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17.ダブルデート
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次の日。
私は上機嫌で働いていた。
夕べカイルさんが帰ってきてくれて、ハッガイの事を話したら、デートの日まで昼と夕方はお店に通うと言ってくれたのだ。
休憩時間にはプチデートも出来そう。今日はお店の賄いじゃなくて外食したい。
「カイルさん、いらっしゃいませ!」
お昼の開店と同時にカイルさんが来てくれた。
満面の笑みを浮かべて担当のテーブルに案内する。
カイルさんの事を知らないイーリスがこっちを凄い目で見ている一方、ミニョンは呆れ顔を浮かべていた。
「お水どうぞ。来てもらって凄く嬉しいですけど……昨日の今日でお疲れじゃないですか?」
「実はついさっきまで寝ていたから、疲れはそこまでないんだ。」
「なら良いんですけど。あの、お昼の時間遅くなってしまうんですけど……私が休憩になったら、一緒にお昼食べに出掛けませんか?」
「ああ、良いとも」
「あ、でも少しお腹空いちゃうだろうから――どうします?」
「じゃあ、これとこれで」
軽食とお茶を頼んだカイルさん。私は注文ついでに店主に今日は賄いは不要だと伝える。
お客がほぼ居なくなり私の休憩時間になったので、ちょっと出てきますと声を掛けてからカイルさんの席へ行く。
「カイルさん、お待たせしました。行きましょうか」
結局、ハッガイはお昼は来なかった。
***
「今の時間帯に空いてる店はあんまり無いから、市場で何か買って公園で食べませんか?」
にこにこと切り出した私。
実は店が開いてない事など承知の上でカイルさんを誘ったのである。
最初から私の目的は公園での食べさせ合いっこである。デロデロに甘やかすと決めたのだ。
後、今日は出来ればベンチで膝枕をしたい! という下心もあった。
「あ、ああ。そうだな……」
カイルさんは先日の事――私があーんで朝食を完食させた事を思い出したのだろう。口元を緩めて夢見るような笑顔を浮かべて同意した。
話はまとまったという事で、私はカイルさんと腕を絡ませて歩き出す。
「リ、リィナ?」
「これも、ちょっとしたデートですから」
頭をカイルさんへと傾けると、彼はぎくしゃくとしてしまった。
あれ? お姫様抱っことかもしたのに、と思っていると。
「リィナ……」
「はい?」
「は、恥ずかしいんだが……」
カイルさんは周囲を見渡しながら耳を赤く染めて小声で言った。
確かにお昼過ぎという事もあり、通行人は多く、かなりの視線を集めている。
「!!」
私は頭を岩で殴られたような衝撃を受けた。
な……なんと。
カイルさんは、今更ながら恥じらっていらっしゃる!!
「こんなの、恋人同士じゃ当たり前ですよ? 放してなんかあげませんからっ」
くはー、尊い……鼻血出そう。
胸をキュンキュンさせながらも私は少しだけ意地悪を言った。よし、今度は手を繋いでやろうと思いながら。
さてさて、恥じらうカイルさんを市中引き回しの刑に処しながら昼食調達。
「お熱いねぇ」とか「とうとう白金級もヤキが回ったな、この果報者!」等と言われながらも、いつものおばちゃんの所で果物、他は適当にハンバーガーもどきと果実ジュースを買って公園へ行く。
ベンチに座っていざお昼を広げようとした、その時。
「カイル! やっぱりカイルじゃないか」
唐突に飛んできた爽やかな男性の声。
顔を上げてそちらを見ると、こげ茶の短髪に若草色の瞳の男性が立っていた。
カイルさん程ではないが、すらりとした柔和な印象を受ける、かなりハンサムな――つまり、この世界ではかなり不細工な人、なんだろう。
上質な服を着ていて一般人に思えるが、腰に下げた使い込まれてそうな剣や大き目のウエストポーチが違和感を添える。
食堂で色んな人を見てきた私には冒険者のように思えた。カイルさんの知り合いって事はかなり上級ではないだろうか。
「フィード」
カイルさんがその人のものらしき名前を呼ぶ。どうも知り合いらしい。
「この街に来てたのか」
「ああ、つい先日着いたんだ。そうそう、お前に凄い美人の恋人が出来たんだって? その人がそうなのか?」
フィードさんは私に視線を移した。日本人の性で思わず軽く頭を下げる。
