46 / 67
第五章 聞いてない!って言いたいのに
- 11 -
しおりを挟む
わあああと泣き崩れた安永さんを前に、私は、どうしていいのかわからなくておろおろする。今の話の中にいろんな情報が多すぎて、どこからどうやって答えていいのか。
黒いもやはぐるんぐるんと激しく動くし、安永さんは取り乱しているし。
なにか、安永さんの気を落ち着けることとか、嬉しいこととか……えええ、こんな時、なんて言ったらいいんだろう。
「私、全然、安永さんのことばかになんてしてないから」
「嘘! 見ていればわかるわよ!」
「そんなことない。安永さんは美人だし頭もいいし……」
「そんなの関係ないわ! あんたが何言ったって、慎君に……好きな人にそう思ってもらえなかったら何の意味もないじゃない!」
き、と安永さんは、涙で濡れた顔を私に向けた。
「慎君、他に好きな人がいるって言ってた。あんたじゃないの? だからいつも……」
「違うよ」
ふんわりとした声が、私たちの間に落ちた。二人で勢いよく振り返ると、廊下から慎君がのぞいている。
「慎君!」
「僕の好きな人は、相葉さんじゃないよ。君たちの知らない、他校の生徒」
安永さんは驚いたのか、目を真ん丸にして固まったままだ。
「慎君、今の、聞いてたの?」
「ごめんね、聞こえちゃった。菊池さんがうちのクラスに来て、ここに安永さんがいるから行って様子を見てきてくれって」
慎君は、私に向かうとにっこりと笑った。
「ごめんね、相葉さん。僕たちのことに巻き込んじゃって」
「あ、ううん……いえ……」
それ以外、言いようがない。
「安永さん」
慎君は、校舎の中からベランダに出てくると、安永さんの前に立った。
「昨日も言った通り、僕は君の気持には応えられない。でもね、ライバルとしての君を、心から尊敬している。君ほどの努力家を、僕は他に知らないよ。これからも僕にいい影響を与えてほしいと思っているし、僕も君の力になれればと思っている。心からそう思っているのは、本当だよ」
慎君の言葉を、安永さんは、じ、と彼を見つめながら聞いていた。
と。
その背中のもやが、しゅるしゅると小さくなっていく。
その変化に、私は目を見張った。
「私のこと……嫌いに、ならない?」
「どうして?」
「だって……私、取り乱して、ひどいことを……」
「悪いと思ったら、謝ればいい。君ならできるだろう?」
ちら、と私の方を見ると、安永さんはうつむいた。
その時はもう、黒いもやは手のひらサイズにまで小さくなっていた。
あんなに大きかったもやなのに。
「ごめんなさい、相葉さん。私のかんちがいだったみたい」
「ううん……」
全く消えたわけじゃないけれど、安永さんの背中のもやは、もうほんの少しになってしまった。
私は、あぜんとした気持ちでそれを見ている。
黒いもやはぐるんぐるんと激しく動くし、安永さんは取り乱しているし。
なにか、安永さんの気を落ち着けることとか、嬉しいこととか……えええ、こんな時、なんて言ったらいいんだろう。
「私、全然、安永さんのことばかになんてしてないから」
「嘘! 見ていればわかるわよ!」
「そんなことない。安永さんは美人だし頭もいいし……」
「そんなの関係ないわ! あんたが何言ったって、慎君に……好きな人にそう思ってもらえなかったら何の意味もないじゃない!」
き、と安永さんは、涙で濡れた顔を私に向けた。
「慎君、他に好きな人がいるって言ってた。あんたじゃないの? だからいつも……」
「違うよ」
ふんわりとした声が、私たちの間に落ちた。二人で勢いよく振り返ると、廊下から慎君がのぞいている。
「慎君!」
「僕の好きな人は、相葉さんじゃないよ。君たちの知らない、他校の生徒」
安永さんは驚いたのか、目を真ん丸にして固まったままだ。
「慎君、今の、聞いてたの?」
「ごめんね、聞こえちゃった。菊池さんがうちのクラスに来て、ここに安永さんがいるから行って様子を見てきてくれって」
慎君は、私に向かうとにっこりと笑った。
「ごめんね、相葉さん。僕たちのことに巻き込んじゃって」
「あ、ううん……いえ……」
それ以外、言いようがない。
「安永さん」
慎君は、校舎の中からベランダに出てくると、安永さんの前に立った。
「昨日も言った通り、僕は君の気持には応えられない。でもね、ライバルとしての君を、心から尊敬している。君ほどの努力家を、僕は他に知らないよ。これからも僕にいい影響を与えてほしいと思っているし、僕も君の力になれればと思っている。心からそう思っているのは、本当だよ」
慎君の言葉を、安永さんは、じ、と彼を見つめながら聞いていた。
と。
その背中のもやが、しゅるしゅると小さくなっていく。
その変化に、私は目を見張った。
「私のこと……嫌いに、ならない?」
「どうして?」
「だって……私、取り乱して、ひどいことを……」
「悪いと思ったら、謝ればいい。君ならできるだろう?」
ちら、と私の方を見ると、安永さんはうつむいた。
その時はもう、黒いもやは手のひらサイズにまで小さくなっていた。
あんなに大きかったもやなのに。
「ごめんなさい、相葉さん。私のかんちがいだったみたい」
「ううん……」
全く消えたわけじゃないけれど、安永さんの背中のもやは、もうほんの少しになってしまった。
私は、あぜんとした気持ちでそれを見ている。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
2
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる