茶番には付き合っていられません

わらびもち

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閑話 ヘレンのその後①

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「ん…………ここは?」

「お、やっと目覚めたかお姫さん。丁度いい、もうすぐ到着するからな」
 
 ヘレンが目を覚ますと髭面の男が声をかけてきた。
 まだぼうっとする頭で男の言葉に頷き、ヘレンは今の状況を把握しようとする。

(あれ……? 誰かしらこの人……。えっと……私は確か……そうだ、馬車に乗っていたらいきなり知らない男達が襲ってきて……)

 途端に目覚める前のことを思い出し、ヘレンは目の前にいる男が自分を襲った人物だと気づき叫びだした。

「キ……キャアアアアア! 誰か! 誰か、助けて! 誘拐、誘拐よ!!」

 甲高い声が響くも男は物ともせず、それどころか愉快そうに笑いだした。

「クッ……ハハッ! 威勢がいいお姫さんだ。いいね、それだけ元気があった方がいい」

「なっ、なんなのよ貴方! ここは何処!? 私をどうするつもり?」

「どうするかはすぐ分かる。ほら、着いたようだぞ」

 男がそう告げた途端、いきなり今自分がいる空間が揺れだした。
 その揺れと外から聞こえる馬の嘶きでここが馬車の中だと理解する。

「着いたって……何処に? あ、もしかして王宮?」

 楽観思考のヘレンは何故か見知らぬ男が自分を王宮へと送ってくれたのだと斜め上の解釈をしだした。
 男は「王宮? 何言ってんだ?」と首を傾げ、ヘレンの腕を掴んだ。

「いやっ!? 触らないで! 自分で降りられるわ!」

 またもやヘレンは男が自分を馬車から降ろすために乱暴なエスコートをしたのだと勘違いをした。男はそんな思考など理解できるわけもなく、自ら降りると言い出したヘレンにますます首を傾げた。

「……なんか、肝が据わったお姫さんだな。普通だとこういう状況下では降りたくないと騒いで抵抗するものなんだが……」

「? だって私を王宮まで送ってくれたのよね? だったら降りるわよ」

 襲われたことが頭から抜けてしまったのか、完全に男が自分を王宮へと送ってくれたと思い込んだ。
 元々思い込みが激しく人を疑わないヘレンは男が自分を危険な目に遭わせると微塵も思っていなかった。
 馬車を襲撃するような危険人物が安全なわけがないのに。

「あー……アンタちょっと頭が変なんだな。まあ、いい。暴れないなら手間が省ける」

 会話が成立していないことをそこまで気にすることなく男は先に馬車を降りた。
 続けてヘレンも馬車から出ようと扉の枠に手をかけ、そこから勢いよく飛び降りる。

「……は? 何だよその降り方……。まさかアンタ、貴族の令嬢じゃないのか?」

「え? 何、急に?」

 ヘレンは男の言葉の意味が分からず首を傾げる。

 男はヘレンが馬車から降りる姿を見て何故かがっかりしていた。

「あんな立派な馬車に乗っていたからてっきり貴族のお嬢様かと思ったのに……。平民じゃ価値が下がっちまう。うーん……まあ、黙っていれば分からないか。見目はいいしな。おい、お姫さん、ちょっと自分の身分については黙っていてくれねえか?」

「? え? 黙っているって……誰に?」

にいる派手な婆さんにだよ。貴族令嬢だって言っといた方がも良くなる。それがお前さんの為にもなるからな」

「は? 待遇? それにここって……」

 ここ、と言われた目の前の建物はヘレンが帰りたかった王宮ではなかった。
 そこはやけに派手な配色の看板と壁のいかがわしい雰囲気が漂う館。
 見渡せば周囲には他に建物はなく、この館だけがポツンと建っている。

「何、ここ? 王宮に送ってくれたんじゃなかったの?」

「お前は何を言ってんだ? いいから入るぞ」

 男が乱暴にヘレンの手を掴み館の方へと足を進める。
 痛い、離して、と騒ぐヘレンを気にすることなく館の扉へと手をかけた。

(え……何、ここ…………?)

