気がついたらファンタジー世界でモブ幼女?鍬から始める農民生活、生き残り

和紗かをる

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7章 決戦前夜のモブ幼女

7-1

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その日、ウイルズ・アインのロキュウスは、家族とともにいつもの草原の中に飛び出たような岩の上で、陽の光を浴びてのんびりとしていた。
雑食であるウイルズ・アインはその大きな体を維持するために起きている時間の半分は食事に当てる必要があるのだが、ロキュウスが寝そべる岩の周囲は彼らにとって栄養価の高い草ばかりであるため、この様な贅沢が許されている。
 もちろん、同族の中にこの岩やその周囲の餌場を狙う者も多いが、そのすべてに対してロキュウスは勝利し、この場所を十年以上守り続けている。そのおかげで家族も増え、今では二匹の妻、十七匹の子供に恵まれ、いっぱしの群れの長となっている。
 草原は平和で、ほかの種族が攻めてくる事も、ウイルズ・アインがどこかの土地を奪うような争いもなく、悲劇とは程遠い生活にロキュウスはこの時までは大変に満足していた。このまま子供たちが大きくなり、さらなる大きな群れとなっていくのを後ろから見守っていけるようになればいいなというのが、彼の願いであった。
 しかしその願いは簡単に崩されてしまう。
 きっかけは草原の端からかろうじて見える二速歩行の道具使いの町から上がる黒い煙だった。
 その煙は風にのって草原まで届き、その何分の一かに降り注いだが、それでも草原中央のロキュウスの群れはまだ何もなく、安全だった。
 異変がロキュウスの群れに届いたのは、町に黒い煙が上がって三日後。
 草原の端にいた群れの幾つかが暴走を起こし、草原中央部に突進し始めたのだ。
 彼らは半狂乱状態で、迎え撃つ数個の群れを駆逐し、取り込み、更なる大きな群れへと成長していった。
 放置すれば確実に右舷中央部や、町とは反対方向にある群れも飲み込まれてしまうだろう。
 ロキュウスと周辺の群れは簡単な協議を行い、二つの方法をとることにした。一つは暴走した群れを迎い撃つこと。一つは子供たちを草原を抜けた先に逃がす事だ。ロキュウスは周辺の群れから強者と認識されていたので、迎え撃つ側の代表として、八十の屈強なオスのウイルズ・アインを従え、残りの千近いウイルズ・アインを草原の先、森へと逃がす事にした・
 ロキュウスが暴走した同族の群れを迎え撃つべく、いつもは寝そべってゆったりと時を過ごしていた岩の登る。
 遥かな先には突進してくる相手があげる土煙は砂嵐の様に舞い上がり、恐怖で体がすくみそうになるが、それでも歴戦の勇者としてこの場にいるロキュウスは逃げる事など出来るわけもなく、正面をにらみつけながら、集った仲間たちに意識をつなぐ。一般には知られていないが、ウイルズ・アインは極短時間であれば同族に限り、意識を繋ぎ、その考えを他者に伝達することが出来る。同族だけの秘伝で、これが出来ないと同じ腹から生まれた子供でさえ、異物として排除してしまう。
 ―同族の突進を迎え撃つ勇者たち、我々の背後には愛すべき子供や妻がいる、仕方なくこの場にいる者は早々に背後に引き、妻たちを守る者となるように、それでも蹄を立て、暴走する者どもに鉄槌を加えようとするのであれば、我に続け、時を稼ぎ、やつらの牙から妻や子供を守るのだー
 ロキュウスの意思に、賛同する意思が答えてくる。怯えがないわけではない、だがこの場に集う同族の者たちは誰も逃げることはせず、蹄で大地を掻き、戦意を高めている。
 -よろしい、では指揮に従うように、いざ突撃!-
 ロキュウスの意思に従い、第一弾の四十のウイルズ・アインが矢の様な隊形で敵に向かう。
 -次っ!-
 残りの半分の四十が二十づつの群れになり、左右に割れて突進してくる相手の側面に向かう。数が同数であれば正面が持ちこたえている間に、側面から攻撃を加えれば簡単に勝敗がつく。ある程度の知恵があるウイルズ・アインの群れだが、暴走している相手側は何も考えず、数と速度で圧倒する様な動きだ。
 -敵の数は多いが、その中にはメスも子供混じっている、力は互角だー
 ロキュウスは岩の上四つ足で雄雄しく立ち、第一弾の四十が敵の先頭にぶつかる寸前に左右に分かれるのが見えた。先頭の四十は二十づつに分かれて、側面を走る仲間に合流する。
 -よしっ、いまだー
 左右に割れた正面を走っていた群れは、それぞれが縄を引いている。ピンと張った縄が突進する敵の正面へと接触する。
 オォォォン。
 すさまじい鳴き声よ同時に、暴走していた相手の先頭が転倒し、そのすぐ背後を走る仲間を巻き込み大混乱に陥った。
 先頭が停滞することにより、暴走していた敵の動きが遅くなる。作戦もなく速度と数のみに頼った敵は一気に弱体化する。
 -かかれっー
 左右に分かれていた仲間のウイルズ・アインたちが混乱している相手の左右から一気に突進していく。数は少ないが、一騎当千の仲間だ。すぐに敵の側面に突進、触れる相手を跳ね上げているのがわかる。
 これで終わった。と、そう思ったロキュウスだったが、戦場の様子は一向にロキュウス側の勝利に終わらない。体勢は完全にロキュウス側に有利なのだが、敵の戦意は挫けていない。普通ここまでしっかりと勝敗が明らかな状況になれば、負けを悟って逃げるなりするのに、その気配がない。
 -なぜだ?―
 あがる土煙の向こう、めをこらしてロキュウスはその理由に気づいた。
 ロキュウス側の一匹が二匹の敵を突き飛ばすと、その三倍のウイルズ・アインが周りを取り囲み、牙も角も使わずに、体ごとぶつかり圧死させていた。
 一匹、また一匹とそうやってロキュウス側のウイルズ・アインが討ち取られている。相手の被害の方が多いのは見てすぐにわかるが、それでも総数が違う。こちらのウイルズ・アインのすべてが討ち取られても相手には半分の数が残る。
 -皆、引けっ撤退だー
 ロキュウスはいざという時の為に考えていた退路に味方を逃がすと、最後に自分も撤退することにした。
  だが、逃げる味方を追おうとしていた敵も含めて、ロキュウスが動くと百匹くらいが対応して動き、彼の退路をふさいでしまった。
  自分が身代わりになることで、残りの味方を逃すことができたと思えば安いものか・・・。
 撤退することを諦めて、岩の上に端座するロキュウス。周囲は全て敵の状態で、真っ黒なじゅうたんを敷いたように見える。
 しかし、至近で見るとこいつら、本当に同族なのか?
毛は泥や返り血でじっとりとしていて、触ればパキパキと音が出そうな位に汚らしく見える。体つきは総じて大きく、目は血走り、およそ理性というものが感じられない。一言で言って狂っているとしか見えない。
 あれはっ! 
視界の隅、あれは先ほど激突があった場所か?何か集団が群がっているのが見える。そこでは討ち取った仲間を八つ裂きにして貪り食う敵の姿があった。
 雑食なので、食べて腹を壊すということもないが、ロキュウスが生きてきた今までで、同族を食う等見るのも聞くのも初めてだ。
 われ等も、これまでか・・・。
 あまりに衝撃的な場面を見て、自身の種族の終わりを感じたロキュウスが単騎で敵に突進し、十匹以上に傷を与えた後、先達と同じように、相手の腹の中に収まり、消化されてしまったのは、しばらく後の事だった。
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