王妃となったアンゼリカ

わらびもち

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王太子の再教育②

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「どいつもこいつも馬鹿にしおって……!」

 授業を抜け出した王太子は怒りに満ちた表情で回廊を歩いていた。

「殿下、お待ちください! どうか授業にお戻りを」

 王太子付きの侍従が彼の後に続き苦言を述べる。側近のいなくなった王太子にはもう侍従しか付き添う者がいない。

「うるさい! あんな子供が受けるような授業などやってられるか!」

「それを受けるように命じたのは国王陛下です。陛下が何故子供向けの授業を殿下に受けるよう命じられたかを、よくご理解ください」

 冷静にそう告げる侍従を王太子は睨みつけた。

「お前は従者のくせに何故私の気持ちを慮ろうとしないのだ!? 偉そうに説教をするなど何様のつもりだ!」

「……殿下、その言葉そっくりそのままお返しします。殿下はもっと陛下の気持ちを慮るべきです。陛下が殿下を王太子の座に留めて置くためにどれほど苦労なさっているか……それを理解してください」

「何を馬鹿な事を言っている? 王太子の座に留めて置くだと? 私以外に王太子が務まる者など存在しない!」

「……それ、本気で仰っています? 殿下以外にも王位継承権をお持ちの方がいらっしゃることはご存じでしょう?」

「それくらい知っている! だが、継承権第一位であるのも、正当な王家の血を継ぐのも私だけだ。私が一番次代の王に相応しい」

「……ご身分と出自だけでは王にはなれません。少なくとも婚約者のグリフォン公爵令嬢にお認め頂けるようになりませんと……」

「ちょっと待て、どうしてここであの女の名が出てくる?」

 いかにグリフォン公爵家が王家に出資をしているとはいえ、次代の王を決める権利などない。王太子は侍従に対して「何を馬鹿な事を」と蔑んだ視線を送るも、同じような視線を返された。

「それも本気で仰っていますか? グリフォン公爵令嬢は未来の王妃ですよ?」

「お前こそ何を言っている!? 未来の王妃だから何だ!」

 激高する王太子に侍従は「分かってねえなあ……」と言わんばかりの顔を見せてため息をついた。

。それをご理解ください」

「何て不敬な! 貴様! 王位を何だと思っている!?」

「殿下こそグリフォン公爵令嬢を何だと思っていらっしゃるのですか……? その認識を改めない限り、ご自分の首を絞めることになりますよ?」

「何をふざけたことを抜かしておる! あの女には何の権利もない! どいつもこいつも馬鹿なことばかり……もういいっ!」

 顔を真っ赤に染めた王太子は回廊を駆け出した。後ろから侍従が「授業にお戻りください!」と叫ぶも振り返らずそのまま馬車止めまで走る。

「おい! 馬車を出せ!」

 馬車を収納する車庫の前でうたた寝をしていた馬丁に乱暴に命じると、馬丁はハッと目を覚ました。

「へっ……? 王太子殿下? どうしてここに……?」

 王侯貴族がこんな場所まで足を運ぶことは滅多にないため、急に現れた王太子に馬丁はひどく驚いた。そのうえ馬車を出すよう直接指示することなど有り得ない。

「ああ、いい。無駄な質問をするな。いいからさっさと馬車を出せ」

「は、はい……畏まりました! どちらまで行きましょうか?」

 本来、馬丁は王太子に直答できる身分ではないのだが、あちらから声を掛けられているのだからどうしようもない。急に現れた王太子を前に馬丁はオロオロと困惑していたのだが、行先を告げられると急にスンと真顔になった。

「……王太子殿下、申し訳ありませんがには行けません。そこへ行くことは陛下より禁じられておりますので……」

「は!? 何だと? どうして父上がへ行くことを禁じるのだ!」

 王太子が告げた行先はルルナのいるビット男爵家。
 荒んだ気持ちを愛しい人に癒してもらおうと思った矢先、そこに行けないと返されて王太子は益々怒り出した。

「いい! 私が許す! さっさと馬車を出せ!」

「ええ!? 陛下の命令ですよ? 勘弁してください……陛下の命を破るなんて、俺の首が飛んじまいます!」

「だから! この私が許すと言っているのだ! いいからさっさと馬車を出せ!」

「え!? 陛下の命令より王太子殿下の命令を優先しろと? 流石に馬鹿な俺でもそれはおかしいと分かりますよ?」

 何を言っても頑なに拒否する馬丁に痺れを切らした王太子は、車庫に併設されている馬小屋に目を付けた。

「もういい、馬を借りるぞ!」

「あっ、殿下! お待ちください!」

 馬丁が止める間もなく王太子は馬小屋にいる一頭の白馬に跨った。
 手持ちの短剣で馬を繋ぐ縄を切り、馬の尻を蹴ってその場から駆け出す。
 あまりにも突然の出来事に馬丁も馬の世話係も止めることが出来なかった。

「大変だ! すぐに報告しなきゃ……!」

 王太子が勝手に馬に乗って何処かに行ったなど、どう考えても大事件だ。
 馬丁はすぐさま王宮にいる上役に報告すべく走り出した。
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