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第二章 ちょっと怖いけどがんばってみる!
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私がまじまじとみてしまったせいか、安永さんが軽く眉をひそめる。けれど特に何も言わずに、また慎君の方を向いてしまった。
「慎君、早くしないと、自習室の席なくなっちゃうわよ?」
そう言って安永さんは慎君の手を引っ張っていく。
「気にしすぎかな。……じゃ、美優さん、また明日」
「あ、うん、また明日。安永さん、バイバイ」
結局、慎君の話って、なんだったんだろう。
私が手を振ると、慎君は同じように手を振ってくれたけど、安永さんはこっちを見もしないで教室を出て行ってしまった。その様子に、少しだけ心がざわざわする。
なんか最近、安永さんににらまれることが多いなあ。一、二年生のころ、同じクラスだった時にはもっと気軽に話せたのに。
あ。もしかして、変わったってこういうこと?
「萌ちゃん」
私は、萌ちゃんを、そ、と呼ぶ。莉子ちゃんと美由紀さんは、何やら向こうで話していた。
「今の安永さん、きれいな黒髪だったでしょ?」
「そうね」
「あのね、彼女、前はもっと普通に私と話をしてたの。けど、最近、なんでかわかんないけどあんなふうにきつくなっちゃったのよ。もしかしてこれって……」
私が真剣な顔で言ったら、萌ちゃんは、なぜかにっこりと笑った。
「彼女は違うわ」
「え……そうなの?」
「ええ。近くで見てみたけど、彼女の持つ闇は通常の範囲内よ。ちょっと不機嫌に見えるけれど、おおかれ少なかれ、人は不満とか不安とか負の感情をもっているものだから」
「そうなんだ。じゃあ、何か私、安永さんに嫌われるようなことしちゃったのかなあ……」
心当たりはないけど、いつの間にか嫌なことでも言っちゃったのかな。
「美優ちゃんが心配することはないわ。彼女が不機嫌そうなのは、美優ちゃんとは関係ないことよ」
「え、なんで? 萌ちゃん、理由、わかるの?」
「多分、ね」
そう言って萌ちゃんは、くすくすと笑った。
「だから美優ちゃんは、何も心配することはないのよ」
よくわからないけど、萌ちゃんがいいって言うならいいのかな。うーん、でもちょっともやもやするう。
私たちは、自分のランドセルを持って教室を出た。階段をおりながら、莉子ちゃんが言い出す。
「ねえ、今日は三角公園に遊びに行かない? ちょうど今、いちょうがすごくきれいだって、美由紀ちゃんが言ってたの」
三角公園というのは、公園の形が三角だからそう呼んでいるだけで、本当の名前はちゃんとあるらしい。敷地面積が小さいから男子がサッカーをやるスペースもなく、でもブランコや滑り台なんかの遊具は少しあって、女子が遊ぶにはちょうどいい公園だ。
あの公園には大きないちょうの木があって、時期になれば葉っぱが黄色になってすごくきれいだ。
「莉子ちゃん、感想文終わったの?」
「えー? でも……まだ明日もあるし」
「明日は莉子ちゃん、ピアノだよね。今日やらないと、木曜に提出できないよ?」
莉子ちゃんは、がっくりと肩をおとしてため息をついた。
「……やっぱ、今日やっちゃわなきゃだめだよねえ……」
「がんばってね、莉子ちゃん。私もあと一枚書かなきゃだし」
昨日は萌ちゃんに天使の話を聞いて興奮しちゃって、すっかり感想文のことなんて忘れてしまったのだ。
それに今日は、帰ってから萌ちゃんと一緒に市立図書館に行く約束しちゃったし。
「しかたないなあ。美優と同じレベルなんてやだし、さっさとやっちゃうか」
「莉子ちゃん、ひどい……」
私たちが下駄箱まで来たところで、となりの六年生の下駄箱にも人がいるのに気が付いた。
「萌ちゃん、あの人。宮崎さんだよ」
やっぱり帰るとこらしく、数人の女子と一緒におしゃべりをしている宮崎さんが靴をはきかえていた。
「慎君、早くしないと、自習室の席なくなっちゃうわよ?」
そう言って安永さんは慎君の手を引っ張っていく。
「気にしすぎかな。……じゃ、美優さん、また明日」
「あ、うん、また明日。安永さん、バイバイ」
結局、慎君の話って、なんだったんだろう。
私が手を振ると、慎君は同じように手を振ってくれたけど、安永さんはこっちを見もしないで教室を出て行ってしまった。その様子に、少しだけ心がざわざわする。
なんか最近、安永さんににらまれることが多いなあ。一、二年生のころ、同じクラスだった時にはもっと気軽に話せたのに。
あ。もしかして、変わったってこういうこと?
