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第一章 今、天使って言った?
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「美優?」
「美優ちゃん?」
時計塔を見ながら歩いていたら、うっかりと足が絡まってしまった。
「きゃっ!」
べたんとその場に倒れると同時に、私のランドセルから中身が車道にばらばらとあふれてしまう。
「あわわっ……!」
「まあ、大変」
「何やってんよ、ばか美優!」
萌ちゃんと莉子ちゃんが、一緒にノートや筆箱を拾ってくれる。不機嫌そうな顔で止まってくれていた車のおじさんにぺこりと頭を下げると、私たちは急いで歩道へと走り抜けた。
「これ、入れとくわね」
歩道のはじっこに寄ると、萌ちゃんは、私の後ろに回って拾ったものをランドセルに入れてくれた。
「もー、美優は本当にドジなんだから。朝から恥かいちゃったじゃない」
莉子ちゃんが、持っていたノートを萌ちゃんに渡しながら口をとがらす。
「ごめん、莉子ちゃん……」
ああもう。ランドセルのふた、ちゃんと閉めたつもりだったんだけどなあ。
しゅん、としていると、後ろから声がかかった。
「なにやってんだよ、美優」
振り返ると、同じクラスの颯太だった。慎くんも一緒だ。
「おはよう、美優さん。朝から災難だったね」
「おはよう、慎くん。颯太。……見てたの?」
「偶然見えちゃったんだよ。ちょうど通りがかったところだったから」
にっこりと慎君は笑うけれど、うう、恥ずかしい……
颯太は、あきれた顔で言った。
「ったく、その様子じゃ、今日、にわとり当番だって忘れてるだろ」
「にわとり……あっ!」
言われて思い出した。
うちの学校では、にわとりを三羽飼っている。五年生が順番で世話をしているんだけど、そういえば今日はうちのクラスで、私と颯太が当番だった。
「忘れてた!」
「だろうと思った。月曜の当番のヤツって、忘れやすいんだよな。そうでなくても美優はどんくせーのに」
「ど、どんくさくなんてないもん! 急がなきゃ!」
歩き出そうとした私のランドセルを、颯太ががしりとつかんだ。
「今日はいいよ」
「え、なんで?」
「俺と慎でやっとくから、お前は、保健室」
「保健室?」
「美優さん、ひざ、すりむいてるよ。ほら、ここ」
見れば、私の左足のひざが見事にすりむけて、血が流れていた。
「このままじゃ、スカート汚れちゃうから、少しふいとくね」
慎くんは私の前に膝をついてしゃがみ込むと、痛くないようにそっと私の膝の血をティッシュでぬぐってくれる。
「ありがと、慎くん」
「どうしたしまして。結構、出血してるよ、これ」
「ほら、これも使え」
颯太が持っていた自分のポケットティッシュも渡してくれた。ぐしゃぐしゃだ。
「あ、うん。ありがと」
「うわ、美優、痛くないの、それ」
顔をしかめて莉子ちゃんが言った。
「……ちょっと、痛いかも……」
気づいたとたんに、その傷はひりひりと痛みだしてくる。情けないのと痛いのとで、じわり、と涙が浮いてきた。
「ホントにドジだし泣き虫だな、美優は」
颯太が、莉子ちゃんと同じことを言いながらぐしゃぐしゃと私の髪をかき回す。
「や! やめてよ、頭ぼさぼさになっちゃう!」
あわててその手を振り払うと、意地悪く颯太が笑った。
「さっさと手当てしてもらえ、それ」
「美優ちゃん、一緒に、保健室行こう」
「ありがと、萌ちゃん。じゃあ慎くん、にわとり当番お願いしてもいい? 次の慎くんの当番の時、代わるから」
私が慎くんを見上げた時だった。
「慎くん、おはよう」
「おはよー!」
後ろから、二人の女子が声をかけてきた。一組の安永さんと菊池さんだ。
「美優ちゃん?」
時計塔を見ながら歩いていたら、うっかりと足が絡まってしまった。
「きゃっ!」
べたんとその場に倒れると同時に、私のランドセルから中身が車道にばらばらとあふれてしまう。
「あわわっ……!」
「まあ、大変」
「何やってんよ、ばか美優!」
萌ちゃんと莉子ちゃんが、一緒にノートや筆箱を拾ってくれる。不機嫌そうな顔で止まってくれていた車のおじさんにぺこりと頭を下げると、私たちは急いで歩道へと走り抜けた。
「これ、入れとくわね」
歩道のはじっこに寄ると、萌ちゃんは、私の後ろに回って拾ったものをランドセルに入れてくれた。
「もー、美優は本当にドジなんだから。朝から恥かいちゃったじゃない」
莉子ちゃんが、持っていたノートを萌ちゃんに渡しながら口をとがらす。
「ごめん、莉子ちゃん……」
ああもう。ランドセルのふた、ちゃんと閉めたつもりだったんだけどなあ。
しゅん、としていると、後ろから声がかかった。
「なにやってんだよ、美優」
振り返ると、同じクラスの颯太だった。慎くんも一緒だ。
「おはよう、美優さん。朝から災難だったね」
「おはよう、慎くん。颯太。……見てたの?」
「偶然見えちゃったんだよ。ちょうど通りがかったところだったから」
にっこりと慎君は笑うけれど、うう、恥ずかしい……
颯太は、あきれた顔で言った。
「ったく、その様子じゃ、今日、にわとり当番だって忘れてるだろ」
「にわとり……あっ!」
言われて思い出した。
うちの学校では、にわとりを三羽飼っている。五年生が順番で世話をしているんだけど、そういえば今日はうちのクラスで、私と颯太が当番だった。
「忘れてた!」
「だろうと思った。月曜の当番のヤツって、忘れやすいんだよな。そうでなくても美優はどんくせーのに」
「ど、どんくさくなんてないもん! 急がなきゃ!」
歩き出そうとした私のランドセルを、颯太ががしりとつかんだ。
「今日はいいよ」
「え、なんで?」
「俺と慎でやっとくから、お前は、保健室」
「保健室?」
「美優さん、ひざ、すりむいてるよ。ほら、ここ」
見れば、私の左足のひざが見事にすりむけて、血が流れていた。
「このままじゃ、スカート汚れちゃうから、少しふいとくね」
慎くんは私の前に膝をついてしゃがみ込むと、痛くないようにそっと私の膝の血をティッシュでぬぐってくれる。
「ありがと、慎くん」
「どうしたしまして。結構、出血してるよ、これ」
「ほら、これも使え」
颯太が持っていた自分のポケットティッシュも渡してくれた。ぐしゃぐしゃだ。
「あ、うん。ありがと」
「うわ、美優、痛くないの、それ」
顔をしかめて莉子ちゃんが言った。
「……ちょっと、痛いかも……」
気づいたとたんに、その傷はひりひりと痛みだしてくる。情けないのと痛いのとで、じわり、と涙が浮いてきた。
「ホントにドジだし泣き虫だな、美優は」
颯太が、莉子ちゃんと同じことを言いながらぐしゃぐしゃと私の髪をかき回す。
「や! やめてよ、頭ぼさぼさになっちゃう!」
あわててその手を振り払うと、意地悪く颯太が笑った。
「さっさと手当てしてもらえ、それ」
「美優ちゃん、一緒に、保健室行こう」
「ありがと、萌ちゃん。じゃあ慎くん、にわとり当番お願いしてもいい? 次の慎くんの当番の時、代わるから」
私が慎くんを見上げた時だった。
「慎くん、おはよう」
「おはよー!」
後ろから、二人の女子が声をかけてきた。一組の安永さんと菊池さんだ。
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