」
「お黙り! お前なんぞに母なんて呼ばれとうないわ! 婚約者がいる令息に近づいてはならないと言ったはずでしょうが! しかも名門伯爵家の令嬢の婚約者に……お前はこの家を潰したいの?」
「知らなかったんです! エーミール様に婚約者がいるなんて……」
「嘘仰い! ならどうして伯爵令嬢に『そんなだから捨てられる』などという戯言をほざいたの!? 彼女が婚約者だと知っていた証拠じゃない!」
「そ、それは今日初めて知ったんです! エーミール様が『ベロニカと婚約破棄したくないから』って、『君の口から誤解を解いてくれ』って、仰るから……私……」
「誤解!? 誤解するようなことをしたというの? まさかコンラッド侯爵子息と男女の関係があるなんて言うんじゃないでしょうね?」
「それは違います! 私はただエーミール様とダンスをしただけで……。なのにベロニカ様が誤解してエーミール様と婚約破棄をするって言うから……、思い直してほしくて、私……」
「そうやって良い子ぶって……白々しい! お前はヴィクトリア伯爵令嬢の後釜に座りたかっただけでしょう!? だからコンラッド侯爵子息の口車に乗ってわざわざ邸まで行ったのよ! 一緒の馬車に乗っただなんて、令嬢の目にお前達はどう映ったでしょうね? きっと不貞をしている仲だと思うわよね? そしてコンラッド侯爵子息と令嬢の仲がこじれた隙を狙い、子息を落とすつもりだったのではなくて?」
夫人の指摘にビビは顔を真っ赤に染める。
その反応で夫人は図星だと確信した。
「ちっ……ちがいます! 私はそんなつもりじゃ……。それにベロニカ様に悪口言ってしまったのは、先にベロニカ様が私を馬鹿にしたから……」
「そんなの当然でしょう? 面識もない格下の令嬢がいきなり邸を訪れたのよ? しかも勝手に名前で呼んで……そんな非常識な女なぞ馬鹿にされて当然よ!」
「だ、だって、あの方、私のこと嘲笑ったんですよ? あんな性格の悪い人じゃエーミール様に相応しくないって思って……」
「相応しいかどうか決めるのはお前じゃありません! 婚約は家同士の契約なのよ? 高位貴族の契約を壊す行為をしたお前が、相応しいかどうかを決めるなんてどういうつもり? ああ……だから嫌だったのよ、こんな教育のなっていない山猿を家に迎え入れるのは! おかげで我が家は他家から目を付けられてしまうのよ? 高位貴族の婚約を壊した不届き者の娘がいる家だって!」
男爵令嬢ごときが伯爵家と侯爵家の婚約を壊したなんて世間に知られたら……。
「ああもう……こんな話が広まればランカ男爵家は終わりよ! ちょっとあなた! いつまでそうしているつもりですか!? 早く対処しないと大変なことになりますよ?」
夫人は蹲る男爵の背中を叩き、立つよう促す。
「対処と言っても……もう、どうすればいいか……」
「何を情けないことを仰っているんですか? まずはヴィクトリア伯爵家へ謝罪の手紙を! 慰謝料を支払うことも視野に入れねばなりません」
「謝罪……。そ、そうだな。お前の言う通りだ」
「それとコンラッド侯爵家にも謝罪文を。あちらは慰謝料と手切れ金を支払ってくれるそうなので、こちらもそれ以上は関わらぬようにしましょう。間違っても責任取ってビビと婚約しろなんて言ってはなりません」
「それは分かっている。そんな恥知らずなことなど言えるわけがないからな……。ビビは早々に嫁へ出そう。それと私達はしばらく社交を取りやめよう……少なくとも噂が収まるまでな」
エーミールとベロニカの婚約が破棄されることはまだ世間には知られていない。
今回ビビがエーミールの口から聞いたことで知ったのだ。
この婚約破棄が公になればランカ男爵家に非難が集中する。なのでそれが鎮まるまでは大人しくしておいた方がいいと男爵は判断した。
邸内の玄関ホールにて、ランカ男爵は娘のビビの頬を打った。
邸中に響く男爵の金切り声に驚いた夫人は、慌てた様子で玄関ホールへと向かう。
「あなた、どうなさったの!?」
「どうもこうもない! この馬鹿娘がとんでもないことをしてくれたんだ!!」
「ビビが? 何をしたというの?」
「この馬鹿娘はよりにもよって、コンラッド侯爵家とヴィクトリア伯爵家の婚約を壊したんだ! ああ~もう、この家は終わりだ……」
膝から崩れ落ち、泣き始めた夫に妻はひどく困惑した。
大の男である夫がこんな子供のように泣くだなんてただ事じゃない。
夫の口から説明を聞くのを無理だと悟った夫人は、近くにいた家令に説明を求めた。
「いったい何があったの? ビビが婚約を壊したってどういうこと?」
「奥様……それが……」
男爵の傍にいた家令は事の次第をずっと聞いていた。そしてビビの口から出た説明もである。そんな家令の説明を聞いて、夫人の口からか細い悲鳴が上がる。