 扉の向こうは異質な空間が広がっていた。
 どことなく淫靡さを感じさせる色使いの内装に、甘ったるい香りが広がる。
 何とも言えない嫌な空気を感じ取ったヘレンはその場で逃げ出したい衝動に駆られたが、男が手をしっかりと握っているためそれも叶わない。

 ヘレンの頬に嫌な汗がつたう。男に向かって声を掛けようとしたその時、どこからともなく派手な装いの老婆が彼等の前に現れた。

「なんだい、久しぶりじゃないか」

「よう、マダム! 相変わらず別嬪だな!」

「ふん、アンタも口が上手いのは相変わらずだね。で、その子はかい?」

 商品、と聞いてヘレンは驚愕した。
 何のことだかさっぱり分からないが、何か嫌な予感がする。

「話が早くていいねえ、その通りだよ。中々の上玉だろう? しかもだぜ」

 男の言葉にヘレンは違和感を覚えた。彼は先ほどヘレンを貴族令嬢ではないと見破っていたはずだ。なのにどうしてこんな嘘をつくのだろう……。

「嘘をつくんじゃないよ。馬車から飛び降りる令嬢が何処にいるのさ」

「え……何で知ってんだ?」

「そんなの見ていたからに決まっているだろう? 馬車の音が聞こえたから窓からずっと様子を見ていたんだよ。その娘がお前の手も借りず、豪快に馬車から飛び降りるところもね」

 老婆の返答に男は額を手で押さえ「あちゃ~見られちまったか」と嘆く。
 ヘレンは彼等の会話の意味が分からず困惑していた。

「まあ、確かに見目はいいけど……貴族令嬢じゃないならは落ちるよ。そうだね……これくらいになるかな」

 老婆が指を三本立てると男は慌て出した。

「金貨3枚!? おいおい、そりゃぼったくり過ぎだろう! ほら、髪も肌も艶がいいうえに手荒れもない! そこらの平民女より値がつくはずだろう!?」

「そうは言ってもねえ……。その娘、頭が悪そうじゃないか? それにな~んか厄介事を起こしそうな気がするんだよね……」

 女の勘とも言うべきものが働き、老婆はヘレンに訝し気な視線を送る。
 彼女の勘を当たっていた。ヘレンは王家を破滅へと導き、国を混乱へと陥れるキッカケとなった存在だ。それを彼女が知るはずもないのだが、ヘレンの顔を見ただけでその厄介さを感じ取っていた。

「おいおい……そりゃ言い掛かりってもんじゃないか? それに女が一つの場所に集まれば厄介事の一つや二つは起きるもんだろう?」

「まあ、そりゃそうだけど……。う~ん……」

 煮え切らない態度の老婆に男は「なあ、頼むよ~」と懇願する。
 そんな二人のやり取りを見ていたヘレンは思わず口を挟んだ。

「ねえ、貴方達いったい何の話をしているの? 商品とか買取金額とか……どうして私を見ながらそんな話をするの? 私を物じゃないわ。だからそんな話をするのはおかしいでしょう?」

 ヘレンの呑気な発言に男も老婆も驚愕の目を向けた。
 驚いて言葉も出ない男に代わり、老婆が呆れた表情でヘレンに声をかける。

「お嬢さん、アンタはここが何処か理解しているかい?」

「ここ? え? 貴女のお邸でしょう?」

「ああ……まあ、それは間違っちゃいないよ。ここはアタシが経営しているからね。でもただの邸じゃない。ここは、男に一夜の夢を売る場所だよ。そんでアンタはここへ売られてきたんだ。この男によってね」

「え…………娼館? 私が売られた? え…………?」

 未だ現状を理解していないヘレンに老婆が分かり易く説明をした。
 だが、それでも彼女はこの状況を分かっていないようにキョトンとした顔で首を傾げる。
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