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時忘れの海
人間の身体を取り戻す方法
しおりを挟む『毒舌家って相手の図星を的確に突くのが得意だから、性格はともかく頭はいいはずだもんね。ヒーローくんはハカセくんの頭脳が欲しくて仲間にしたけど、結果的にはそれ以上の収穫だったってわけか……』
ただ、その者の持つ海中で一、二を争う頭脳と技術をもってしても、人間を人魚に生まれ変わらせる技術を生み出すことはかなわんかった。
『いやいやいや、十分でしょ。成果上げすぎなくらいだって! 素材がなんなのかは怖いし聞かないでおくけど、海の生きものを参考に人間の魂が入り込む余地のある人形を作り出すなんてさ。……人魚としての第二の人生か……。そんな技術もあるってことが大々的に知れたら、人魚に生まれ変わることを目当てに自殺する人が増えるかもな…………』
……ん? あぁ、そうか。
ちなみに、その仮初めの身体はあることをすれば元の身体に戻るようになっておる。よって、『人魚としての』という部分については訂正を入れておかねばな。
『えぇ?! 人魚じゃなくて人間に戻れるの!!? なんかもうすごすぎて訳わかんなくなってきたんだけど……! 当然だけど鰭が脚に戻るわけで――……? そのへんどういう仕組みになってるのかもさっぱりだけど、戻るタイミングで住む場所変えてあげないとせっかく元の姿に戻れても死んじゃうじゃん。そのへんもコントロールできるの?』
当然ながら、予期せぬタイミングで戻ってしまうなどという事故は起こらないように設計してある。……というより、願うだけでは戻れない。鰭を脚に戻すためには、記憶が鍵になってくる。
『記憶?』
以前、そなたには話したはずじゃ。『水は記憶する』と。その者はそういった水の性質をも利用した。
『えーっと、ちょっと待ってね……。この世にとどまってるってことは、思い残したことややり残したことがあるんでしょ。……ってことは、記憶は部分的かもしれないけど確実に残ってるから、思い出すべきなにかがあるとかではなさそうだ』
…………本当にそう思うか?
『そりゃあね。というか、その記憶が残ってるせいで魂だけの存在になってまで大気中をふよふよ浮遊する羽目になってるはずでしょ。生前の執着を手放して、もっと他に関心を向けたほうがよさそうだなって思っちゃうんだけど』
死んだ程度で性格は変わらないという証明じゃな。未練を断ち切り未来へ進むことのできる者であれば、元よりそのような事態に陥ってはおらんさ。
『んー、そうだよなぁ。……あ。記憶ってその人自身の? ――じゃなくて、他の人の客観的記憶を頼る感じ?』
その者自身のものじゃ。それでも不足だった場合には他者の手を借りることになるが。
『…………うん。まったく話が見えないので、解説お願いしまーす!』
潔くてよろしい。
肉体なきあとも現世にとどまり続ける数多の魂たち。その者らの執着心が楔となっている話はしたな。還るべき場所へ魂を帰着させる妨げともいえよう。
一度そうなってしまうと、本来在るべき場所を誤認してしまうのよ。……消えてしまわぬように執着心を育んでいくと言えばわかるじゃろうか?
『元々、特大級の執着心――がもっと大きくなったら手に負えなくない!?』
そう。ただ一点にのみ向けられた執着心は増幅し、その者の正体をも吞み込んでしまう。奴らは自身の顔や名前を忘却してしまうだけでなく、生前の姿さえも分からなくなってしまうんじゃ。
それゆえ、自分が何者であったかという記憶を呼び起こすことが肝要になってくる。
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