「そ、それじゃあ……夜会でビビがコンラッド侯爵子息にダンスを申し込んだことが原因で、子息とヴィクトリア伯爵令嬢の婚約が破棄されると?」
「ええ、そのようでして……」
「しかも……今日、何を血迷ったのかビビは面識のないヴィクトリア伯爵令嬢の邸にいきなり訪問したと? しかも、ひどい暴言まで吐いたと……?」
「ええ、左様です……」
男爵夫人は不意に足に力が入らなくなり、その場に膝をついた。
そして近くに蹲るビビを見つけ、激昂する。
「このっ……淫売が! 婚約者がいる令息に擦り寄っただけでなく、その婚約を壊したですって!?」
扇子で思い切りビビの頭を打ち、睨みつけた。
一度だけじゃおさまらず、何度も手を振り上げては打ち付ける。
「痛っ! お義母様、おやめください……」
「お黙り! お前なんぞに母なんて呼ばれとうないわ! 婚約者がいる令息に近づいてはならないと言ったはずでしょうが! しかも名門伯爵家の令嬢の婚約者に……お前はこの家を潰したいの?」
「知らなかったんです! エーミール様に婚約者がいるなんて……」
「嘘仰い! ならどうして伯爵令嬢に『そんなだから捨てられる』などという戯言をほざいたの!? 彼女が婚約者だと知っていた証拠じゃない!」
「そ、それは今日初めて知ったんです! エーミール様が『ベロニカと婚約破棄したくないから』って、『君の口から誤解を解いてくれ』って、仰るから……私……」
「誤解!? 誤解するようなことをしたというの? まさかコンラッド侯爵子息と男女の関係があるなんて言うんじゃないでしょうね?」
「それは違います! 私はただエーミール様とダンスをしただけで……。なのにベロニカ様が誤解してエーミール様と婚約破棄をするって言うから……、思い直してほしくて、私……」
「そうやって良い子ぶって……白々しい! お前はヴィクトリア伯爵令嬢の後釜に座りたかっただけでしょう!? だからコンラッド侯爵子息の口車に乗ってわざわざ邸まで行ったのよ! 一緒の馬車に乗っただなんて、令嬢の目にお前達はどう映ったでしょうね? きっと不貞をしている仲だと思うわよね? そしてコンラッド侯爵子息と令嬢の仲がこじれた隙を狙い、子息を落とすつもりだったのではなくて?」
夫人の指摘にビビは顔を真っ赤に染める。
その反応で夫人は図星だと確信した。
「ちっ……ちがいます! 私はそんなつもりじゃ……。それにベロニカ様に悪口言ってしまったのは、先にベロニカ様が私を馬鹿にしたから……」
「そんなの当然でしょう? 面識もない格下の令嬢がいきなり邸を訪れたのよ? しかも勝手に名前で呼んで……そんな非常識な女なぞ馬鹿にされて当然よ!」
「だ、だって、あの方、私のこと嘲笑ったんですよ? あんな性格の悪い人じゃエーミール様に相応しくないって思って……」
「相応しいかどうか決めるのはお前じゃありません! 婚約は家同士の契約なのよ? 高位貴族の契約を壊す行為をしたお前が、相応しいかどうかを決めるなんてどういうつもり? ああ……だから嫌だったのよ、こんな教育のなっていない山猿を家に迎え入れるのは! おかげで我が家は他家から目を付けられてしまうのよ? 高位貴族の婚約を壊した不届き者の娘がいる家だって!」
男爵令嬢ごときが伯爵家と侯爵家の婚約を壊したなんて世間に知られたら……。
「ああもう……こんな話が広まればランカ男爵家は終わりよ! ちょっとあなた! いつまでそうしているつもりですか!? 早く対処しないと大変なことになりますよ?」
夫人は蹲る男爵の背中を叩き、立つよう促す。
「対処と言っても……もう、どうすればいいか……」
「何を情けないことを仰っているんですか? まずはヴィクトリア伯爵家へ謝罪の手紙を! 慰謝料を支払うことも視野に入れねばなりません」
「謝罪……。そ、そうだな。お前の言う通りだ」
「それとコンラッド侯爵家にも謝罪文を。あちらは慰謝料と手切れ金を支払ってくれるそうなので、こちらもそれ以上は関わらぬようにしましょう。間違っても責任取ってビビと婚約しろなんて言ってはなりません」
「それは分かっている。そんな恥知らずなことなど言えるわけがないからな……。ビビは早々に嫁へ出そう。それと私達はしばらく社交を取りやめよう……少なくとも噂が収まるまでな」
エーミールとベロニカの婚約が破棄されることはまだ世間には知られていない。
今回ビビがエーミールの口から聞いたことで知ったのだ。
この婚約破棄が公になればランカ男爵家に非難が集中する。なのでそれが鎮まるまでは大人しくしておいた方がいいと男爵は判断した。
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