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七十六話 嘘つきジジイ
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パチン
囲炉裏にくべた木がはじけて火の粉が飛んだ。
童が驚いて飛び上がった。
「おお、びっくりした、
じいさまの嘘話があまりにも大仰であったので、
びっくりしてしもうたわ」
「おもしろいのお、じいさまの嘘話はおもしろい」
「そうじゃ、おもしろい、嘘とは思えんくらいおもしろい物語じゃ」
童たちは口々にはやしたてた。
すっかり老いさらばえた皺だらけの翁の顔が温かい炎の色に照らされる。
「嘘ではあるものか、この左兵衛尉、まことに今川の大身代の譜代の家臣じゃ」
「ならばなにゆえ、大屋敷にも住まず田畑をたがやしておるのじゃ、
今川様といえば高家ではないか」
「そうじゃ、下駄の雪はどうなったのじゃ、
雪はどこまでもついていくのではなかったか」
童たちがおもしろがって煽るが、翁は穏やかな笑顔を見せた。
「それはな、春が来たのじゃ。
氏真公は高家様におなりあそばした。
某の役目は終わったのじゃ。
春が来れば雪がとけ、水になって地をうるおす。
水は種に吸われ、種は芽をふき、やがて大きな実りとなるのじゃ」
「じいさまが良い話にしてごまかそうとしておるぞ」
「そうじゃ、そうじゃ、うそつきい」
童たちは喜んではやしたてた。
「ははは、こうやって人を楽しませるのは気分がよいものじゃのお、あはははは」
翁は機嫌良く笑った。
完
囲炉裏にくべた木がはじけて火の粉が飛んだ。
童が驚いて飛び上がった。
「おお、びっくりした、
じいさまの嘘話があまりにも大仰であったので、
びっくりしてしもうたわ」
「おもしろいのお、じいさまの嘘話はおもしろい」
「そうじゃ、おもしろい、嘘とは思えんくらいおもしろい物語じゃ」
童たちは口々にはやしたてた。
すっかり老いさらばえた皺だらけの翁の顔が温かい炎の色に照らされる。
「嘘ではあるものか、この左兵衛尉、まことに今川の大身代の譜代の家臣じゃ」
「ならばなにゆえ、大屋敷にも住まず田畑をたがやしておるのじゃ、
今川様といえば高家ではないか」
「そうじゃ、下駄の雪はどうなったのじゃ、
雪はどこまでもついていくのではなかったか」
童たちがおもしろがって煽るが、翁は穏やかな笑顔を見せた。
「それはな、春が来たのじゃ。
氏真公は高家様におなりあそばした。
某の役目は終わったのじゃ。
春が来れば雪がとけ、水になって地をうるおす。
水は種に吸われ、種は芽をふき、やがて大きな実りとなるのじゃ」
「じいさまが良い話にしてごまかそうとしておるぞ」
「そうじゃ、そうじゃ、うそつきい」
童たちは喜んではやしたてた。
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完
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こんにちは。(●^o^●)
完結されていたのですね。お疲れ様です。
今川家の話、楽しませてもらいましたよ。ありがとうございました。
ありがとうございます!
景綱さんは次のミステリーホラー大賞に応募するとおっしゃっていたので、
楽しみにまっております。
いままで、ずっと素敵な感想を送りつづけてくださって、
ありがとうございました!
お疲れ様でした。終わってしまって残念ですが、大変勉強になり、そして、面白かったです。
ありがとうございます!
いつも感想をいただき、とても原動力になりました。
またツ~さんが新しく何かの賞に応募したときは教えてくださいませ~
幼い時の記憶はやはり大事なんですね。氏真公といい家康といい。
氏真公はあまり戦国大名には向いていなかったんでしょうか?優柔不断な所が多い方だったのなら。
今川氏真は死ぬとき、「こんな事になってしまったけど、誰も恨むまい。今の時代に自分は
あってなかったんだ」という歌を残して死んでいます。
よっぽど戦国時代が性にあってなかったんでしょうね。
今だと、人気者だったかもしれません。
さいごまでよんでくださって、ありがとうございます!
すごく力を一杯もらえました!