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夏夜と佐藤
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「あ、起きた。」
佐藤が目を開けるとそこには例の女がいた。ぼやけた視界でも覗き込む顔は本当に綺麗だった。あれから佐藤は何度も尋問された。頼まれた組織や一緒にいた男の素性など何度も何度も顔を殴られ、腹を蹴られながらの尋問が続いていた。今回の気絶は恐らく3回目だ。本当にいよいよ死んでしまいそうだった。
「女…女…」
佐藤は覗き込む女の頬に手を伸ばした。女はその手を叩くと呆れ顔を浮かばせ、濡れタオルで佐藤の傷口を冷やした。
「いっ…」
「呆れた。毎回気絶して起きたら、女、酒って。今までどんな生活してきてるのよ。あなた私より年下でしょ?」
「十九…。」
「はー!?まだ未成年じゃない!?何やってんのよ…。年下とは思ってたけど、まさか七も下だったなんて…。」
「うるせー…。」
女は佐藤の額に冷や水で濡らしたタオルを置いて、再び眠りに着く佐藤を見ていた。
しばらく経って、佐藤はその女の名前が夏夜ということを知った。夏夜は毎日のように佐藤の面倒を見ていた。佐藤は最初は警戒していたものの次第に心を開いていった。
「あれだけ殴られてまだ仲間を庇うなんて。相当仲間想いなんだね。よいしょ。」
夏夜は佐藤の服を脱がせ起き上がらせると、体を拭いていた。そして、その日初めて佐藤は本当のことを打ち明けた。
「庇うっていうか…、俺あの人のこと何も知らないんですよ。好きなラーメンは知ってるのに、苗字も年齢も知らないし…。」
「…。」
「今思うと不思議なんですよ。あの人と俺はいつもその日暮らしで、決まった家もなかったのに、取引先は割と金くれるところで。どうやって話もらってるのかとか金のこととか全然教えてくれなくて…。いや、教えてくないっていうか、教えてもらおうとも思ってなくて。」
「…それだけ信用してたのね。」
「…かもしれません。」
その日以来、佐藤への尋問はパタリと無くなった。そして二週間ほどが経った頃には佐藤の怪我はすっかり良くなっていた。夏夜はそんな佐藤に髪を切り、上等なスーツまで用意していた。
「これからはもっと意義のあることをしなさい。喧嘩もただ暴れるんじゃなくて、意義のある喧嘩をしなさい。」
「意義のある喧嘩って?」
「うーん、何かを守るためにとか?…佐藤も何か大切なものができたときに分かるわよ。」
佐藤は夏夜のその言葉にひどく胸を打たれた。初めて夏夜を見た時のような感覚に陥った。
「それでさ、佐藤」
「夏夜さん!」
佐藤は衝動のまま夏夜を強く抱きしめた。しかし今までの女たちを抱くような独りよがりではなく、優しく、強く抱きしめた。佐藤にとって初めての感覚だった。
「俺、初めて夏夜さんのこと見てからずっと好きでした!夏夜さんが百目鬼組の人間だってことは知ってます!だけど、俺、夏夜さんのためだったら百目鬼組に入るし、夏夜さんが望むならここから連れ出して逃げたっていい!俺、俺…」
「ちょっ、佐藤…」
「聞き捨てならねぇな」
佐藤が必死に思いを伝えている間にドスの聞いた声が小さな部屋に響いた。そのすぐ後に障子が開くとそこには鬼瓦のような形相をした男が立っていた。清兵衛だった。佐藤はその物々しさに感覚ですぐに百目鬼組の組長だということがわかった。すぐさま夏夜に離れると自然に正座に座り直した。
「もやしな野郎に大事な一人娘がやれるか。ガキが。」
清兵衛は屈託ない笑顔を佐藤に向けている。
「え、娘!?」
「ごめんね。私、百目鬼 夏夜っていうの。」
夏夜は恥ずかしそうに、気まずそうに笑って見せた。
「えーーーーーー!」
「うるせぇガキだな~、こんなやつで大丈夫なんか、夏夜。」
佐藤は清兵衛の言葉に訳がわからず戸惑った。目を泳がせながら夏夜を見ると、夏夜はゆっくりと首を縦に振っていた。
「単刀直入に言うがお前は百目鬼組に正式に入ってもらう。この夏夜のおかげでな。」
「え、…え!」
「まあ、落ち着け。告白の後に申し訳ないんだが、夏夜は今年中に結婚が控えててな。その後は百目鬼の別邸で暮らす予定なんだが人手が足りなくて別邸の用心棒がいないんだ。そこにお前を入れようって話だ。」
「え、え…」
「人手が足りないのに加えて、婿養子はお前の何倍ももやしでな。喧嘩なんてとてもじゃないができそうにないんだ。」
「ちょっと、お父!」
「いや別に悪いって言ってるんじゃねぇ。性格は俺も気に入る良いやつだ。夏夜が選びそうな優しいやつだ。」
颯爽と勧誘、失恋、昇任の話が流れ、呆然としている佐藤を脇に二人は内輪話で盛り上がっていた。
「おっといかん、話が逸れたな。でだな、お前には相当強くなってもらわねぇと困るんだ。お前、腕に自信あるか?」
「…今のところ負けたことがあるのは2回だけです。」
「おー、やるじゃねぇか。でももっと鍛えろ。食って寝て体大きくしろ。それで俺の娘と息子、ゆくゆくは孫の用心棒もしてくれ。はっはっは」
「お父、まだ佐藤の気持ち聞いてないでしょ!」
「なんだ、惚れた女を守れるんだぞ。この上ないだろう。」
「そう言う問題じゃ…」
「やります!!」
佐藤の一言に二人は静まった。
「俺、一生かけて夏夜さんたちを守ります!」
佐藤の真剣な眼差しに二人は笑顔で応えた。
それからの日々は佐藤にとって本当の温かみに触れた時間だった。よく寝て、よく食べ、先輩たちにも可愛がられた。夏夜が結婚する前には相手の成亮とも打ち解けられるようになっていた。当時の百目鬼組は外国から入った不法組織の取り締まりなど町の治安維持だけに勤めていた。それは企業や県警との非公式な契約でもあった。佐藤はそんな業務をこなしながら体力、知力を養っていった。そして夏夜を守りたいという気持ちはより一層強くなっていた。
月日が経ち、夏夜と成亮は結婚をし別邸に入った。そしてすぐに夏夜は妊娠をした。
佐藤が目を開けるとそこには例の女がいた。ぼやけた視界でも覗き込む顔は本当に綺麗だった。あれから佐藤は何度も尋問された。頼まれた組織や一緒にいた男の素性など何度も何度も顔を殴られ、腹を蹴られながらの尋問が続いていた。今回の気絶は恐らく3回目だ。本当にいよいよ死んでしまいそうだった。
「女…女…」
佐藤は覗き込む女の頬に手を伸ばした。女はその手を叩くと呆れ顔を浮かばせ、濡れタオルで佐藤の傷口を冷やした。
「いっ…」
「呆れた。毎回気絶して起きたら、女、酒って。今までどんな生活してきてるのよ。あなた私より年下でしょ?」
「十九…。」
「はー!?まだ未成年じゃない!?何やってんのよ…。年下とは思ってたけど、まさか七も下だったなんて…。」
「うるせー…。」
女は佐藤の額に冷や水で濡らしたタオルを置いて、再び眠りに着く佐藤を見ていた。
しばらく経って、佐藤はその女の名前が夏夜ということを知った。夏夜は毎日のように佐藤の面倒を見ていた。佐藤は最初は警戒していたものの次第に心を開いていった。
「あれだけ殴られてまだ仲間を庇うなんて。相当仲間想いなんだね。よいしょ。」
夏夜は佐藤の服を脱がせ起き上がらせると、体を拭いていた。そして、その日初めて佐藤は本当のことを打ち明けた。
「庇うっていうか…、俺あの人のこと何も知らないんですよ。好きなラーメンは知ってるのに、苗字も年齢も知らないし…。」
「…。」
「今思うと不思議なんですよ。あの人と俺はいつもその日暮らしで、決まった家もなかったのに、取引先は割と金くれるところで。どうやって話もらってるのかとか金のこととか全然教えてくれなくて…。いや、教えてくないっていうか、教えてもらおうとも思ってなくて。」
「…それだけ信用してたのね。」
「…かもしれません。」
その日以来、佐藤への尋問はパタリと無くなった。そして二週間ほどが経った頃には佐藤の怪我はすっかり良くなっていた。夏夜はそんな佐藤に髪を切り、上等なスーツまで用意していた。
「これからはもっと意義のあることをしなさい。喧嘩もただ暴れるんじゃなくて、意義のある喧嘩をしなさい。」
「意義のある喧嘩って?」
「うーん、何かを守るためにとか?…佐藤も何か大切なものができたときに分かるわよ。」
佐藤は夏夜のその言葉にひどく胸を打たれた。初めて夏夜を見た時のような感覚に陥った。
「それでさ、佐藤」
「夏夜さん!」
佐藤は衝動のまま夏夜を強く抱きしめた。しかし今までの女たちを抱くような独りよがりではなく、優しく、強く抱きしめた。佐藤にとって初めての感覚だった。
「俺、初めて夏夜さんのこと見てからずっと好きでした!夏夜さんが百目鬼組の人間だってことは知ってます!だけど、俺、夏夜さんのためだったら百目鬼組に入るし、夏夜さんが望むならここから連れ出して逃げたっていい!俺、俺…」
「ちょっ、佐藤…」
「聞き捨てならねぇな」
佐藤が必死に思いを伝えている間にドスの聞いた声が小さな部屋に響いた。そのすぐ後に障子が開くとそこには鬼瓦のような形相をした男が立っていた。清兵衛だった。佐藤はその物々しさに感覚ですぐに百目鬼組の組長だということがわかった。すぐさま夏夜に離れると自然に正座に座り直した。
「もやしな野郎に大事な一人娘がやれるか。ガキが。」
清兵衛は屈託ない笑顔を佐藤に向けている。
「え、娘!?」
「ごめんね。私、百目鬼 夏夜っていうの。」
夏夜は恥ずかしそうに、気まずそうに笑って見せた。
「えーーーーーー!」
「うるせぇガキだな~、こんなやつで大丈夫なんか、夏夜。」
佐藤は清兵衛の言葉に訳がわからず戸惑った。目を泳がせながら夏夜を見ると、夏夜はゆっくりと首を縦に振っていた。
「単刀直入に言うがお前は百目鬼組に正式に入ってもらう。この夏夜のおかげでな。」
「え、…え!」
「まあ、落ち着け。告白の後に申し訳ないんだが、夏夜は今年中に結婚が控えててな。その後は百目鬼の別邸で暮らす予定なんだが人手が足りなくて別邸の用心棒がいないんだ。そこにお前を入れようって話だ。」
「え、え…」
「人手が足りないのに加えて、婿養子はお前の何倍ももやしでな。喧嘩なんてとてもじゃないができそうにないんだ。」
「ちょっと、お父!」
「いや別に悪いって言ってるんじゃねぇ。性格は俺も気に入る良いやつだ。夏夜が選びそうな優しいやつだ。」
颯爽と勧誘、失恋、昇任の話が流れ、呆然としている佐藤を脇に二人は内輪話で盛り上がっていた。
「おっといかん、話が逸れたな。でだな、お前には相当強くなってもらわねぇと困るんだ。お前、腕に自信あるか?」
「…今のところ負けたことがあるのは2回だけです。」
「おー、やるじゃねぇか。でももっと鍛えろ。食って寝て体大きくしろ。それで俺の娘と息子、ゆくゆくは孫の用心棒もしてくれ。はっはっは」
「お父、まだ佐藤の気持ち聞いてないでしょ!」
「なんだ、惚れた女を守れるんだぞ。この上ないだろう。」
「そう言う問題じゃ…」
「やります!!」
佐藤の一言に二人は静まった。
「俺、一生かけて夏夜さんたちを守ります!」
佐藤の真剣な眼差しに二人は笑顔で応えた。
それからの日々は佐藤にとって本当の温かみに触れた時間だった。よく寝て、よく食べ、先輩たちにも可愛がられた。夏夜が結婚する前には相手の成亮とも打ち解けられるようになっていた。当時の百目鬼組は外国から入った不法組織の取り締まりなど町の治安維持だけに勤めていた。それは企業や県警との非公式な契約でもあった。佐藤はそんな業務をこなしながら体力、知力を養っていった。そして夏夜を守りたいという気持ちはより一層強くなっていた。
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