はんぶんこ天使

いずみ

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第一章 今、天使って言った?

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「わかる範囲でいいの。最近、ちょっと変わってしまった子……たとえば、普段は穏やかなのに急に怒りっぽくなったとか、いつもは明るいのに口をきかなくなったとか。そういう、様子の変わった子をみつけたいの。私はまだここに来てそんなにたっていないから、美優ちゃんみたいにずっとこの小学校にいる人の方が、そういう子を見つけやすいかもしれない」

 ええー……そんなの、無理だよ。
 聞いただけで、胸がどきどきしてくる。
 正直に言うと、萌ちゃんの話を聞いて、ちょっと怖いと思った。
 人の心の闇。人を傷つける闇。そんな力を持っている人なんて、できれば関わりたくない。
 
 もじもじしている私を、萌ちゃんが、じ、と見つめていた。
 その目はとても真剣だった。
 その顔を見て、気づく。
 
 そうだ。私にとっては初めて知る世界の話だけど、萌ちゃんはずっとそうやっていろんな人を救ってきたんだ。
 私は、ぎゅ、と両手に力をこめた。

「もし私がそれを手伝ったら、萌ちゃんは助かる?」
「もちろん。絶対、危険な目には合わせないわ。私が、美優ちゃんを守る。だから安心して」
「うん……うん。それなら、私もがんばってみる。役に立つかどうかわからないけど……」
 萌ちゃんが、ほ、と顔をゆるめて息を吐いた。

「きっと、美優ちゃんなら私を助けてくれるわ。ありがとう。巻き込んじゃって本当にごめんね」
「ううん。萌ちゃんが困っているなら、お手伝いしたいの」
 怖いけれど、それは本当。
 萌ちゃんは、ありがとうとにこりと笑った。
 ああ、よかった。いつもの萌ちゃんの笑顔だ。

「どういうわけか美優ちゃんには私の暗示が効かないみたいだから、他のみんなみたいに記憶を操作することができないの。だから、ちょっと怖い話かもしれないけど、話すことにしたのよ。このことは、みんなには内緒ね」
 萌ちゃんは、人差し指を唇の前にあてて笑った。
「うん。内緒ね」
 私もそのまねをして、二人でくすくすと笑う。

 内緒の私のお仕事。天使のお手伝い。
 不安だけど、なんだかくすぐったい。

 その時、六時間目の終了を告げるチャイムがなった。萌ちゃんが立ち上がって、私に手をのばした。
「授業終わっちゃったわね。行きましょう」
 私は、その手を握って立ち上がった。

  ☆

「あれ? 美優?」
 教室に戻ると、背中とおなか、それに手にもランドセルを抱えて部屋を出ようとしている莉子ちゃんをみつけた。

「もういいの? 帰りの会終わったから、今迎えに行こうと思ったの」
 莉子ちゃんが持っていたのは、私と萌ちゃんのランドセルだった。
「うん、もう平気だよ。ありがとね」

 私と萌ちゃんは、それぞれお礼を言ってランドセルを受け取る。連絡帳は書いてないっていうから、もう一度席に戻って莉子ちゃんの連絡帳を写すことにした。
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