神殿育ちの嫌われΩは、隣国の伯爵αに蕩ける愛を刻まれる

甘梨鈴

文字の大きさ
117 / 129

第116話 カミラとブローチ

しおりを挟む








 ルシアンが大広間に戻ると、副官が急いで駆け寄ってきた。
「閣下ッ」
「どうした?」
 副官は眉をひそめ、険しい表情で耳打ちする。
「レーヴェン公爵令嬢が、青い鷲のブローチを身につけておりますッ」
「なに?」
「閣下が、あの御方へ贈られた物かと」
「盗んだのかッ!?」
 驚愕と怒りで、カッと頭に血が上る。
(あの男ッ……エマへの贈り物を奪い取って、別の女に渡しただと!?)
 あまりに卑劣な行為に、ルシアンは激怒した。
 視線を向けた先に、レオナールとカミラが談笑している姿が見える。彼女の、青を基調としたドレスの肩口に、確かに青い鷲のブローチが煌めいていた。
(盗んだ物と知って、着けているのか?)
 そう思ったが、気位の高い令嬢が、盗品を誇らしげに身につけるとは考えにくい。
 おそらく、レオナールは何も告げず、あたかも自らの贈り物のように渡したのだろう。
「行くぞ」
「はっ」
 ルシアンは赤い瞳に怒りを滲ませ、レオナールとカミラの元へ歩み寄った。
 レオナールは酔いに顔を赤くし、取り巻きたちと下品な笑い声を上げている。
 ルシアンは、躊躇無く割って入った。
「失礼いたします、王子。それにレーヴェン公爵令嬢」
「何だ貴様! 無礼だぞ!」
 レオナールが不快げに顔を歪める。
 カミラは扇子を口元に寄せ、蔑むように微笑んだ。
「まあ。何ですの? 帝国の紳士は、礼儀をお忘れになるのね?」
「どちらが無礼か、自覚はおありですか?」
 怒りを押し殺した声で、ルシアンは令嬢の肩に視線を向けた。
「そのブローチ。どちらから賜ったものか、伺っても?」
「あら? これのこと?」
 カミラが扇子を軽く動かし、青い鷲のブローチを見せびらかす。
「レオ様がくださったの。素敵でしょう?」
 カミラが自慢げに微笑んだ。
 ルシアンの怒りも読み取れず、媚びたような目で見上げてくる。まるで、ルシアンがレオナールに嫉妬して割り込んできたのだと、そう信じているような表情だ。
 ルシアンは侮蔑を隠そうともせず、怒りのこもった声で告げた。
「そのブローチは、私の物です。お返し頂きたい」
「まあっ! なんて無礼なお方!」
 カミラは上擦った声で、レオナールの腕にすがる。
「これは、レオ様がくださったものですわ!」
「それは誤りです」
 ルシアンは冷たい眼差しでカミラを見下ろす。
「ピエール・フォルジュの手による品は、すべて一点物。店の購入記録を確認すれば、誰が所有者か一目瞭然でしょう」
 カミラは息を呑み、レオナールを振り返る。そのレオナールは、眉をしかめ、焦った顔になった。
「レオ様?」
 カミラが、レオナールに確かめるように問いかけた。
「こちらの方に仰ってくださいまし。わたくしに似合うからと、お選びくださったのでしょう?」
「な、なにを言っている! お前が欲しいと、せがんだのだろう!」
 レオナールが動揺した声で言い放った。
 周囲の視線を感じたのか、慌てたように続ける。
「そもそも、これはアレからもらったのだ! なぜ貴様の持ち物を、アイツが持っているのだ!?」
「預かって頂いたのですよ。イーリス殿もそう申したはずですが」
「知らん! アレが、オレに差し出したのだ!」
 レオナールの無茶な弁解に、取り巻きたちは目を見交わす。
 ルシアンは鼻で笑った。
「いいえ。そのようなことは決してございません。イーリス殿は確かに『預かる』と仰った。聖樹が、帝国の貴賓である私に、偽りを申すとでも?」
「なっ!? 貴様、オレがウソをついていると言うのか!」
「先ほどから、偽りばかりではありませんか。レーヴェン公爵令嬢は、あなたから贈られたと証言している。間違いありませんね?」
 視線を向けられたカミラは、怒りに顔を赤くしながらも、ツンと顎を上げた。
「ええ、デイモンド伯。レオ様は、わたくしのために選んだと……そう仰いましたわ」
 カミラがそう言ったとたん、レオナールの顔から血の気が引いた。
 愛する女に裏切られるとは、夢にも思っていなかったのだろう。
「カミラっ!」
 レオナールは慌てて、カミラをなだめようと手を伸ばした。
 だが、それより早くカミラがソファから立ち上がる。ドレスの裾がゆるやかに波打ち、レオナールに背を向けた。
「待ってくれ、カミラッ!」
 レオナールがなおも手を伸ばそうとすると、カミラの護衛騎士がサッと間に立ち入った。その動きは、第二王子に対して遠慮がない。
 レーヴェン公爵家の令嬢が、継承権の低い王子に逆らおうと、誰も咎めることはできないのだ。
「デイモンド伯」







しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

もう一度君に会えたなら、愛してると言わせてくれるだろうか

まんまる
BL
王太子であるテオバルトは、婚約者の公爵家三男のリアンを蔑ろにして、男爵令嬢のミランジュと常に行動を共にしている。 そんな時、ミランジュがリアンの差し金で酷い目にあったと泣きついて来た。 テオバルトはリアンの弁解も聞かず、一方的に責めてしまう。 そしてその日の夜、テオバルトの元に訃報が届く。 大人になりきれない王太子テオバルト×無口で一途な公爵家三男リアン ハッピーエンドかどうかは読んでからのお楽しみという事で。 テオバルドとリアンの息子の第一王子のお話を《もう一度君に会えたなら~2》として上げました。 ※画像は男の子メーカーpicrewさんよりお借りしました。

番に見つからない街で、子供を育てている

はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。 異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。 現世の記憶は失われているが、 この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。 街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、 ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。 だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。 再会は望まない。 今はただ、この子との生活を守りたい。 これは、番から逃げたオメガが、 選び直すまでの物語。 *本編完結しました

愛する公爵と番になりましたが、大切な人がいるようなので身を引きます

まんまる
BL
メルン伯爵家の次男ナーシュは、10歳の時Ωだと分かる。 するとすぐに18歳のタザキル公爵家の嫡男アランから求婚があり、あっという間に婚約が整う。 初めて会った時からお互い惹かれ合っていると思っていた。 しかしアランにはナーシュが知らない愛する人がいて、それを知ったナーシュはアランに離婚を申し出る。 でもナーシュがアランの愛人だと思っていたのは⋯。 執着系α×天然Ω 年の差夫夫のすれ違い(?)からのハッピーエンドのお話です。 Rシーンは※付けます ※画像は男の子メーカーpicrewさんよりお借りしました。 ※画像は男の子メーカーpicrewさんよりお借りしました。 Xアカウント(@wawawa_o_o_)

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

運命よりも先に、愛してしまった

AzureHaru
BL
幼馴染で番同士の受けと攻め。2人は運命の番ではなかったが、相思相愛だった。そんな時、攻めに運命の番が現れる。それを知った受けは身籠もっていたが、運命の番同士の子供の方が優秀な者が生まれることも知っており、身を引く事を決め姿を消す。 しかし、攻めと運命の番の相手にはそれぞれに別の愛する人がいる事をしり、 2人は運命の番としてではなく、友人として付き合っていけたらと話し合ってわかれた。 その後、攻めは受けが勘違いしていなくなってしまったことを両親達から聞かされるのであった。

「君は有能すぎて可愛げがない」と婚約破棄されたので、一晩で全ての魔法結界を撤去して隣国へ行きます。あ、維持マニュアルは燃やしました。

しょくぱん
恋愛
「君の完璧主義には反吐が出る」――婚約者の第一王子にそう告げられ、国外追放を命じられた聖女エルゼ。彼女は微笑み、一晩で国中の魔法結界を撤去。さらに「素人でも直せる」と嘘を吐かれた維持マニュアルを全て焼却処分した。守護を失いパニックに陥る母国を背に、彼女は隣国の軍事帝国へ。そこでは、彼女の「可愛くない」技術を渇望する皇帝が待っていた。

いい加減観念して結婚してください

彩根梨愛
BL
平凡なオメガが成り行きで決まった婚約解消予定のアルファに結婚を迫られる話 元々ショートショートでしたが、続編を書きましたので短編になりました。 2025/05/05時点でBL18位ありがとうございます。 作者自身驚いていますが、お楽しみ頂き光栄です。

転生したようだけど?流れに身を任せていたら悪役令息?として断罪されていた――分からないまま生きる。

星乃シキ
BL
発作の後に目覚めたら、公爵家嫡男の身体だった。 前世の記憶だけを抱えたまま生きるレイは、ある夜、男の聖女への嫌がらせの罪で断罪される。 だが図書室の記録が冤罪を覆す。 そしてレイは知る。 聖女ディーンの本当の名はアキラ。 同じ日本から来た存在だった。 帰りたい聖女と、この身体で生きるレイ。 秘密を共有した二人は、友達になる。 人との関わりを避けてきたレイの人間関係が、少しずつ動き始める。

処理中です...