「萌ちゃん」
私は、萌ちゃんを、そ、と呼ぶ。莉子ちゃんと美由紀さんは、何やら向こうで話していた。
「今の安永さん、きれいな黒髪だったでしょ?」
「そうね」
「あのね、彼女、前はもっと普通に私と話をしてたの。けど、最近、なんでかわかんないけどあんなふうにきつくなっちゃったのよ。もしかしてこれって……」
私が真剣な顔で言ったら、萌ちゃんは、なぜかにっこりと笑った。
「彼女は違うわ」
「え……そうなの?」
「ええ。近くで見てみたけど、彼女の持つ闇は通常の範囲内よ。ちょっと不機嫌に見えるけれど、おおかれ少なかれ、人は不満とか不安とか負の感情をもっているものだから」
「そうなんだ。じゃあ、何か私、安永さんに嫌われるようなことしちゃったのかなあ……」
心当たりはないけど、いつの間にか嫌なことでも言っちゃったのかな。
「美優ちゃんが心配することはないわ。彼女が不機嫌そうなのは、美優ちゃんとは関係ないことよ」
「え、なんで? 萌ちゃん、理由、わかるの?」
「多分、ね」
そう言って萌ちゃんは、くすくすと笑った。
「だから美優ちゃんは、何も心配することはないのよ」
よくわからないけど、萌ちゃんがいいって言うならいいのかな。うーん、でもちょっともやもやするう。
私たちは、自分のランドセルを持って教室を出た。階段をおりながら、莉子ちゃんが言い出す。
「ねえ、今日は三角公園に遊びに行かない? ちょうど今、いちょうがすごくきれいだって、美由紀ちゃんが言ってたの」
三角公園というのは、公園の形が三角だからそう呼んでいるだけで、本当の名前はちゃんとあるらしい。敷地面積が小さいから男子がサッカーをやるスペースもなく、でもブランコや滑り台なんかの遊具は少しあって、女子が遊ぶにはちょうどいい公園だ。
あの公園には大きないちょうの木があって、時期になれば葉っぱが黄色になってすごくきれいだ。
「莉子ちゃん、感想文終わったの?」
「えー? でも……まだ明日もあるし」
「明日は莉子ちゃん、ピアノだよね。今日やらないと、木曜に提出できないよ?」
莉子ちゃんは、がっくりと肩をおとしてため息をついた。
「……やっぱ、今日やっちゃわなきゃだめだよねえ……」
「がんばってね、莉子ちゃん。私もあと一枚書かなきゃだし」
昨日は萌ちゃんに天使の話を聞いて興奮しちゃって、すっかり感想文のことなんて忘れてしまったのだ。
それに今日は、帰ってから萌ちゃんと一緒に市立図書館に行く約束しちゃったし。
「しかたないなあ。美優と同じレベルなんてやだし、さっさとやっちゃうか」
「莉子ちゃん、ひどい……」
私たちが下駄箱まで来たところで、となりの六年生の下駄箱にも人がいるのに気が付いた。
「萌ちゃん、あの人。宮崎さんだよ」
やっぱり帰るとこらしく、数人の女子と一緒におしゃべりをしている宮崎さんが靴をはきかえていた。
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