誰かが尾鰭をつけたがった話

片喰 一歌

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時忘れの海

think/sink

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『やりたいこと多すぎて人生足りないタイプの人間からすれば、神様からのプレゼントみたいなものかもね。いろんな場所で暮らせるし、自分は羨ましく思う側かな。でも、少し考えていくと、意味がわからない点や不審な点がいくつもある。自分はそのテの話も馴染み深かったから、“そういうものか~”で流してきちゃってたけどさ』

 これまでにも似たような話を見聞きしてきたような口ぶりじゃな? ……それもふたつみつではなく、いくつとすぐには答えられぬほど。

『うん。女神様と会う直前…………いまのは初めましてのときのことね。――に聞いた話だけじゃなくて、小さい頃に聞いたのとか、オカルトチックな小話を集めたサイトでちらっと見た体験談とか。由緒正しい物語類型のひとつだからか、探せばいくらでもあるんだよ。真偽のほどはお察しなんだけどね』

 博識であることが仇になることも時にはあるということか。わらわも学ばせてもらったぞ。

『博識とはちょっと違うと思うけどなぁ。自分はいろんなことに興味を持ちやすい性分ってだけだよ。生活に役立つことも生きていくうえで必要ないことも、知ってれば知ってるだけひとつのものから得られる情報が増えて、結果的に人生が楽しくなる気がするから』

 そうか。さしずめそなたは人生エンジョイ勢と言ったところじゃな。よいよい。存分に、そして貪欲に知識を求めるがよいさ。

 話を戻すが、肝心なのは、そういった変化の起こる原因究明がなされておらんかったこと――――及び、研究の進捗の遅さ。その二点じゃ。

『そうだったそうだった。“人魚の肉はひと口食べただけで効果が出るらしい”ことが発覚したのを最後に、少しも進展してなかったんだよね。実際にどうだったかはともかく、あの人魚くんの耳には入ってない……みたいな感じだった。あれって、本当のところはどうなの? “のために一部が独占してる情報があった”っていうのが船大工くんの見解だったみたいだけど』

 そなたは目的の内容についても記憶しておるか? 確定事項ではなく、海に焦がれた子の出した推論をきっかけにふたりで好き勝手妄想を膨らませた結果出てきた与太話と言っても過言ではないが――――。

<『深海の権威』が情報を秘匿していた場合、その理由についての妄想>
https://kakuyomu.jp/works/16817330648863103041/episodes/16817330650816006667

『“んじゃないか”ってやつね。……わかるよ。好きな人とはなるべく長く一緒にいたいと思うのが人情だ。それを叶えるために恋した人間を人魚にしちゃおうって考え――――いや、それはどうかな……。寿命云々じゃなくて、人間の形を取ることに対する嫌悪感をなくせなかっただけか?』

 …………ほう。

『好きになった相手が人間だからって急に全人類ラヴァーにまで急転直下する人魚が多数派だったら、そっちのが怖いしなぁ……。うん、どっちもかな』  
 
 ――――ひとまず訊こう。あの子が深海の権威によい印象を抱いていなかったがゆえに疑心暗鬼に陥っていただけか。そうではなく、実際に研究がほとんど進捗しておらんかったのか。
 
 そなたはどちらだと思う?

『んー……。どっちも正しそうなんだよなぁ。全部隠してるってふうには考えにくい。だって、不自然だあやしすぎるからね。頭脳自慢の集団がそんな初歩的なミスを犯すはずがない。研究の成果は小出しにしてたはずだよ。……まぁ、知識のない人魚には見破ることのできないフェイクは混ぜてたかもだけど』

 おおむね、あの子が情報に疎いせいではないか――――と。

『だって、癖毛の海賊に向かって言ってたじゃん。“各国の技術の発展具合とかは興味ないんでどうでもいい”みたいなこと。つまり、彼は技術自体にしか興味がなくて世情には疎かったってことだ。スルーしちゃってても全然不思議じゃない』

 なるほどな。では、答え合わせにまいろうではないか。
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