男装ホストは未来を見る

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すれ違う兄弟

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隆二と別れ家を出て椿が待つ交差点へと向かうとすぐに電話で言っていた赤いポルシェが目に入った。
道路脇に止められた赤いポルシェに駆け寄り中にいる椿に窓越し会釈をすると自動で後頭部座席のドアが開き中に入る。

ガチャ…

「すみません!遅くなってしまって…」

「大丈夫ですよ、まだ五分しか過ぎてませんから…それより美嶋さんには明日式典を開く会場に案内しようと思うのですが、宜しいですか?」

「はい、よろしくお願いします」

 *

チックタックチックタック…

それから数分後、静かな車内の中で目の前に置かれた小型の時計の音だけが響き渡る。

あ~…気まづいっ!

何を話していいかも分からずあまりの気まづさに居た堪れないでいると、目の前に座る椿の方から口を開いた。

「今日も女装なんですね…?」

「男物できちんとした服装がなかったので仕方なく女物に…やっぱりこんな服じゃ不愉快ですか?」

「いえ…ただ女性にしか見えないので」

メガネを押し上げながらミラー越しで照れながら言う椿に苦笑いを浮かべる。

「ふふっ…よく言われます」

「…兄が傍に置きたくなるのも分かる気します」

「え?」

「いえ…美嶋さんのような方が兄を支えられる人なんだろうと思いまして」

「俺なんて全然そんなんじゃないです!俺より隆二さんが一番蓮さんの事見てきてるし支えてると思います」

「ふふっ…兄は沢山の人に思われて羨ましいです」

「蓮さんからしたらきっとその中に高坂さんもいると思います」

「…私は兄に思われるような弟ではないですよ」

「何でそんな…」

「私は昔の後継者と騒がれていた頃の兄が大好きでした…誰よりも尊敬し崇拝していた兄だったのにある日ホストになるといい後継者になってくれと言われ…私は兄を否定した」

「否定って…?」

「兄がやろうとしていたホストの事も後継者を降りる兄の事も全て否定してしまったんだ…本当はただ兄の描く絵が好きで兄の傍らでずっと支えたかっただけなのに」

「高坂さん…」

本当は誰よりも蓮さんの事を慕っているのに今では顔を合わせたらいがみ合ってすれ違ってばかり…高坂さんの本当の気持ちを素直に蓮さんに言えればいいのに…

ミラー越しに見える暗い顔の椿を見ながら思うのだった。

 *

式典となる会場に着くとそこには巨大なドームがあり野球ドームと変わらない程の面積だった。
椿に案内されるがままに中に入ると入口付近で受け付けらしき女性がカウンターの上でチラシの整理をしていた。

「君、ちょっといいかな?」

ガタンッ

「は、えっ!?椿さん!?」

椿の顔を見るなり女性は持っていたチラシを落としカウンターに足をぶつけた。

すみれ姉さん、何処に居るか知ってるかな?」

「す、菫さんなら展示ブースの点検をしておりますっ!」

「そう…ありがとう」

「は、はいっ!」

ニッコリと女性に向かって椿が笑うと女性は頬を染めながら何度も頷いた。

へ~…高坂さんモテるんだなぁ…まぁ、あの兄の弟だから当たり前か

女性の熱い視線を見事に無視し真っ直ぐに先に続く厚い扉を開けられ通されると中はカラフルな水玉模様の壁に額縁に入れられた絵が無数に飾られ長く広い通路になっていた。

キー…

「うわぁ…凄すぎて何だか場違いな気がします」

「この通路は展示ブースとなっています」

「へ~…もしかしてこの絵全部高坂さんのお父さんのですか?」

「そうだよ」

絵には様々な服を着た女性や自然をモチーフとされた風景が描かれていた。

「父は自然をモチーフに様々なデザインを生み出しそれが世界にまで評価され今ではデザイン提供や展示会を多数しています」

「本当に凄い人なんですね、高坂 道天さんって…」

改めて感じる天と地の差の違いに感嘆していると目の前から真っ直ぐに歩いて来る黒いスーツに赤毛の長い髪を揺らした綺麗な女性がいた。

「椿!来てるなら言ってくれれば良かったのに!」

「姉さんは前日の点検で忙しいだろ?あまり気を揉ませたくなかったんだよ」

「ふふっ…相変わらず表向きは善人な男ね」

「人が悪い事言わないでくれ…それより美嶋さんを会堂室まで案内したいんだが鍵を開けてくれないか?」

「美嶋さん…?ああ、兄さんと一緒に暮してるっていう例の…」

「美嶋 星那といいます。暮してるっていうか居候ですが…」

「ふふっ…どんな子かと思ったら可愛らしい女性だったのね」

「あ、いえ!その事情があってこの姿なんですけど、本当は男です!」

「えぇ!?」

マジマジと凝視する菫にたじろぎながらも固まっていると結局、納得出来ないのか首を傾げていた。

「ん~?どう見ても女性にしか見えないわ…」

「俺もそう思うよ」

姉弟揃って首を傾げている様子に慌てて話を切り出す。

「あ、えっと…会堂室ってどんな所なんですか?」

「会堂室?…会堂室は式典の際に表明する場所なのよ」

「そうなんですか…行ってみたいです!」

「ふふっ…じゃ、さっそく案内を…」

プルルッ…

するとタイミング悪く菫の携帯が鳴り話を中断し電話相手と何やら話終えると椿にこっそり耳打ちをする。

「…分かった、急いで取り次ぐよ」

「ごめんね、私も出来ることはするから…」

「あ、あの…」

「ごめんなさい!少し急ぎの仕事が入って美嶋さんを案内するのは出来なくなったの…すぐ終わらせるから先に会堂室まで行っててくれないかしら?」

そう言うとポケットから会堂室の鍵と思われる鍵を差し出され受け取る。

「私は大丈夫です。それより椿さんも菫さんも急いで仕事に戻ってもらって大丈夫です!」

「ごめんね、美嶋さん…すぐ終わらせるから!」

椿の言葉に笑顔で頷き二人を見送ると手の中にある鍵をポケットに入れ先に会堂室へと向かった。

 







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