83 / 108
すれ違う兄弟
しおりを挟む
隆二と別れ家を出て椿が待つ交差点へと向かうとすぐに電話で言っていた赤いポルシェが目に入った。
道路脇に止められた赤いポルシェに駆け寄り中にいる椿に窓越し会釈をすると自動で後頭部座席のドアが開き中に入る。
ガチャ…
「すみません!遅くなってしまって…」
「大丈夫ですよ、まだ五分しか過ぎてませんから…それより美嶋さんには明日式典を開く会場に案内しようと思うのですが、宜しいですか?」
「はい、よろしくお願いします」
*
チックタックチックタック…
それから数分後、静かな車内の中で目の前に置かれた小型の時計の音だけが響き渡る。
あ~…気まづいっ!
何を話していいかも分からずあまりの気まづさに居た堪れないでいると、目の前に座る椿の方から口を開いた。
「今日も女装なんですね…?」
「男物できちんとした服装がなかったので仕方なく女物に…やっぱりこんな服じゃ不愉快ですか?」
「いえ…ただ女性にしか見えないので」
メガネを押し上げながらミラー越しで照れながら言う椿に苦笑いを浮かべる。
「ふふっ…よく言われます」
「…兄が傍に置きたくなるのも分かる気します」
「え?」
「いえ…美嶋さんのような方が兄を支えられる人なんだろうと思いまして」
「俺なんて全然そんなんじゃないです!俺より隆二さんが一番蓮さんの事見てきてるし支えてると思います」
「ふふっ…兄は沢山の人に思われて羨ましいです」
「蓮さんからしたらきっとその中に高坂さんもいると思います」
「…私は兄に思われるような弟ではないですよ」
「何でそんな…」
「私は昔の後継者と騒がれていた頃の兄が大好きでした…誰よりも尊敬し崇拝していた兄だったのにある日ホストになるといい後継者になってくれと言われ…私は兄を否定した」
「否定って…?」
「兄がやろうとしていたホストの事も後継者を降りる兄の事も全て否定してしまったんだ…本当はただ兄の描く絵が好きで兄の傍らでずっと支えたかっただけなのに」
「高坂さん…」
本当は誰よりも蓮さんの事を慕っているのに今では顔を合わせたらいがみ合ってすれ違ってばかり…高坂さんの本当の気持ちを素直に蓮さんに言えればいいのに…
ミラー越しに見える暗い顔の椿を見ながら思うのだった。
*
式典となる会場に着くとそこには巨大なドームがあり野球ドームと変わらない程の面積だった。
椿に案内されるがままに中に入ると入口付近で受け付けらしき女性がカウンターの上でチラシの整理をしていた。
「君、ちょっといいかな?」
ガタンッ
「は、えっ!?椿さん!?」
椿の顔を見るなり女性は持っていたチラシを落としカウンターに足をぶつけた。
「菫姉さん、何処に居るか知ってるかな?」
「す、菫さんなら展示ブースの点検をしておりますっ!」
「そう…ありがとう」
「は、はいっ!」
ニッコリと女性に向かって椿が笑うと女性は頬を染めながら何度も頷いた。
へ~…高坂さんモテるんだなぁ…まぁ、あの兄の弟だから当たり前か
女性の熱い視線を見事に無視し真っ直ぐに先に続く厚い扉を開けられ通されると中はカラフルな水玉模様の壁に額縁に入れられた絵が無数に飾られ長く広い通路になっていた。
キー…
「うわぁ…凄すぎて何だか場違いな気がします」
「この通路は展示ブースとなっています」
「へ~…もしかしてこの絵全部高坂さんのお父さんのですか?」
「そうだよ」
絵には様々な服を着た女性や自然をモチーフとされた風景が描かれていた。
「父は自然をモチーフに様々なデザインを生み出しそれが世界にまで評価され今ではデザイン提供や展示会を多数しています」
「本当に凄い人なんですね、高坂 道天さんって…」
改めて感じる天と地の差の違いに感嘆していると目の前から真っ直ぐに歩いて来る黒いスーツに赤毛の長い髪を揺らした綺麗な女性がいた。
「椿!来てるなら言ってくれれば良かったのに!」
「姉さんは前日の点検で忙しいだろ?あまり気を揉ませたくなかったんだよ」
「ふふっ…相変わらず表向きは善人な男ね」
「人が悪い事言わないでくれ…それより美嶋さんを会堂室まで案内したいんだが鍵を開けてくれないか?」
「美嶋さん…?ああ、兄さんと一緒に暮してるっていう例の…」
「美嶋 星那といいます。暮してるっていうか居候ですが…」
「ふふっ…どんな子かと思ったら可愛らしい女性だったのね」
「あ、いえ!その事情があってこの姿なんですけど、本当は男です!」
「えぇ!?」
マジマジと凝視する菫にたじろぎながらも固まっていると結局、納得出来ないのか首を傾げていた。
「ん~?どう見ても女性にしか見えないわ…」
「俺もそう思うよ」
姉弟揃って首を傾げている様子に慌てて話を切り出す。
「あ、えっと…会堂室ってどんな所なんですか?」
「会堂室?…会堂室は式典の際に表明する場所なのよ」
「そうなんですか…行ってみたいです!」
「ふふっ…じゃ、さっそく案内を…」
プルルッ…
するとタイミング悪く菫の携帯が鳴り話を中断し電話相手と何やら話終えると椿にこっそり耳打ちをする。
「…分かった、急いで取り次ぐよ」
「ごめんね、私も出来ることはするから…」
「あ、あの…」
「ごめんなさい!少し急ぎの仕事が入って美嶋さんを案内するのは出来なくなったの…すぐ終わらせるから先に会堂室まで行っててくれないかしら?」
そう言うとポケットから会堂室の鍵と思われる鍵を差し出され受け取る。
「私は大丈夫です。それより椿さんも菫さんも急いで仕事に戻ってもらって大丈夫です!」
「ごめんね、美嶋さん…すぐ終わらせるから!」
椿の言葉に笑顔で頷き二人を見送ると手の中にある鍵をポケットに入れ先に会堂室へと向かった。
道路脇に止められた赤いポルシェに駆け寄り中にいる椿に窓越し会釈をすると自動で後頭部座席のドアが開き中に入る。
ガチャ…
「すみません!遅くなってしまって…」
「大丈夫ですよ、まだ五分しか過ぎてませんから…それより美嶋さんには明日式典を開く会場に案内しようと思うのですが、宜しいですか?」
「はい、よろしくお願いします」
*
チックタックチックタック…
それから数分後、静かな車内の中で目の前に置かれた小型の時計の音だけが響き渡る。
あ~…気まづいっ!
何を話していいかも分からずあまりの気まづさに居た堪れないでいると、目の前に座る椿の方から口を開いた。
「今日も女装なんですね…?」
「男物できちんとした服装がなかったので仕方なく女物に…やっぱりこんな服じゃ不愉快ですか?」
「いえ…ただ女性にしか見えないので」
メガネを押し上げながらミラー越しで照れながら言う椿に苦笑いを浮かべる。
「ふふっ…よく言われます」
「…兄が傍に置きたくなるのも分かる気します」
「え?」
「いえ…美嶋さんのような方が兄を支えられる人なんだろうと思いまして」
「俺なんて全然そんなんじゃないです!俺より隆二さんが一番蓮さんの事見てきてるし支えてると思います」
「ふふっ…兄は沢山の人に思われて羨ましいです」
「蓮さんからしたらきっとその中に高坂さんもいると思います」
「…私は兄に思われるような弟ではないですよ」
「何でそんな…」
「私は昔の後継者と騒がれていた頃の兄が大好きでした…誰よりも尊敬し崇拝していた兄だったのにある日ホストになるといい後継者になってくれと言われ…私は兄を否定した」
「否定って…?」
「兄がやろうとしていたホストの事も後継者を降りる兄の事も全て否定してしまったんだ…本当はただ兄の描く絵が好きで兄の傍らでずっと支えたかっただけなのに」
「高坂さん…」
本当は誰よりも蓮さんの事を慕っているのに今では顔を合わせたらいがみ合ってすれ違ってばかり…高坂さんの本当の気持ちを素直に蓮さんに言えればいいのに…
ミラー越しに見える暗い顔の椿を見ながら思うのだった。
*
