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六十三話 土建の守旧派
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五月十八日
鵜殿長照殿が守られる大高城に松平元康殿が兵糧を運び込んだ。
周囲の敵からの抵抗はほとんどうけていない様子であった。
それもそのはず、事前に義元公は敵方に寝返った水野元信と密約を結び、
水野はこの戦で中立を保つ手はずとなっていたのだ。
しかも、そのことを内密にして味方にまで知らせないことで、
織田信長を釣りだそうとしておられたのだ。
水野まで今川方についている事が分かれば、
あまりにも戦力差が大きく信長は出てこない。
やはり、義元公は信長が籠城するのではなく、
野戦にて一戦交えて即時に討ち取られることを望んでおられるのであろう。
今川方と密約を結んだ水野元信、佐治為景らの勢力が守る
春光砦、正光砦、はまったく動かなかったものの、
唯一、織田方の熱田宮司家千秋李直が守る氷上砦だけは攻撃をしかけてきたため、
今川軍で包囲して力攻めで落城させて李直を捕縛した。
義元公は沓掛城に入られ、縄で縛られた千秋李直と面会した。
千秋利直は平静な表情で義元公を見た。
「憐れなる者よ、神がそなたを許しますように」
まるで同情するかのような表情を見せる李直の姿に義元公は失笑された。
「何を聖人ぶっているか。
土建の利権を貪り、散々甘い汁を吸ってきた腐敗権力が。
神社など座という既得権益の塊ではないか。
我が尾張を支配した暁には神社の座を悉く破壊して進ぜよう。
そなららの言う神は民衆を騙す銭儲けの手段にすぎぬ。
ならば直接銭を拝んだらどうだ。
無駄な経費のかかる祭事などせずに、直接銭を拝めば良い。
そのほうが無駄も省けて合理的ではないか。
此度も、黙って信長が殺されるのを
黙殺して砦の奥に潜って震えておれば捕縛されることもなかったに、
つくづく、お前等守旧派は頭が悪い」
「一粒万倍。米は地に落ち、
己が死ぬことによって芽を吹いて次世代に希望を繋ぐ。
殺したければ殺せばよい」
「そなたの死など意味がない。
此度の先頭で当方の被害はほとんどなく、
そなたの行いも何の意味も無かった。
そなたも代々先祖より嘘話しの物語を聞かされて、
何の疑問も持たず、ただ過去からの遺物を踏襲してきたのであろう。
何の意味もない儀式、何の意味もない祈り。
そして、何の意味もなく死んでゆくのだ。
それに何の利益があろう」
「利益など求めぬ。
無為に死すことも神の御心ならば幸いなれ。
ただ、神の御傍によりそい、
神とともに生き、神とともに死す」
「水は高いところから低いところに流れる。
木は火をつければ燃える。
水をかければ消える。
全ては合理。万物は法則によって成り立っている。
人は理屈に合ったようにうごかねばならぬ。
それが知性じゃ。そち等時代遅れの守旧派が紡ぐ物語などまやかしだ。
兵は多き者が勝つ。
国力は強い方が勝つ。
神事をやれば勝つわけでもなく、拝んだら勝つわけでもない。
これより守旧派の神社勢力がつむぐ物語とやらがまやかしであることを、
じっくりと尾張の民に見せてくれよう。
その方もじっくり見物して、
目がさめたら、我に臣従するがよかろう」
「我は死すとも希望は未来に繋がる。
神の御前に身を投げ捨てる者が折り重なり、
その先に未来が開けるのだ。
合理を叫び、己が私利私欲のためだけにしか動かぬ者の集まりは、
所詮私でしかない。
私心がいくら積み重なってもそれは私でしかく、
私の終わりとともに終焉する。その先の未来はない。
この世に生を受けて滅せぬ者のあるべきか」
「人は利によって、世は合理によって動く。
物語は人を騙すために作られ、
そなたは騙されて利用されて死んでゆく。
それが幸せと言うなら幸せな夢を見て死んでゆくがよい。
物語に未来などない。
どう抗っても人は死ぬのだ。
どうせ人が死ぬなら祭事も無駄じゃ、
物語も無駄じゃ、人の犠牲になっても、
私利私欲に生きても、結局人は死ぬのではないか。
なら己のために生きるは合理である。
すでにそなたは論破した。失せろ」
熱田宮司家の千秋直李は引っ立てられていった。
義元公は沓掛城で信長が動くのを待った。
野戦をするか、籠城をするか。
籠城すると見せかけて中島砦までおびき寄せ、
大軍が狭い街道で身動きが取れなくなったところを側面から突き崩すか。
待っている間、全ての可能性について諸将に教授され、
決っして油断なきよう訓示された。
はたして、信長は動かなかった。
「これは籠城ですな」
孕石泰元殿が言った。
「いや、籠城と見せかけてこちらが進軍し、
戦線が伸びきったところを伏兵で襲う算段であろう」
朝比奈泰朝殿が異をとなえた。
自説を否定された泰元殿は怒りの表情で泰朝殿を睨んだが、
元実が笑顔でその間に入った。
「鷲津、丸根の砦を攻め落とし、火をかけよ。
前衛にある水野や佐治の砦が落ちず、
後衛の鷲津、丸根が落ちれば信長も水野や佐治が
裏切ったと気づくであろう。
それでもし籠城するならば道理に合っておる。
これは徐々に弱らせて臣従させればよい。
もし、己が圧倒的に不利と知って出てくるなら、
本気で馬鹿な物語を信じておる阿呆じゃ。
これはこの場で殺さねば後々害になるであろう」
「心得た」
朝比奈泰朝殿が声を張った。
鵜殿長照殿が守られる大高城に松平元康殿が兵糧を運び込んだ。
周囲の敵からの抵抗はほとんどうけていない様子であった。
それもそのはず、事前に義元公は敵方に寝返った水野元信と密約を結び、
水野はこの戦で中立を保つ手はずとなっていたのだ。
しかも、そのことを内密にして味方にまで知らせないことで、
織田信長を釣りだそうとしておられたのだ。
水野まで今川方についている事が分かれば、
あまりにも戦力差が大きく信長は出てこない。
やはり、義元公は信長が籠城するのではなく、
野戦にて一戦交えて即時に討ち取られることを望んでおられるのであろう。
今川方と密約を結んだ水野元信、佐治為景らの勢力が守る
春光砦、正光砦、はまったく動かなかったものの、
唯一、織田方の熱田宮司家千秋李直が守る氷上砦だけは攻撃をしかけてきたため、
今川軍で包囲して力攻めで落城させて李直を捕縛した。
義元公は沓掛城に入られ、縄で縛られた千秋李直と面会した。
千秋利直は平静な表情で義元公を見た。
「憐れなる者よ、神がそなたを許しますように」
まるで同情するかのような表情を見せる李直の姿に義元公は失笑された。
「何を聖人ぶっているか。
土建の利権を貪り、散々甘い汁を吸ってきた腐敗権力が。
神社など座という既得権益の塊ではないか。
我が尾張を支配した暁には神社の座を悉く破壊して進ぜよう。
そなららの言う神は民衆を騙す銭儲けの手段にすぎぬ。
ならば直接銭を拝んだらどうだ。
無駄な経費のかかる祭事などせずに、直接銭を拝めば良い。
そのほうが無駄も省けて合理的ではないか。
此度も、黙って信長が殺されるのを
黙殺して砦の奥に潜って震えておれば捕縛されることもなかったに、
つくづく、お前等守旧派は頭が悪い」
「一粒万倍。米は地に落ち、
己が死ぬことによって芽を吹いて次世代に希望を繋ぐ。
殺したければ殺せばよい」
「そなたの死など意味がない。
此度の先頭で当方の被害はほとんどなく、
そなたの行いも何の意味も無かった。
そなたも代々先祖より嘘話しの物語を聞かされて、
何の疑問も持たず、ただ過去からの遺物を踏襲してきたのであろう。
何の意味もない儀式、何の意味もない祈り。
そして、何の意味もなく死んでゆくのだ。
それに何の利益があろう」
「利益など求めぬ。
無為に死すことも神の御心ならば幸いなれ。
ただ、神の御傍によりそい、
神とともに生き、神とともに死す」
「水は高いところから低いところに流れる。
木は火をつければ燃える。
水をかければ消える。
全ては合理。万物は法則によって成り立っている。
人は理屈に合ったようにうごかねばならぬ。
それが知性じゃ。そち等時代遅れの守旧派が紡ぐ物語などまやかしだ。
兵は多き者が勝つ。
国力は強い方が勝つ。
神事をやれば勝つわけでもなく、拝んだら勝つわけでもない。
これより守旧派の神社勢力がつむぐ物語とやらがまやかしであることを、
じっくりと尾張の民に見せてくれよう。
その方もじっくり見物して、
目がさめたら、我に臣従するがよかろう」
「我は死すとも希望は未来に繋がる。
神の御前に身を投げ捨てる者が折り重なり、
その先に未来が開けるのだ。
合理を叫び、己が私利私欲のためだけにしか動かぬ者の集まりは、
所詮私でしかない。
私心がいくら積み重なってもそれは私でしかく、
私の終わりとともに終焉する。その先の未来はない。
この世に生を受けて滅せぬ者のあるべきか」
「人は利によって、世は合理によって動く。
物語は人を騙すために作られ、
そなたは騙されて利用されて死んでゆく。
それが幸せと言うなら幸せな夢を見て死んでゆくがよい。
物語に未来などない。
どう抗っても人は死ぬのだ。
どうせ人が死ぬなら祭事も無駄じゃ、
物語も無駄じゃ、人の犠牲になっても、
私利私欲に生きても、結局人は死ぬのではないか。
なら己のために生きるは合理である。
すでにそなたは論破した。失せろ」
熱田宮司家の千秋直李は引っ立てられていった。
義元公は沓掛城で信長が動くのを待った。
野戦をするか、籠城をするか。
籠城すると見せかけて中島砦までおびき寄せ、
大軍が狭い街道で身動きが取れなくなったところを側面から突き崩すか。
待っている間、全ての可能性について諸将に教授され、
決っして油断なきよう訓示された。
はたして、信長は動かなかった。
「これは籠城ですな」
孕石泰元殿が言った。
「いや、籠城と見せかけてこちらが進軍し、
戦線が伸びきったところを伏兵で襲う算段であろう」
朝比奈泰朝殿が異をとなえた。
自説を否定された泰元殿は怒りの表情で泰朝殿を睨んだが、
元実が笑顔でその間に入った。
「鷲津、丸根の砦を攻め落とし、火をかけよ。
前衛にある水野や佐治の砦が落ちず、
後衛の鷲津、丸根が落ちれば信長も水野や佐治が
裏切ったと気づくであろう。
それでもし籠城するならば道理に合っておる。
これは徐々に弱らせて臣従させればよい。
もし、己が圧倒的に不利と知って出てくるなら、
本気で馬鹿な物語を信じておる阿呆じゃ。
これはこの場で殺さねば後々害になるであろう」
「心得た」
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