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第七章 片翼の天使
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「あの時、嘘をついて、ごめんなさい。でももし生まれた子供に翼があったら、きっと天界に連れて行かれてしまっただろうし、私はすべてを忘れさせられるだろうということも知っていた。私は、あなたのことを絶対に忘れたくなかったの。そして、この子を自分で育てたかった。大好きなあなたの子供だからこそ、この手で抱きしめたかったのよ」
「いいよ。君の想像は、それほど間違ってはいない。その判断は正しかったんだ。でも、これからは」
藤崎さんは、優しい顔でママを見ている。
「どうか、僕に君と美優を守らせてほしい」
「藤崎さん……」
「ママ、藤崎さんは私のパパなの?」
ママはしばらく黙っていたけれど、こくりと頷いた。
「そうよ。彼が、美優のパパなの」
☆
それから藤崎さんは、萌ちゃんと二人で莉子ちゃんを家に帰しにいった。明日になれば、さっき莉子ちゃんに起こったことは、もう記憶に残っていないんだって。本当は、私の時もそうなるはずだった。
「ねえママ、私って天使の娘なの?」
アパートに帰ってココアを入れると、私はまたママに聞いた。
「そうなるわね。美優の半分は、天使なの」
「自分が天使だなんて実感ないけど……半分、かあ。だから翼も半分しなかったのかな……」
藤崎さんは立派な翼をもっていたし、萌ちゃんだって透き通るきれいな翼をもっていた。
なんで、私だけ一枚なんだろう。
「いいいじゃない、半分でも」
「ママ?」
「だって美優は、人間のいいところと天使のいいところを、はんぶんこづつ両方とも持っているってことだもの。具体的に一枚だけで不便を感じるといったら空を飛べないことしか今はわからないけど、おかげで美優は天界に行かないですんでいるんだもの。ママにしたら一枚でよかった、って嬉しいくらいよ」
「そっか……」
ああ、でも自分の翼で空を飛んでみたかったなあ。
私は、自分の背中を振り返る。ふん、と力を入れてみるけど、さっきみたいな翼は出てこなかった。んー、と力み続ける私を、ママが笑った。
「必要なら、きっとその時に出てくるのよ。きっとそれも、藤崎さんが教えてくれるわ」
そういえば。
「前にママが話してくれたとても好きだった人って、藤崎さんのことだったんだ」
そう聞くと、ママはちょっと顔を赤くした。
「……そうよ」
「ママ、今でも藤崎さんのことが好きなの?」
かかか、とさらにママの顔が赤くなる。それを見て、何も言わなくてもママが今でも藤崎さんのことが好きなんだということがわかった。
「よかったね。藤崎さんも、ママのこと愛してるって言ってたよ」
私が言うと、ママは怒ったように口をとがらせた。
「も、もう、あの人、子供の前でなんてこと言うのよ」
「いいじゃない。今でもパパとママが愛し合ってるってわかって、私、すごく嬉しい」
そのとき、ピンポーンとチャイムがなった。ママと私が、瞬時に固まる。
きっと藤崎さんだ。莉子ちゃんを家に帰してから、もう一度会いに来る、って言ってたから。
そわそわと緊張しながら玄関に出て行ったママが、すぐに私を呼んだ。
「美優、颯太君よ」
「颯太?」
「いいよ。君の想像は、それほど間違ってはいない。その判断は正しかったんだ。でも、これからは」
藤崎さんは、優しい顔でママを見ている。
「どうか、僕に君と美優を守らせてほしい」
「藤崎さん……」
「ママ、藤崎さんは私のパパなの?」
ママはしばらく黙っていたけれど、こくりと頷いた。
「そうよ。彼が、美優のパパなの」
☆
それから藤崎さんは、萌ちゃんと二人で莉子ちゃんを家に帰しにいった。明日になれば、さっき莉子ちゃんに起こったことは、もう記憶に残っていないんだって。本当は、私の時もそうなるはずだった。
「ねえママ、私って天使の娘なの?」
アパートに帰ってココアを入れると、私はまたママに聞いた。
「そうなるわね。美優の半分は、天使なの」
「自分が天使だなんて実感ないけど……半分、かあ。だから翼も半分しなかったのかな……」
藤崎さんは立派な翼をもっていたし、萌ちゃんだって透き通るきれいな翼をもっていた。
なんで、私だけ一枚なんだろう。
「いいいじゃない、半分でも」
「ママ?」
「だって美優は、人間のいいところと天使のいいところを、はんぶんこづつ両方とも持っているってことだもの。具体的に一枚だけで不便を感じるといったら空を飛べないことしか今はわからないけど、おかげで美優は天界に行かないですんでいるんだもの。ママにしたら一枚でよかった、って嬉しいくらいよ」
「そっか……」
ああ、でも自分の翼で空を飛んでみたかったなあ。
私は、自分の背中を振り返る。ふん、と力を入れてみるけど、さっきみたいな翼は出てこなかった。んー、と力み続ける私を、ママが笑った。
「必要なら、きっとその時に出てくるのよ。きっとそれも、藤崎さんが教えてくれるわ」
そういえば。
「前にママが話してくれたとても好きだった人って、藤崎さんのことだったんだ」
そう聞くと、ママはちょっと顔を赤くした。
「……そうよ」
「ママ、今でも藤崎さんのことが好きなの?」
かかか、とさらにママの顔が赤くなる。それを見て、何も言わなくてもママが今でも藤崎さんのことが好きなんだということがわかった。
「よかったね。藤崎さんも、ママのこと愛してるって言ってたよ」
私が言うと、ママは怒ったように口をとがらせた。
「も、もう、あの人、子供の前でなんてこと言うのよ」
「いいじゃない。今でもパパとママが愛し合ってるってわかって、私、すごく嬉しい」
そのとき、ピンポーンとチャイムがなった。ママと私が、瞬時に固まる。
きっと藤崎さんだ。莉子ちゃんを家に帰してから、もう一度会いに来る、って言ってたから。
そわそわと緊張しながら玄関に出て行ったママが、すぐに私を呼んだ。
「美優、颯太君よ」
「颯太?」
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