最期の夜？ 遭難したと思ったら囲い込まれてました

３

＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊

そうして冬が訪れた。

未だ分らないことばかりの初めての雪国の冬。

住み込みとは言え、勝手の分らないことばかりで、私は一気に自信をなくしていた。

そんな思いとは別に、このホテルは稼ぎ時を迎えていた。

全国から集まるスキーとスノボーのお客様。

そんなお客様が、段取りに困る事無く、ゲレンデのチケットを入手して、事前に送ってこられた自身の荷物と出会えるように私は、自らがスキーもスノボーもできないのに心を砕いた。

それでも凄く不安に感じていた。

こんなに沢山のお客さまをゲレンデに送り出しているのに…

私は未だにスキーもスノボーもできない。
コースにもレンタルの道具にも天候にも詳しくない。

こんな事でいざという時に、お客様に真摯に向き合うことができるのだろうか。

ここで生きるからには、ここに相応しい技術を伴わなければならない。
それでなければ、お客さまの役に立てない。

問題も…感動も…
共有などできないのだ……

私はやり切れなさで唇を噛み締めた。

そんな私の葛藤を見透かしたように、御曹司は私に話しかけた。

『ねぇ…　春島さんは沖縄育ちって言ってたよね？ここ…一応冬季はスキー客が９割をしめるスキーリゾートだからさ…　やっぱり、今のままじゃ不味いと思うんだ。
責めてるわけじゃないよ。　僕にできることだったら力になるから…覚えよう？　スキー…』

そう、正論で己の瞳を覗き込まれた私は、いけないとは思いながらも頷いた。

彼は優しく顔を綻ばせた。

初日は御曹司に指導を受けた私だが、帰り際に、次の指導の日を考えていた御曹司の会話を遮った。

『あの…　お忙しいのに、私なんかにそんなお時間本当に結構ですから…　あ…　こちらにアルバイトに来ているインストラクターの人達とも私…　随分仲良くなりましたから、後は時々彼らに指導をお願いしますから。
だから、どうかもうお構いなく…　』

『そう…じゃ頑張ってね。何かあったらいつでも声をかけてね』

御曹司はそう言って小さく笑って、私の主張を認めてくれた。

いつだって、どんな時だって優しくて柔らかい人だった。

決して偉ぶることもなく、自分を押し付けるようなことをしない。



＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