三千世界の鴉なんて殺さなくても、我々は朝を迎えられる

片喰 一歌

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アフター・アフター・レイン・トーク

アフター・アフター・レイン・トーク<CVI>

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「そういうものかな? ……なんかちょっと恥ずかしいね……? 考えてみたら、『恥ずかしい』って思うのも変かもしれないけど」

 自分で自分を抱き締めるようなして、やや強引にその視線から逃れた。
 
「んー……。『恥ずかしい』と思っちゃうのは仕方ない部分もあるんじゃないかな。きみだけの問題じゃない気がするよ。恥ずかしいと思うように教えられてきたというかさ。……でも、本当にそうだね。なんにも恥ずかしいことなんてないよね? 『触りたい』と思うのも、『繋がりたい』と思うのも、好きなら当たり前のことなのにね…………」
 
 とどまっていた彼の視線は、少しずつ少しずつ上昇していく。

 ほどなくして、しばらくぶりに目と目が合って、簡単には逸らせない、逸らすことを許してくれない瞳の奥から、静かに燃える情欲がこちらに覚悟を問うているようだと思った。

(わたしのこと、すごく欲しがってくれてるみたい…………。カラダだけじゃなくてココロも全部。……もらってくれていいのに。わたしの全部は君のものだから、望んでくれればいつだって差し出せるのに)

 言葉で伝えることを放棄したわけではない。言葉がなくても通じ合えているような気になって、ひとつだけ頷いた。

「…………本当は分けて考えるべきなんだろうけど、俺はスキンシップの延長線でも、赤ちゃん作るためでも、きみしか抱きたくないと思ってるから……どうしても混ぜて考えずにいられないみたい……」

 欠点の見当たらない顔を大きく歪ませて顔を覗き込んでくる彼がどうしてかとても弱々しく見えて、思わず背中に両腕を回した。

「…………わたしもそう。君としかえっちしたくないけど、君とだったら……って思ってる……」

「ありがとう。…………そういうことなら、そろそろ…………あ、そうだ。……そのあと、夢はどう?」

 見つめ合って、唇が近付いて――――。完全にそういう流れに入ったと思ったのに、彼の口から飛び出したのはこのシチュエーションにそぐわないメルヘンな単語だった。

「え? 夢?」

 縦皺のない唇に事故ちゅーしそうになりながら、首を傾げた。
 
「悪い夢。昔の…………あんまり幸せじゃなかったときの夢。よく見るんだって言ってたよね。あれから報告も相談もないけど、いまはどうなってるのかなぁってさ。……顔色悪かったり元気なさそうだったりってこともなくなったから、あんまり見なくなってきたのかなって思ってたんだけど、きみに確認するまで本当のことはわからないから」

「ずっと心配してくれてたんだ…………。ありがとう。でも、もうなんともないの。きっと君が相談に乗ってくれたからだね。本当にありがとう。……ちゃんと報告してなくてごめんなさい」

 正座に直って、誠心誠意頭を下げた。
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