三千世界の鴉なんて殺さなくても、我々は朝を迎えられる

片喰 一歌

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アフター・アフター・レイン・トーク

アフター・アフター・レイン・トーク<CXIV>

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「『違う』って言おうとしてる? 悪いけど、全然そんなことないよ。…………大人ぶって冷静ぶって、必死に抑えてだけ。つらくなかったわけじゃないけど、きみに嫌われたりきみを怖がらせたりするより怖いことなんてないから、『いつまででも待てるよ』、『エッチなことなんてしなくてもいいんだよ』って伝えるつもりで、たくさんキスしたりハグしたりして抑えてた。……それで耐えられるだろうって高を括ってた。……そう思っていられたのも最初のうちだけだったけどね」

 徐に頭を垂れた彼は何をするつもりだろう。注視していると、彼が胸の出っ張りに頭を置いてきた。

「…………俺が認識できてる以上に、きみってかわいくてさ……♡♡ 変な言い方かもしれないけど、俺にはきみがお客さんに出す用のお菓子みたいに見えてるの。普段のティータイムには出てこないような、お高くて見た目で特別だなってわかる甘い甘いお菓子。食べたら絶対においしいってわかってても、手を出しちゃいけないもの…………」

 服に守られているにもかかわらず、胸に伝わる吐息はロウリュに水を掛けた直後のサウナを思わせるほどの熱を持っていた。

「……ん……っ♡」

 最初は心臓の音を聴いているのかと思ったけれど、話の合間に高い鼻を埋めたり唇で触れたりしているところを見ると、きちんと下心はあるようだ。

(よかった。下心あるってわかって喜んだり安心したりしてるのって、ものすごく変かもしれないけど…………! わたしが色気不足だってことが否定されたわけじゃないけど……!)

「…………って思って我慢してた。してたし、できてたはずなんだけどね……。きみの身体に少しでも触れると、決意が揺らぎそうになった。待つって決めたのに。妊娠の危険があることは、せめて高校卒業するまでしないって決めてたのに。……俺もさんざん罵ってきたきみの元カレたちと同じ、エッチなことで頭いっぱいな普通の男なんだよ。きみのことをめちゃくちゃにしたい。きみを俺のものにしたい。きみを…………いや、これ以上は俺にも言う勇気ないな……。怖がらせたくも嫌われたくもないしさ。もうドン引きされちゃってるかもしれないけど」

(…………男の子なんだ、彼も。綺麗で優しくてかわいくてかっこよくて、童話に出てくる王子様みたいに思っちゃうけど、彼だってわたしとおんなじ人間で、同い年の男の子なんだもんね。えっちなことだって……興味あるよね……。いちばん近くにいさせてもらってるくせに他の人と同じくらい解像度低かったわかってなかったのは悪いなと思うけど、彼も全然わたしのことわかってないなぁ。……『お客様に出す用のお菓子』なんて言って痩せ我慢しちゃって……)

 するはずだった否定の上から否定を被され、用意していた回答すべてをやむなく引っ込めることになった。

「君の考えてることはわかったよ。………………だけど、それのなにがいけないの?」

 しかし、代わりの言葉は探すまでもなく勝手に口から飛び出していた。
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