式典となる会場に着くとそこには巨大なドームがあり野球ドームと変わらない程の面積だった。
椿に案内されるがままに中に入ると入口付近で受け付けらしき女性がカウンターの上でチラシの整理をしていた。
「君、ちょっといいかな?」
ガタンッ
「は、えっ!?椿さん!?」
椿の顔を見るなり女性は持っていたチラシを落としカウンターに足をぶつけた。
「菫姉さん、何処に居るか知ってるかな?」
「す、菫さんなら展示ブースの点検をしておりますっ!」
「そう…ありがとう」
「は、はいっ!」
ニッコリと女性に向かって椿が笑うと女性は頬を染めながら何度も頷いた。
へ~…高坂さんモテるんだなぁ…まぁ、あの兄の弟だから当たり前か
女性の熱い視線を見事に無視し真っ直ぐに先に続く厚い扉を開けられ通されると中はカラフルな水玉模様の壁に額縁に入れられた絵が無数に飾られ長く広い通路になっていた。
キー…
「うわぁ…凄すぎて何だか場違いな気がします」
「この通路は展示ブースとなっています」
「へ~…もしかしてこの絵全部高坂さんのお父さんのですか?」
「そうだよ」
絵には様々な服を着た女性や自然をモチーフとされた風景が描かれていた。
「父は自然をモチーフに様々なデザインを生み出しそれが世界にまで評価され今ではデザイン提供や展示会を多数しています」
「本当に凄い人なんですね、高坂 道天さんって…」
改めて感じる天と地の差の違いに感嘆していると目の前から真っ直ぐに歩いて来る黒いスーツに赤毛の長い髪を揺らした綺麗な女性がいた。
「椿!来てるなら言ってくれれば良かったのに!」
「姉さんは前日の点検で忙しいだろ?あまり気を揉ませたくなかったんだよ」
「ふふっ…相変わらず表向きは善人な男ね」
「人が悪い事言わないでくれ…それより美嶋さんを会堂室まで案内したいんだが鍵を開けてくれないか?」
「美嶋さん…?ああ、兄さんと一緒に暮してるっていう例の…」
「美嶋 星那といいます。暮してるっていうか居候ですが…」
「ふふっ…どんな子かと思ったら可愛らしい女性だったのね」
「あ、いえ!その事情があってこの姿なんですけど、本当は男です!」
「えぇ!?」
マジマジと凝視する菫にたじろぎながらも固まっていると結局、納得出来ないのか首を傾げていた。
「ん~?どう見ても女性にしか見えないわ…」
「俺もそう思うよ」
姉弟揃って首を傾げている様子に慌てて話を切り出す。
「あ、えっと…会堂室ってどんな所なんですか?」
「会堂室?…会堂室は式典の際に表明する場所なのよ」
「そうなんですか…行ってみたいです!」
「ふふっ…じゃ、さっそく案内を…」
プルルッ…
するとタイミング悪く菫の携帯が鳴り話を中断し電話相手と何やら話終えると椿にこっそり耳打ちをする。
「…分かった、急いで取り次ぐよ」
「ごめんね、私も出来ることはするから…」
「あ、あの…」
「ごめんなさい!少し急ぎの仕事が入って美嶋さんを案内するのは出来なくなったの…すぐ終わらせるから先に会堂室まで行っててくれないかしら?」
そう言うとポケットから会堂室の鍵と思われる鍵を差し出され受け取る。
「私は大丈夫です。それより椿さんも菫さんも急いで仕事に戻ってもらって大丈夫です!」
「ごめんね、美嶋さん…すぐ終わらせるから!」
椿の言葉に笑顔で頷き二人を見送ると手の中にある鍵をポケットに入れ先に会堂室へと向かった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
婚約解消されたら隣にいた男に攫われて、強請るまで抱かれたんですけど?〜暴君の暴君が暴君過ぎた話〜
紬あおい
恋愛
婚約解消された瞬間「俺が貰う」と連れ去られ、もっとしてと強請るまで抱き潰されたお話。
連れ去った強引な男は、実は一途で高貴な人だった。
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる