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見知った文字
「おっしゃる意味が分かりかねます。何故わたくしが陛下に会わねばいけませんの?」
「それは……陛下が最期に貴女に会いたいと願っているからです」
「最期? え? どういうことでしょうか……」
父により国王は北の塔に幽閉されたと聞いている。
そしてこれからも寿命が尽きるまでそこで過ごしてもらうと。
表向きは病気療養だからその処置が一番だろうと。
だが、宰相の言い方はまるで国王がこれから亡くなるように聞こえる。
「貴女のお父君は陛下を生かしておくつもりです。寿命が尽きるまで北の塔へと幽閉しておくとおっしゃっていた。何故かと言いますと、万が一の為に王族の血は残しておいた方がいいとお考えだからです」
「そうですね……わたくしも父からそう聞いております」
「ええ、公爵閣下のおっしゃる事は正しい。今現在残っております王族は陛下を除けばルノール大公殿下のみ。アレクセイ殿下は……出自に疑いがあるので除外となりますね」
「あら? 宰相閣下は王妃殿下の不貞についてご存じでしたの?」
「……ああ、貴女様もご存じだったのですね。私は恥ずかしながら最近知りました。本来でしたら王妃様の一族ごと罪に問われるような事ではありますが……何せ当事者が亡くなっている為立証が出来ません。それに、国王の交代に伴う騒動でもはや有耶無耶となっておりますね。まあ、それはそれとして、出自に疑いがあるアレクセイ殿下は王族としては数えられません」
アレクセイの外見は完全に王家の血を引いていると立証できるものではあるが、不貞をした妃の腹から生まれた王子の出自は疑われてしまうものか。まあ、たとえ王家の血を引いていたとしてもあんな愚物を玉座になんてつかせたくないが。
「話は戻りますが……私は陛下を生かしておくべきではないと考えております。王家の血を引く者は大公殿下の他に大公夫人が身籠っている御子様がいる。ならば陛下を残す必要性はない。このまま残しておけば後の火種となりましょう。その前に王族らしく潔く毒杯を煽って自決してもらう方がいい」
「……その話は分かりますけど、それでどうしてわたくしが陛下にお会いせねばなりませんの?」
この話の流れのどこに私が必要となってくるのだろう?
私が関わる部分が見当たらないのだが……。
「私が陛下に毒杯による自決を促しましたところ……最期の願いとして貴女様を二人で話がしたいとおおせでした。それが叶うのであれば潔く毒杯を頂戴すると。なのでこうしてお願いをしに参った次第でございます」
「は………………? 陛下が、わたくしに?」
「はい……。ご子息と王妃様の長年に対する貴女様への不義理を詫びたいと嘆いておられました。エルリアン嬢、どうか陛下の最期の願いを叶えてやってくださいませんか?」
(はあああ!? 嫌に決まっているでしょう! 何が“お詫び”よ“ そんなの絶対嘘に決まっているじゃない!)
王命まで行使して私を自分の寝室へと連れ込もうとした変態がそんな殊勝な事を言うはずがない。そんなの建前で本音は何かよからぬことを企んでいるのだろう。
宰相は純粋に国王が私へ詫びたいと信じているようだ。ピュアにもほどがある。
「……もしかして、その話は父も聞いておりますか?」
「え? ああ、はい、勿論です。ですが閣下は『その必要はない』と首を縦に振ろうとしません。なので、こうして直接貴女様にお願いをしに来た次第でございます」
でしょうね。父親としては娘を厭らしい目で見るような男と二人きりになんてさせたくないでしょうよ。父もこんな話を私に聞かせたくないから黙っていたと思うよ。
宰相って空気が読めない? いや……なんか顔を見るとかなり精神状態ギリギリだな。
もしかして正常な判断が出来ていない……?
「いえ、未婚の身で殿方と二人きりになるわけにはいきません。侍女をつけてよろしいのでしたら参りますけれど……」
「それが……陛下はご自分が頭を下げるところを貴女様以外に見られたくないと……。王族として臣下に頭を下げるという行為は本来ならば恥ずべきもの。どうか配慮して頂けませんか?」
なんで私が配慮しなくちゃいけないのよ!? あの助平爺の恥なんて知らないよ!
「いえ……わたくしは帝国皇太子に望まれている身でもあります。万が一にも不貞を疑われるような真似は避けたいのです」
「そこを何とかお願いします! もう貴女様に懇願するしかないのです……」
別にいいじゃん生かしておけば! なんかもう私情はさんでいない? そんなに国王を始末したいわけ?
「お願いします! 陛下は貴女様に危害を加える気などございません。ほら、こうやって謝罪文までしたためてくださいました。どうぞこれをお読みください」
そう言って宰相はポケットから一枚の手紙を取り出し私に寄越してきた。
私は内心「手紙で謝罪するならわざわざ会う必要ないじゃん……」と不貞腐れたが、手紙の中身を目にした途端、すぐに気が変わった。
「……陛下がこれを? 宰相閣下はこの中身を読まれました?」
「いえ、私は目を通しておりません。陛下が貴女様にだけ目を通すようにと」
「そうですか……。分かりました、こんなご丁寧な文字で書かれてしまってはご期待にそえるしかありませんね」
「おお……! それでは会ってくださるのですか!?」
「ええ、お望み通りにわたくし一人でお会い致しますわ」
私の答えに喜ぶ宰相から目を逸らし、もう一度手紙へと向ける。
何度見ても同じ。そこにはたったの一文しか書かれていない。
『ミシェル、お前も転生者なんだろう?』
ご丁寧とは言い難い汚い文字。
しかもそれはこの世界の文字ではなく、前世で使用した文字で書かれていたのだった……。
「それは……陛下が最期に貴女に会いたいと願っているからです」
「最期? え? どういうことでしょうか……」
父により国王は北の塔に幽閉されたと聞いている。
そしてこれからも寿命が尽きるまでそこで過ごしてもらうと。
表向きは病気療養だからその処置が一番だろうと。
だが、宰相の言い方はまるで国王がこれから亡くなるように聞こえる。
「貴女のお父君は陛下を生かしておくつもりです。寿命が尽きるまで北の塔へと幽閉しておくとおっしゃっていた。何故かと言いますと、万が一の為に王族の血は残しておいた方がいいとお考えだからです」
「そうですね……わたくしも父からそう聞いております」
「ええ、公爵閣下のおっしゃる事は正しい。今現在残っております王族は陛下を除けばルノール大公殿下のみ。アレクセイ殿下は……出自に疑いがあるので除外となりますね」
「あら? 宰相閣下は王妃殿下の不貞についてご存じでしたの?」
「……ああ、貴女様もご存じだったのですね。私は恥ずかしながら最近知りました。本来でしたら王妃様の一族ごと罪に問われるような事ではありますが……何せ当事者が亡くなっている為立証が出来ません。それに、国王の交代に伴う騒動でもはや有耶無耶となっておりますね。まあ、それはそれとして、出自に疑いがあるアレクセイ殿下は王族としては数えられません」
アレクセイの外見は完全に王家の血を引いていると立証できるものではあるが、不貞をした妃の腹から生まれた王子の出自は疑われてしまうものか。まあ、たとえ王家の血を引いていたとしてもあんな愚物を玉座になんてつかせたくないが。
「話は戻りますが……私は陛下を生かしておくべきではないと考えております。王家の血を引く者は大公殿下の他に大公夫人が身籠っている御子様がいる。ならば陛下を残す必要性はない。このまま残しておけば後の火種となりましょう。その前に王族らしく潔く毒杯を煽って自決してもらう方がいい」
「……その話は分かりますけど、それでどうしてわたくしが陛下にお会いせねばなりませんの?」
この話の流れのどこに私が必要となってくるのだろう?
私が関わる部分が見当たらないのだが……。
「私が陛下に毒杯による自決を促しましたところ……最期の願いとして貴女様を二人で話がしたいとおおせでした。それが叶うのであれば潔く毒杯を頂戴すると。なのでこうしてお願いをしに参った次第でございます」
「は………………? 陛下が、わたくしに?」
「はい……。ご子息と王妃様の長年に対する貴女様への不義理を詫びたいと嘆いておられました。エルリアン嬢、どうか陛下の最期の願いを叶えてやってくださいませんか?」
(はあああ!? 嫌に決まっているでしょう! 何が“お詫び”よ“ そんなの絶対嘘に決まっているじゃない!)
王命まで行使して私を自分の寝室へと連れ込もうとした変態がそんな殊勝な事を言うはずがない。そんなの建前で本音は何かよからぬことを企んでいるのだろう。
宰相は純粋に国王が私へ詫びたいと信じているようだ。ピュアにもほどがある。
「……もしかして、その話は父も聞いておりますか?」
「え? ああ、はい、勿論です。ですが閣下は『その必要はない』と首を縦に振ろうとしません。なので、こうして直接貴女様にお願いをしに来た次第でございます」
でしょうね。父親としては娘を厭らしい目で見るような男と二人きりになんてさせたくないでしょうよ。父もこんな話を私に聞かせたくないから黙っていたと思うよ。
宰相って空気が読めない? いや……なんか顔を見るとかなり精神状態ギリギリだな。
もしかして正常な判断が出来ていない……?
「いえ、未婚の身で殿方と二人きりになるわけにはいきません。侍女をつけてよろしいのでしたら参りますけれど……」
「それが……陛下はご自分が頭を下げるところを貴女様以外に見られたくないと……。王族として臣下に頭を下げるという行為は本来ならば恥ずべきもの。どうか配慮して頂けませんか?」
なんで私が配慮しなくちゃいけないのよ!? あの助平爺の恥なんて知らないよ!
「いえ……わたくしは帝国皇太子に望まれている身でもあります。万が一にも不貞を疑われるような真似は避けたいのです」
「そこを何とかお願いします! もう貴女様に懇願するしかないのです……」
別にいいじゃん生かしておけば! なんかもう私情はさんでいない? そんなに国王を始末したいわけ?
「お願いします! 陛下は貴女様に危害を加える気などございません。ほら、こうやって謝罪文までしたためてくださいました。どうぞこれをお読みください」
そう言って宰相はポケットから一枚の手紙を取り出し私に寄越してきた。
私は内心「手紙で謝罪するならわざわざ会う必要ないじゃん……」と不貞腐れたが、手紙の中身を目にした途端、すぐに気が変わった。
「……陛下がこれを? 宰相閣下はこの中身を読まれました?」
「いえ、私は目を通しておりません。陛下が貴女様にだけ目を通すようにと」
「そうですか……。分かりました、こんなご丁寧な文字で書かれてしまってはご期待にそえるしかありませんね」
「おお……! それでは会ってくださるのですか!?」
「ええ、お望み通りにわたくし一人でお会い致しますわ」
私の答えに喜ぶ宰相から目を逸らし、もう一度手紙へと向ける。
何度見ても同じ。そこにはたったの一文しか書かれていない。
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