ねこのフレンズ

楠乃小玉

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第二章

五話 しまった!これは孔明の罠だ!

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 その神社から西に進むと、大きなため池があり、その向こうに銀色に輝く巨大な鳥居があった。
 「うわ!大きい!予想した以上に大きいよ!」
 
 「この鳥居はチタン製なんだよ!日本最大級なんだよ!」
 
 チカンちゃんが言った。

 本当に天空にそそり立つ、すごい大きな鳥居だった。
 ドカンちゃんはそのあと、神社にも参拝したが、すごくエキゾチックで綺麗な神社だった。
 面白いのはあちこちに、大量の小さなだるまさんが置いてあること。
 不思議な感じがした。
 
 ここは一願成就の神社だそうで、
 戦前、この地域出身の部隊が、全員生きて帰ってきますように。
 とお祈りしたら、本当に全員帰ってきたという逸話があるそうだ。

 神社からの帰り道、茶店が建ち並んでおり、
 柏餅を売っていた。
 どうやら、柏餅が名物らしい。

 「ねえねえ、柏餅食べようよ、ドカンちゃん」
 チカンちゃんが自転車の横を歩きながら、ドカンちゃんのズボンの裾を
 ひっぱった。

 「さては、この柏餅が食べたいからこの神社に誘ったね?」
  ドカンちゃんがそう言うとチカンちゃんは頭をかきながら
 恥ずかしそうにペロリと舌を出した。
 「でへへ」

 「しかたないですね、食べましょうか」
 ニッコリ笑うドカンちゃん。
 「やったー!」
 チカンちゃんはピョンピョン跳ねた。

 柏餅にはこしあんとつぶあんがあって、
 ドカンちゃんはこしあん、チカンちゃんはつぶあんを買って
 割って二人ではんぶんこして食べた。

 「おいしいね」
 満面の笑みでドカンちゃんを見るチカンちゃん。
 そうだね。
 ニッコリと微笑み返すドカンちゃん。

 そこから一路、姫路を目指す。

 姫路の駅前につくと、北のほうに巨大な白が見えた。
 姫路城だ。
 「おっきいねー」
  ドカンちゃんが感嘆の声をあげる。
 「そうだねー」
 「でも、急いでるから先に行くよ。姫路城に寄ってると夜になっちゃうから」
 「うん、そうだね!」
 
 ドカンちゃんたちはそのまま西へ。

 姫路までは道が広かったが、姫路から相生方面に行く道は
 急に狭くなった。
 
 歩道がなくて白い線を引いているだけのところもあって、
 横を車がギュンギュン通ってドカンちゃんは少し怖かった。

 その狭い道を抜けると急に道が開けた。
 ドカンちゃんが標識を見る。
 「あ、相生の駅の近くまで来たんだね」
 「相生駅によってく?」
 「ダメだよ、ここで寄り道してたら今日中に岡山まで行けないよ」
 「そうだね」
 ドカンちゃんはそのまま相生駅の前を素通りして浜側に進路を取る。

 しばらく行くと、目の前にすごい中国風のお城みたいなハデな建物が目に入る。
 「うわー!すごーい!ここ入りたい!」
 チカンちゃんが興奮して自転車の前かごをガシガシ揺すった。
 「ダメだよ、急いでるから」
 
 その時である。

 ずん!

 と一人のネコ耳少女がドカンちゃんの自転車の前に立ちはだかった。
 何かヒョウ柄の派手な服装をしている。頭の髪の毛は焦げ茶で
 頭に三本の縦メッシュが入っている。

 「うわっ、危ない!」
 慌ててブレーキを踏むドカンちゃん。
 
 「危ないですよ、どいてください」
 
 少女は無言のまま首をブンブン横に振る。

 「どうやったら、どいてくれますか?」
 
 「牛乳大魔王の西瓜牛乳くれたらどく」

 「え?西瓜牛乳?買ってきますよ、どこに売ってるんですか?」
 「台湾」
 「そんなの買ってこれるわけないじゃないですか!」
 「でも牛乳は北海道製!」
 
 その時、チカンちゃんが叫ぶ。
 「でっかいどー!」
 「ほっかいどー!」
 女の子が返す。

 「それなら北海道牛乳買ってきますから、それで我慢してください」
 「高雄の西瓜もつけてくれたら我慢する」
 「わかりました、どこに売ってるんですか」
 「台湾」
 「だーかーらー!」

 なんかよく分からないその女の子は背中に丸いマンドリンのような楽器を背負っていた。
 それにドカンちゃんは気づく。
 「あの、その楽器みたいなのは何ですか」

 「ふっふっふっ、気づいてしまったのだね」
 そう言うと、女の子は背中から楽器を下ろす。
 「これは月琴!」
 女の子はその楽器を見せて言った。
 そのあと、おもむろに月琴を弾き始めた。
 

 「ベンベン!ベンガルのようでベンガルでない、ベンベン!
 ウンピョウのようでウンピョウでない、ベンベン!
 それは何かとたずねたら、石虎セキコ、石虎、石虎」

 「あ、セキコさんっていうんですか。それで、今気づいたんですけど、
 そこを通してくれないと、台湾にも行けませんよね」
 
 ドカンちゃんのその言葉を聞いてセキコはハッと目を見開いた。
 
 「しまった!これは孔明の罠だ!貴様、はかったな!」
 「いや、何もしてませんけど」
  
 「では妥協しよう。ここの白龍大王城で温泉に入っていったら
 ここを通してもいい」
 
 「ああ、ここ、温泉なんですね。そうですか、分かりました。
 本当は、私もここ入ってみたかったんですよね。急げば今日中に
 岡山につけますよ」
 「やったー!」
 チカンちゃんはピョンピョン跳ねて喜んだ。
 
 ドカンちゃんとチカンちゃんが温泉に入ると、セキコも一緒に温泉に入ってきた。
 服を着たまま温泉に入っている。
  
 「えー、服は脱ぎましょうよ」
 「え?これ脱げるの!?」
  セキコは驚いていた。
 というか服を着たままお風呂に入っても、セキコの服は濡れてなかった。
 「わーい!」
 チカンちゃんもお風呂に入ってきたが、服がぬれていない。
 ああ、そうか、霊体だから濡れないんだとドカンちゃんは解釈した。

 窓の外に海があり、その遠景に造船所がある。
 すごく綺麗な風景だった。
 「ふあ~っ、いい気持ち、来てよかった」
 ドカンちゃんはまったりした。

 「セキコさんありがとうございました。これでとてもいい気持ちになりました。
 相生にこんな良い処があるなんて知りませんでした」
 「ペーロン祭りはもっとおもしろいよ」
 セキコが言った。
 「そうなんですね、また機会があれば来たいと思います」
 ドカンちゃんは深々と頭を下げて自転車に乗った。

 セキコは返事もせずにボーッとその場に突っ立っている。

 しばらく自転車を走らせていると、ドカンちゃんが自転車の
 前かごの中から後ろを見て声をあげた。
 「わっ!セキコが猛スピードで追ってくるよ!」
 ドカンちゃんは振り返る。
 「ええええええ!ちゃんとお風呂に入ったじゃないですかああああ!」
 ドカンちゃんは叫ぶ。 
 「通すとは言ったけど、付いていかないとは一言も言ってない。
 牛乳大魔王の西瓜牛乳飲ませてくれるまで離れないいいいいいいー!」

「ええええええええー!」
 
 ドカンちゃんとチカンちゃんの旅は続く。


 

 
 
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