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十二話 義兄弟
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今川館に駆け込むと、すでにそこには群臣が集まっていた。
門の処にはすでに父、一宮宗是が待ち構えて居た。
「おお、来たか左兵衛、今し方卑怯にも花倉方が不意打ちで兵を挙げおったのだ。
このままでは梅岳承芳様、寿桂尼様のお命が危ないゆえ、
すぐさま挙兵の命を出されますよう、
群臣こぞって梅岳承芳様をご説得申し上げているところじゃ」
「違うのです父上、これは手違い」
言うが早いか父は力強く左兵衛の胸倉を掴みあげた。
「違わぬ。先に言うた事を忘れたか」
「何でござるか。不戦はすでに決まったこと。
このままでは内乱になりまする」
「黙れ、そちは猿じゃ、人語を解さぬ猿じゃ、猿は黙っておれ」
「黙らねば何となさいます」
「切る」
父は断言した。
そして眉をひそめながら同席した関口親永様を恫喝するような鋭い眼光で睨んだ。
「子細ご理解いただけたかな関口殿。
梅岳承芳様のお命がかかっておりまする」
「承知いたしました」
関口親永殿は物わかり良く引き下がられた。
いくら何でも、物わかりが良すぎるではないか親永殿。
されど左兵衛としてもどうしようもない。
父も、花倉殿が君主となれば、
梅岳承芳様は切腹を命じられると確信しておるのだろう。
譜代の家臣として君主を守るためなら鬼にでも蛇にでもなる
それが譜代というものだ。これはやむなき事であった。
「そちも分かったな」
「分かり申した」
左兵衛は力なく頭を下げた。
そこに伝令の早馬が駆け込んでくる。
「足利将軍家、梅岳承芳様の今川家家督相続お認めになりましたぞ」
伝令が馬から転がり落ちながら叫んだ。
家中の者たちが雨戸の板を持ってきて、
動けぬ伝令をその上にのせて館の奥に運び込んだ。
「梅岳承芳様がただいま今川家家督相続の議、
承諾なされました。梅岳承芳様は将軍家より御名前を頂きました。
今より管領今川義元公にあらせられる。者共左様心得よ」
「ははっ」
近隣に参集したる家臣郎党ことごとく地に伏しで服従した。
寿桂尼様が館内に戻られ、館の中から瀬名氏貞殿が出てこられた。
「父上」
関口親永殿が声をあげて駆け寄られた。
「口を慎め、そなた関口の家の者であろう」
「申し訳ございませぬ」
親永殿は頭を下げられた。
「すぐに所領に帰り、兵を集めよ」
氏貞殿は短く言うと足早に今川館を出た。
後を追って親永殿も退出なされた。
その後、続々と重臣たちが屋敷から出てくる。
太原雪斎様も出てこられた。
そこに朝比奈泰能殿が早馬で駆けつけられる。
「おお、賢弟、よう参られた」
「令兄、光明城の朝比奈泰方を説得しきれなんだ。
遅参申し訳ござらぬ」
「なあに、遠州掛川にあって、よう我らに御味方してくだされた」
「令兄に味方するは当然のことでござる」
泰能殿は胸を張った。
雪斎様と泰能殿は令兄賢弟と呼び合う義兄弟の間柄であった。
「して令兄、御屋形様は決起のご決断ありやなしや」
「その事よ賢弟、この期に及んでも御屋形様は決起を渋られたため、
軍配者の斉藤加賀守を呼んで、
暦の日取りをお見せして、
本日決起せねば不吉の兆しありと八卦に出ており、
決起すれば諸事良き方へ進むと説得し、
仮にではあるが決起のお許しを頂き、
集兵の法螺を鳴らすことができた次第じゃ」
泰能殿は少し首をかしげた。
「はて、本日は左様に良き日取りであったか」
「京暦を使うたのではない、三嶋暦じゃ」
「さすが令兄、お知恵が回りますなあ、ふふふ」
「いや賢弟、お主ほどではないは、ははは」
お二方ともご機嫌良好であった。
門の処にはすでに父、一宮宗是が待ち構えて居た。
「おお、来たか左兵衛、今し方卑怯にも花倉方が不意打ちで兵を挙げおったのだ。
このままでは梅岳承芳様、寿桂尼様のお命が危ないゆえ、
すぐさま挙兵の命を出されますよう、
群臣こぞって梅岳承芳様をご説得申し上げているところじゃ」
「違うのです父上、これは手違い」
言うが早いか父は力強く左兵衛の胸倉を掴みあげた。
「違わぬ。先に言うた事を忘れたか」
「何でござるか。不戦はすでに決まったこと。
このままでは内乱になりまする」
「黙れ、そちは猿じゃ、人語を解さぬ猿じゃ、猿は黙っておれ」
「黙らねば何となさいます」
「切る」
父は断言した。
そして眉をひそめながら同席した関口親永様を恫喝するような鋭い眼光で睨んだ。
「子細ご理解いただけたかな関口殿。
梅岳承芳様のお命がかかっておりまする」
「承知いたしました」
関口親永殿は物わかり良く引き下がられた。
いくら何でも、物わかりが良すぎるではないか親永殿。
されど左兵衛としてもどうしようもない。
父も、花倉殿が君主となれば、
梅岳承芳様は切腹を命じられると確信しておるのだろう。
譜代の家臣として君主を守るためなら鬼にでも蛇にでもなる
それが譜代というものだ。これはやむなき事であった。
「そちも分かったな」
「分かり申した」
左兵衛は力なく頭を下げた。
そこに伝令の早馬が駆け込んでくる。
「足利将軍家、梅岳承芳様の今川家家督相続お認めになりましたぞ」
伝令が馬から転がり落ちながら叫んだ。
家中の者たちが雨戸の板を持ってきて、
動けぬ伝令をその上にのせて館の奥に運び込んだ。
「梅岳承芳様がただいま今川家家督相続の議、
承諾なされました。梅岳承芳様は将軍家より御名前を頂きました。
今より管領今川義元公にあらせられる。者共左様心得よ」
「ははっ」
近隣に参集したる家臣郎党ことごとく地に伏しで服従した。
寿桂尼様が館内に戻られ、館の中から瀬名氏貞殿が出てこられた。
「父上」
関口親永殿が声をあげて駆け寄られた。
「口を慎め、そなた関口の家の者であろう」
「申し訳ございませぬ」
親永殿は頭を下げられた。
「すぐに所領に帰り、兵を集めよ」
氏貞殿は短く言うと足早に今川館を出た。
後を追って親永殿も退出なされた。
その後、続々と重臣たちが屋敷から出てくる。
太原雪斎様も出てこられた。
そこに朝比奈泰能殿が早馬で駆けつけられる。
「おお、賢弟、よう参られた」
「令兄、光明城の朝比奈泰方を説得しきれなんだ。
遅参申し訳ござらぬ」
「なあに、遠州掛川にあって、よう我らに御味方してくだされた」
「令兄に味方するは当然のことでござる」
泰能殿は胸を張った。
雪斎様と泰能殿は令兄賢弟と呼び合う義兄弟の間柄であった。
「して令兄、御屋形様は決起のご決断ありやなしや」
「その事よ賢弟、この期に及んでも御屋形様は決起を渋られたため、
軍配者の斉藤加賀守を呼んで、
暦の日取りをお見せして、
本日決起せねば不吉の兆しありと八卦に出ており、
決起すれば諸事良き方へ進むと説得し、
仮にではあるが決起のお許しを頂き、
集兵の法螺を鳴らすことができた次第じゃ」
泰能殿は少し首をかしげた。
「はて、本日は左様に良き日取りであったか」
「京暦を使うたのではない、三嶋暦じゃ」
「さすが令兄、お知恵が回りますなあ、ふふふ」
「いや賢弟、お主ほどではないは、ははは」
お二方ともご機嫌良好であった。
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