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「お兄さん?」
「兄貴もファンなんだよ。あれ、キレイな曲だよな。あとは『空へ飛び込め』かな」
それを聞いたとたん、私のスイッチがはいってしまった。
うん。この人、本当にラグバ好きな人だ。
『空へ飛び込め』は、かなり初期の曲で最初のアルバムに入っている曲だ。シングルカットされておらず、去年のコンサートで久々に歌われた。ついでに、ラグバで好きな曲あげろって言われたら、私も絶対あげる曲。
「それ、私も好き! クウヤのソロがある曲でしょ? 『空へ飛び込め』といえば、去年の夏のアリーナライブ! 落雷の影響で停電になった時、暗いホールで5人がアカペラで歌ったの聞いた? マイクなしでも5人の声がめちゃめちゃ響いて、鳥肌立つくらいすっごい素敵だった! あの時だけは、タカヤじゃなくてクウヤに落ちちゃった。円盤見ただけでもあんなにすごいなら、きっとあの場にいた人ってものすごい幸せだっただろうなあって、めちゃくちゃうらやましい! それに」
一気にしゃべって、は、と我に返った。私の勢いづいた話を、男は目を丸くして聞いている。
やだ。知らない人相手に、私、何を力説してんの。
急に恥ずかしくなって、いいよねとか適当なことを言って話を終わらせると、残りのラーメンをすすった。
だって、ラグバ好きって公言してないから、なかなかこんな話できないんだもん。普段話すことができない分、つい力が入っちゃった。ああ、もっと推しについて語りたい。なんならあと3時間くらいこの男をつかまえておいて、歌の話とかタカヤのどこがいいかとかこんこんと話したい。
「ホントにラグバ、好きなんだな」
さっき私も思ったのと同じことを穏やかに言われて、ちら、と横目でうかがうと、男は、笑んでこっちを見ていた。
馬鹿にしたような笑みじゃない。柔らかい、嬉しそうな微笑み。
今この男が考えていること、わかるような気がする。自分が好きなものを同じように好きな人といいよね、って話すの、本当に嬉しくなるよね。
「あのさ」
男が何か言いかけたところで、私のスマホが鳴ってしまった。いけない、マナーモードにしてなかった。
「ごめん」
一言謝ってスマホを取り出す。
「なに、彼氏?」
「いないわよ、そんなもん。実家の母だわ」
「へえ」
「兄貴もファンなんだよ。あれ、キレイな曲だよな。あとは『空へ飛び込め』かな」
それを聞いたとたん、私のスイッチがはいってしまった。
うん。この人、本当にラグバ好きな人だ。
『空へ飛び込め』は、かなり初期の曲で最初のアルバムに入っている曲だ。シングルカットされておらず、去年のコンサートで久々に歌われた。ついでに、ラグバで好きな曲あげろって言われたら、私も絶対あげる曲。
「それ、私も好き! クウヤのソロがある曲でしょ? 『空へ飛び込め』といえば、去年の夏のアリーナライブ! 落雷の影響で停電になった時、暗いホールで5人がアカペラで歌ったの聞いた? マイクなしでも5人の声がめちゃめちゃ響いて、鳥肌立つくらいすっごい素敵だった! あの時だけは、タカヤじゃなくてクウヤに落ちちゃった。円盤見ただけでもあんなにすごいなら、きっとあの場にいた人ってものすごい幸せだっただろうなあって、めちゃくちゃうらやましい! それに」
一気にしゃべって、は、と我に返った。私の勢いづいた話を、男は目を丸くして聞いている。
やだ。知らない人相手に、私、何を力説してんの。
急に恥ずかしくなって、いいよねとか適当なことを言って話を終わらせると、残りのラーメンをすすった。
だって、ラグバ好きって公言してないから、なかなかこんな話できないんだもん。普段話すことができない分、つい力が入っちゃった。ああ、もっと推しについて語りたい。なんならあと3時間くらいこの男をつかまえておいて、歌の話とかタカヤのどこがいいかとかこんこんと話したい。
「ホントにラグバ、好きなんだな」
さっき私も思ったのと同じことを穏やかに言われて、ちら、と横目でうかがうと、男は、笑んでこっちを見ていた。
馬鹿にしたような笑みじゃない。柔らかい、嬉しそうな微笑み。
今この男が考えていること、わかるような気がする。自分が好きなものを同じように好きな人といいよね、って話すの、本当に嬉しくなるよね。
「あのさ」
男が何か言いかけたところで、私のスマホが鳴ってしまった。いけない、マナーモードにしてなかった。
「ごめん」
一言謝ってスマホを取り出す。
「なに、彼氏?」
「いないわよ、そんなもん。実家の母だわ」
「へえ」
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