「あ、ああ。リィナというんだ。リィナ、こいつは一時期パーティーを組んでた事がある冒険者で、フィード・マリトゥス。いい奴だ」
「リィナさん、初めまして。噂通り、お美しい人ですね」
「恐縮です。カイルさんのお友達でいらっしゃるんですね。こちらこそ初めまして、リィナ・カンザーと申します」
礼儀正しく挨拶をしてくれたフィードさんに、私は慌てて立ち上がって挨拶を返した。
折角の公園デートに水を差されたような残念な気持ちはちょっぴりあるけれど、カイルさんの親しい人なら仕方がない。
私は静かにカイルさんの隣に腰を下ろした。
「今晩、訪ねようと思ってたんだ。ここで会えて良かったよ、カイル」
「どうしたんだ。何か面倒な依頼でもあったのか?」
「いや、そんなんじゃないよ。実は僕、近々結婚するんだ」
私は目を丸くする。
フィードさん、結婚式のお誘いにカイルさんを訪ねて来ていたらしい。
「そうなのか!? おめでとう! で、相手は誰なんだ?」
カイルさんの問いに、フィードさんは少し離れたベンチに視線をやった。
そこには私と同じぐらいデ……いや、ふくよかな女性が座っている。
「ああ、あの人だ。ゲイナ・ノービア――やっと巡り会えた、僕の最愛の女性。式には是非、出席して欲しい――リィナさんも一緒に」
「ああ、出席させて貰うとも」
「おめでとうございます、私まで招待して下さってありがとうございます」
……等とやり取りをした後。
フィードさんは私達の昼食の包みにちらりと目をやった。
「ところでカイル達は今から昼飯なのか?」
「ああ」
「僕達もなんだ。ちょっと遅くなってしまってね。良ければ一緒に食べないか?」
ゲイナにも了承取ってくる、と女性の元へ駆け出したフィードさん。
予期せぬダブルデートになってしまった。
私は上機嫌で働いていた。
夕べカイルさんが帰ってきてくれて、ハッガイの事を話したら、デートの日まで昼と夕方はお店に通うと言ってくれたのだ。
休憩時間にはプチデートも出来そう。今日はお店の賄いじゃなくて外食したい。
「カイルさん、いらっしゃいませ!」
お昼の開店と同時にカイルさんが来てくれた。
満面の笑みを浮かべて担当のテーブルに案内する。
カイルさんの事を知らないイーリスがこっちを凄い目で見ている一方、ミニョンは呆れ顔を浮かべていた。
「お水どうぞ。来てもらって凄く嬉しいですけど……昨日の今日でお疲れじゃないですか?」
「実はついさっきまで寝ていたから、疲れはそこまでないんだ。」
「なら良いんですけど。あの、お昼の時間遅くなってしまうんですけど……私が休憩になったら、一緒にお昼食べに出掛けませんか?」
「ああ、良いとも」
「あ、でも少しお腹空いちゃうだろうから――どうします?」
「じゃあ、これとこれで」
軽食とお茶を頼んだカイルさん。私は注文ついでに店主に今日は賄いは不要だと伝える。
お客がほぼ居なくなり私の休憩時間になったので、ちょっと出てきますと声を掛けてからカイルさんの席へ行く。
「カイルさん、お待たせしました。行きましょうか」
結局、ハッガイはお昼は来なかった。
***
「今の時間帯に空いてる店はあんまり無いから、市場で何か買って公園で食べませんか?」
にこにこと切り出した私。
実は店が開いてない事など承知の上でカイルさんを誘ったのである。
最初から私の目的は公園での食べさせ合いっこである。デロデロに甘やかすと決めたのだ。
後、今日は出来ればベンチで膝枕をしたい! という下心もあった。
「あ、ああ。そうだな……」
カイルさんは先日の事――私があーんで朝食を完食させた事を思い出したのだろう。口元を緩めて夢見るような笑顔を浮かべて同意した。
話はまとまったという事で、私はカイルさんと腕を絡ませて歩き出す。
「リ、リィナ?」
「これも、ちょっとしたデートですから」
頭をカイルさんへと傾けると、彼はぎくしゃくとしてしまった。
あれ? お姫様抱っことかもしたのに、と思っていると。
「リィナ……」
「はい?」
「は、恥ずかしいんだが……」
カイルさんは周囲を見渡しながら耳を赤く染めて小声で言った。
確かにお昼過ぎという事もあり、通行人は多く、かなりの視線を集めている。
「!!」
私は頭を岩で殴られたような衝撃を受けた。
な……なんと。
カイルさんは、今更ながら恥じらっていらっしゃる!!
