茶番には付き合っていられません

わらびもち

文字の大きさ
68 / 87

見知った文字

しおりを挟む
「おっしゃる意味が分かりかねます。何故わたくしが陛下に会わねばいけませんの?」

「それは……陛下が貴女に会いたいと願っているからです」

「最期? え? どういうことでしょうか……」

 父により国王は北の塔に幽閉されたと聞いている。
 そしてこれからも寿命が尽きるまでそこで過ごしてもらうと。
 表向きは病気療養だからその処置が一番だろうと。
 だが、宰相の言い方はまるで国王がこれから亡くなるように聞こえる。

「貴女のお父君は陛下を生かしておくつもりです。寿命が尽きるまで北の塔へと幽閉しておくとおっしゃっていた。何故かと言いますと、万が一の為に王族の血は残しておいた方がいいとお考えだからです」

「そうですね……わたくしも父からそう聞いております」

「ええ、公爵閣下のおっしゃる事は正しい。今現在残っております王族は陛下を除けばルノール大公殿下のみ。アレクセイ殿下は……除外となりますね」

「あら? 宰相閣下は王妃殿下の不貞についてご存じでしたの?」

「……ああ、貴女様もご存じだったのですね。私は恥ずかしながら最近知りました。本来でしたら王妃様の一族ごと罪に問われるような事ではありますが……何せ当事者が亡くなっている為立証が出来ません。それに、国王の交代に伴う騒動でもはや有耶無耶となっておりますね。まあ、それはそれとして、出自に疑いがあるアレクセイ殿下は王族としては数えられません」

 アレクセイの外見は完全に王家の血を引いていると立証できるものではあるが、不貞をした妃の腹から生まれた王子の出自は疑われてしまうものか。まあ、たとえ王家の血を引いていたとしてもあんな愚物を玉座になんてつかせたくないが。

「話は戻りますが……私は陛下を生かしておくべきではないと考えております。王家の血を引く者は大公殿下の他に大公夫人が身籠っている御子様がいる。ならば陛下を残す必要性はない。このまま残しておけば後の火種となりましょう。その前に王族らしく潔く毒杯を煽って自決してもらう方がいい」

「……その話は分かりますけど、それでどうしてわたくしが陛下にお会いせねばなりませんの?」

 この話の流れのどこに私が必要となってくるのだろう?
 私が関わる部分が見当たらないのだが……。

「私が陛下に毒杯による自決を促しましたところ……最期の願いとして貴女様を二人で話がしたいとおおせでした。それが叶うのであれば潔く毒杯を頂戴すると。なのでこうしてお願いをしに参った次第でございます」

「は………………? 陛下が、わたくしに?」

「はい……。ご子息と王妃様の長年に対する貴女様への不義理を詫びたいと嘆いておられました。エルリアン嬢、どうか陛下の最期の願いを叶えてやってくださいませんか?」

(はあああ!? 嫌に決まっているでしょう! 何が“お詫び”よ“ そんなの絶対嘘に決まっているじゃない!)

 王命まで行使して私を自分の寝室へと連れ込もうとした変態がそんな殊勝な事を言うはずがない。そんなの建前で本音は何かよからぬことを企んでいるのだろう。

 宰相は純粋に国王が私へ詫びたいと信じているようだ。ピュアにもほどがある。

「……もしかして、その話は父も聞いておりますか?」

「え? ああ、はい、勿論です。ですが閣下は『その必要はない』と首を縦に振ろうとしません。なので、こうして直接貴女様にお願いをしに来た次第でございます」

 でしょうね。父親としては娘を厭らしい目で見るような男と二人きりになんてさせたくないでしょうよ。父もこんな話を私に聞かせたくないから黙っていたと思うよ。

 宰相って空気が読めない? いや……なんか顔を見るとかなり精神状態ギリギリだな。 
 もしかして正常な判断が出来ていない……?

「いえ、未婚の身で殿方と二人きりになるわけにはいきません。侍女をつけてよろしいのでしたら参りますけれど……」

「それが……陛下はご自分が頭を下げるところを貴女様以外に見られたくないと……。王族として臣下に頭を下げるという行為は本来ならば恥ずべきもの。どうか配慮して頂けませんか?」

 なんで私が配慮しなくちゃいけないのよ!? あの助平爺の恥なんて知らないよ!

「いえ……わたくしは帝国皇太子に望まれている身でもあります。万が一にも不貞を疑われるような真似は避けたいのです」

「そこを何とかお願いします! もう貴女様に懇願するしかないのです……」

 別にいいじゃん生かしておけば! なんかもう私情はさんでいない? そんなに国王を始末したいわけ?

「お願いします! 陛下は貴女様に危害を加える気などございません。ほら、こうやって謝罪文までしたためてくださいました。どうぞこれをお読みください」

 そう言って宰相はポケットから一枚の手紙を取り出し私に寄越してきた。
 
 私は内心「手紙で謝罪するならわざわざ会う必要ないじゃん……」と不貞腐れたが、手紙の中身を目にした途端、すぐに気が変わった。

「……陛下がこれを? 宰相閣下はこの中身を読まれました?」

「いえ、私は目を通しておりません。陛下が貴女様にだけ目を通すようにと」

「そうですか……。分かりました、こんなで書かれてしまってはご期待にそえるしかありませんね」

「おお……! それでは会ってくださるのですか!?」

「ええ、お望み通りにわたくし一人でお会い致しますわ」

 私の答えに喜ぶ宰相から目を逸らし、もう一度手紙へと向ける。
 何度見ても同じ。そこにはたったの一文しか書かれていない。

『ミシェル、?』

 ご丁寧とは言い難い汚い文字。
 しかもそれはこの世界の文字ではなく、使で書かれていたのだった……。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

婚約者を想うのをやめました

かぐや
恋愛
女性を侍らしてばかりの婚約者に私は宣言した。 「もうあなたを愛するのをやめますので、どうぞご自由に」 最初は婚約者も頷くが、彼女が自分の側にいることがなくなってから初めて色々なことに気づき始める。 *書籍化しました。応援してくださった読者様、ありがとうございます。

貴方が側妃を望んだのです

cyaru
恋愛
「君はそれでいいのか」王太子ハロルドは言った。 「えぇ。勿論ですわ」婚約者の公爵令嬢フランセアは答えた。 誠の愛に気がついたと言われたフランセアは微笑んで答えた。 ※2022年6月12日。一部書き足しました。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。  史実などに基づいたものではない事をご理解ください。 ※話の都合上、残酷な描写がありますがそれがざまぁなのかは受け取り方は人それぞれです。  表現的にどうかと思う回は冒頭に注意喚起を書き込むようにしますが有無は作者の判断です。 ※更新していくうえでタグは幾つか増えます。 ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話

甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。 王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。 その時、王子の元に一通の手紙が届いた。 そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。 王子は絶望感に苛まれ後悔をする。

結婚して5年、冷たい夫に離縁を申し立てたらみんなに止められています。

真田どんぐり
恋愛
ー5年前、ストレイ伯爵家の美しい令嬢、アルヴィラ・ストレイはアレンベル侯爵家の侯爵、ダリウス・アレンベルと結婚してアルヴィラ・アレンベルへとなった。 親同士に決められた政略結婚だったが、アルヴィラは旦那様とちゃんと愛し合ってやっていこうと決意していたのに……。 そんな決意を打ち砕くかのように旦那様の態度はずっと冷たかった。 (しかも私にだけ!!) 社交界に行っても、使用人の前でもどんな時でも冷たい態度を取られた私は周りの噂の恰好の的。 最初こそ我慢していたが、ある日、偶然旦那様とその幼馴染の不倫疑惑を耳にする。 (((こんな仕打ち、あんまりよーー!!))) 旦那様の態度にとうとう耐えられなくなった私は、ついに離縁を決意したーーーー。

【完結】旦那様の幼馴染が離婚しろと迫って来ましたが何故あなたの言いなりに離婚せねばなりませんの?

水月 潮
恋愛
フルール・ベルレアン侯爵令嬢は三ヶ月前にジュリアン・ブロワ公爵令息と結婚した。 ある日、フルールはジュリアンと共にブロワ公爵邸の薔薇園を散策していたら、二人の元へ使用人が慌ててやって来て、ジュリアンの幼馴染のキャシー・ボナリー子爵令嬢が訪問していると報告を受ける。 二人は応接室に向かうとそこでキャシーはとんでもない発言をする。 ジュリアンとキャシーは婚約者で、キャシーは両親の都合で数年間隣の国にいたが、やっとこの国に戻って来れたので、結婚しようとのこと。 ジュリアンはすかさずキャシーと婚約関係にあった事実はなく、もう既にフルールと結婚していると返答する。 「じゃあ、そのフルールとやらと離婚して私と再婚しなさい!」 ……あの? 何故あなたの言いなりに離婚しなくてはならないのかしら? 私達の結婚は政略的な要素も含んでいるのに、たかが子爵令嬢でしかないあなたにそれに口を挟む権利があるとでもいうのかしら? ※設定は緩いです 物語としてお楽しみ頂けたらと思います *HOTランキング1位(2021.7.13) 感謝です*.* 恋愛ランキング2位(2021.7.13)

愛想を尽かした女と尽かされた男

火野村志紀
恋愛
※全16話となります。 「そうですか。今まであなたに尽くしていた私は側妃扱いで、急に湧いて出てきた彼女が正妃だと? どうぞ、お好きになさって。その代わり私も好きにしますので」

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

処理中です...