男装ホストは未来を見る

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見知った顔

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パタンッ

「よいっしょっと…」

裏口から路地裏に出ると沢山の空き缶入りの袋を隅の方に並べる。
空は完全に日は落ち店内では開店と同時にお客様が多数入り既に盛り上がっている声を耳にしているとふと街中で女性の大きな声が聞こえた。

「…これでカナトくんに会わせて!」

「ん~…これじゃ無理なんだよね~」

「あと五百万あったら足りるんだけどね~」

その声の方を見ると街の隅の影で二人の男性と一人の女性が話しているのが目に入った。

「あれは…」

よく見るとまりりんこと井川さんだと分かり空き缶入りの袋を全て置き終わり話が聞こえる範囲の店横のブロックの影に身を潜める。

何話してるんだろ?それにあの二人組の男ってどっかで…

目を凝らし男の顔を見るとショッピングセンターにて見覚えのある絡んできた男二人だった。

何であんな奴らと井川さんが…?

嫌な予感しかしない三人の様子に真剣に様子を見守る。

「…そんな!?もうこれでカナトに会えるお金は足りるはずよ!更に上乗せなんて詐欺よ!」

「な~に詐欺呼ばわりしてるんだ?」

「俺達はカナトさんの当然の指名料を言ったまでだけど?そちらさんが勘違いしたんだろ?」

「そんなっ…!」

「会いたいなら残りの五百万持ってこい!じゃなきゃカナトさんはおわずけだ…ひひっ」

不敵に笑う男の言葉に青ざめた顔のまま井川はその場を後にした。

これ何か裏がある…更に五百万なんてそんな騙すような真似普通ならありえない!

今すぐにでも男達に殴り飛ばして問い詰めたい気持ちがいっぱいだったが今出ていった所で街中で騒ぎになるのは目に見えていた。
一応お店で働いてる中、そのような騒ぎで迷惑をかけるわけにもいかずその様子をただただ歯がゆい気持ちで男達を睨んでいると話が終わった男達が真っ直ぐにこちらに歩いて来た。

えっ…ど、どうしよ!?一応、影に隠れてるからバレないだろうけど…

「ねぇ、彼女~?さっきから俺達の事見て俺達と遊びたいのかな~?」

げっ…バレてた!?

男の視線は真っ直ぐ星那を捉えそのゲスい声を投げかける。

「べ、別に見てなんかないです…!仕事中なので失礼します…」

パシッ

「そんな連れないこといわないでさ~俺達と遊ぼうよ?ね?」

踵を返し裏口に戻ろうとした瞬間、もう一人の男に腕を捕まれ止められる。

「は、離してくださいっ!」

いつもの護身術で腕をくねらせ振りほどくともう一人の男に壁に追いやられ至近距離で男達に囲まれ逃げ道を封じられた。

「へ~、間近で見るとますます上玉だね…」

汚い目で全身を舐めるように見られ背筋がゾッとするし、至近距離の為男達から煙草やお酒の臭い匂いが鼻をくすぐった。

無理っ…しかもドブ水みたいな口臭だし!

あからさまに顔を歪ませていると全身を見終わった男達の視線が顔に向き直り一人の男の指が胸元に伸ばされる。

っ…いやっ!

思わず目を瞑り空いている足が男の股間を蹴りあげようとした瞬間、横から伸ばされた男の手を掴み制された。

「…その汚い手で触れるなゲス!」

聞き覚えのある声に目を開くと男の手を怒りをあらわに掴む蓮さんの姿あった。

「…蓮…さん?」

海賊みたいな藍色や黒を基調としたブーツや帽子にロングジャケットを華麗に羽織り黒の眼帯をした蓮の服装に地毛である黒髪と紫色のカラコンが更に海賊の服装にマッチしていた。

「何だてめぇ!?ふざけた格好しやがって…邪魔すんじゃねぇよ!」

一人の男が蓮さんに掴みかかろうと手を伸ばすものの掴んでいたもう一人の男の手を捻り掴みかかる男の手を華麗にかわし横にいた星那を抱き寄せる。

「これ俺のだから…花吹雪の人はおかえり願おうか?」

「えっ!?花吹雪!?」

こいつらホストだったのか…見た目だけチャラ過ぎて分からなかった。

目の前の男二人をマジマジと見つめ驚いていると、蓮の正体が分かってないらしい二人から反論の言葉が飛び出す。

「ホスト業界のトップを走る花吹雪に帰れとか馬鹿じゃねぇの?」

「ふっ…コスプレ野郎が頭いいわけねぇだろ」

イラッ…何か腹立ってきた…

「っ…蓮さんはそんなんじゃ…んぐっ!?」

反論しようとした瞬間、蓮の空いているもう片方の手が口を塞いだ。

「へ~…言ってくれるねぇ……チャラチャラしてるだけの汚ぇ餓鬼が調子のってんじゃねぇぞ?」

「っ…」

急にトーンを落とした蓮の声と紫色のカラコンが細く睨まれ威勢を張っていた男達は後ずさりし恐怖で顔を歪ませた。

凄い…

あまりの迫力にすぐ側にいる蓮を見上げると細く睨んでいた目を緩ませ口元をあげると口を塞いでいた手を外しそのまま頭の上に置く。

「こいつは俺の宝だ!海賊の宝に手を出されたら怒るのは当たり前だろ?」

「…は?」

蓮の意味不明な言葉にその場にいた全員が唖然とすると、それを無視しながら頭に置かれた手で嬉しそうに星那を撫でる。

蓮さんって不思議…普段は駄目駄目のていたらく人間なのに仕事の時や誰かが困ってるとクールでかっこよくて頼りがいがある先輩って感じ…

「こんな可愛いメイドを海賊から奪う奴は船長の俺が許さないんで…そのつもりでな?」

腰に当てていた手や撫でていた手を星那の肩に置き後ろから抱きしめながら言う蓮に、あまりの状況に慣れてきたのか意識を取り戻した男達が反論かのように叫ぶ。

「さっきから何ふざけた事言ってんだ!宝やメイドってお前の所有物つー証拠なんてあんのかよ!」

「証拠ねぇ…なら隣の店をガン見してくれば所有物の意味が分かるかもな?」

「…は?」

男達は言われるがまま横のお店の看板をマジマジと見ると唖然と体を固まらせ途端に見る見ると顔を青ざめていった。

「どうだ?分かってくれたか?」

「っ…お前まさか…」

「『Star』のナンバーワンでありオーナーの…蓮!?」

「ご名答!んでこっちが俺の愛玩用の専属メイド せなちゃんね!」

グイッ!

蓮の言葉にすぐに反応し肩に乗せられた蓮の顔を平手で押す。

「誰が愛玩用専属メイドですかっ!」

ふざけんな!嘘でもそんなものになる気はないっ!

「痛っ!悪いって…!」

謝る蓮に手を離しムスッとした顔で頬を膨らませ睨む。

「…おい!やべぇって…『Star』のトップなんかに絡んでも俺達じゃ勝てねぇよ…!」

「ここは一旦引くしかねぇな…」

男達の話し合う声に振り向くと睨みをきかせつつも後ずさりしそのまま深夜の街中に消えていった。

「はぁ…色々面倒な事になりそうだなぁ…」

この後なりうりそうな事態に溜息をつくと後ろから抱き締めていた蓮が飄々と呟く。

「まぁ、その時はその時だ!とにかく今は目の前の事を楽しもうぜ?」

「そうですね、早くメイドの格好なんかやめて元に戻りたいです」

「ははっ!言葉まで女言葉使うのもさすがにキツイよな?まぁ、俺としちゃこのままでもいいんだが…」

「冗談じゃないですよっ!先に戻ってます!」

星那は蓮の回された腕を振りほどき裏口へと入っていった。

「ふっ…機嫌はなおったみたいでよかった」

朝まで話かても無視し続けていた星那の姿を思い出しながら、先程裏口へと向かい口元だけでも笑っていた星那の顔を照らし合わせつつ安堵の気持ちで誰もいない路地裏にてふと小さく笑うのだった。










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