「こんなの、恋人同士じゃ当たり前ですよ? 放してなんかあげませんからっ」
くはー、尊い……鼻血出そう。
胸をキュンキュンさせながらも私は少しだけ意地悪を言った。よし、今度は手を繋いでやろうと思いながら。
さてさて、恥じらうカイルさんを市中引き回しの刑に処しながら昼食調達。
「お熱いねぇ」とか「とうとう白金級もヤキが回ったな、この果報者!」等と言われながらも、いつものおばちゃんの所で果物、他は適当にハンバーガーもどきと果実ジュースを買って公園へ行く。
ベンチに座っていざお昼を広げようとした、その時。
「カイル! やっぱりカイルじゃないか」
唐突に飛んできた爽やかな男性の声。
顔を上げてそちらを見ると、こげ茶の短髪に若草色の瞳の男性が立っていた。
カイルさん程ではないが、すらりとした柔和な印象を受ける、かなりハンサムな――つまり、この世界ではかなり不細工な人、なんだろう。
上質な服を着ていて一般人に思えるが、腰に下げた使い込まれてそうな剣や大き目のウエストポーチが違和感を添える。
食堂で色んな人を見てきた私には冒険者のように思えた。カイルさんの知り合いって事はかなり上級ではないだろうか。
「フィード」
カイルさんがその人のものらしき名前を呼ぶ。どうも知り合いらしい。
「この街に来てたのか」
「ああ、つい先日着いたんだ。そうそう、お前に凄い美人の恋人が出来たんだって? その人がそうなのか?」
フィードさんは私に視線を移した。日本人の性で思わず軽く頭を下げる。
「あ、ああ。リィナというんだ。リィナ、こいつは一時期パーティーを組んでた事がある冒険者で、フィード・マリトゥス。いい奴だ」
「リィナさん、初めまして。噂通り、お美しい人ですね」
「恐縮です。カイルさんのお友達でいらっしゃるんですね。こちらこそ初めまして、リィナ・カンザーと申します」
礼儀正しく挨拶をしてくれたフィードさんに、私は慌てて立ち上がって挨拶を返した。
折角の公園デートに水を差されたような残念な気持ちはちょっぴりあるけれど、カイルさんの親しい人なら仕方がない。
私は静かにカイルさんの隣に腰を下ろした。
「今晩、訪ねようと思ってたんだ。ここで会えて良かったよ、カイル」
「どうしたんだ。何か面倒な依頼でもあったのか?」
「いや、そんなんじゃないよ。実は僕、近々結婚するんだ」
私は目を丸くする。
フィードさん、結婚式のお誘いにカイルさんを訪ねて来ていたらしい。
「そうなのか!? おめでとう! で、相手は誰なんだ?」
カイルさんの問いに、フィードさんは少し離れたベンチに視線をやった。
そこには私と同じぐらいデ……いや、ふくよかな女性が座っている。
「ああ、あの人だ。ゲイナ・ノービア――やっと巡り会えた、僕の最愛の女性。式には是非、出席して欲しい――リィナさんも一緒に」
「ああ、出席させて貰うとも」
「おめでとうございます、私まで招待して下さってありがとうございます」
……等とやり取りをした後。
フィードさんは私達の昼食の包みにちらりと目をやった。
「ところでカイル達は今から昼飯なのか?」
「ああ」
「僕達もなんだ。ちょっと遅くなってしまってね。良ければ一緒に食べないか?」
ゲイナにも了承取ってくる、と女性の元へ駆け出したフィードさん。
予期せぬダブルデートになってしまった。
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