三千世界の鴉なんて殺さなくても、我々は朝を迎えられる

片喰 一歌

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アフター・アフター・レイン・トーク

アフター・アフター・レイン・トーク<CXXV>

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「なるほどなるほど♡ それじゃ、ボタン外したら万歳してもらうだけで簡単に脱がせちゃうんだね♡♡」

 彼がボタンを見ているのはわかっている。それでも胸元に視線が直撃しているふうに感じてしまうのもまた事実で、生娘のように身を固くしてしまった。

(…………わたしのはじめて、きみにあげたかったなぁ。……『あげたかった』だと少し違うかな。彼はそんなの欲しくないかもしれないし。『もらってほしかった』、だなぁ)
 
 はじめて身体を預けたひとが彼であれば、わたしの処女は喪失させられたものではなく自ら納得して捧げたものとなっていただろう。

 他の人も他の人でいい彼氏とは言えなかった(わたしだっていい彼女ではなかったと思うけれど、彼らを害するような行いは誓ってしていない)ので、悪夢からは逃れられなかったかもしれないけれど、バリエーションはひとつ少なかったはずだ。

「そういうことに…………なる……ね?♡」

 しかし、過去を悔やんでもなんにもならない。わたしはもうあの頃のわたしではない。とびきり優しい王子様にどん底から救い上げてもらったではないか。いつまでも過去に囚われているのは、一途にわたしを愛し、なによりも大切にしてくれている彼に失礼だ。
 
 妙な感傷を埋め立て、頭の位置を戻した。
 
「…………でもって、 なんじゃないかと思ったんだけど♡ ……それでも、きみは俺に脱がせてほしかったんだ?♡♡ 甘えんぼさんでかわいいなぁ♡♡」

 彼の指先が襟首を半周した。この指が素肌を滑っていったら、わたしはそれだけで絶頂を迎えてしまうかもしれない。

「…………そういうこと……です♡」

「ふふふ♡♡ 敬語なんか使わなくていいのに♡♡ でも、たまにはそういう口調も新鮮でいいね♡ 俺が先輩で、きみが後輩だったら、いつもそうやって話してくれてたのかな?♡」

「……今日は敬語でお話ししたほうがいい?」

「ううん♡ いつものきみでいてよ、今日は♡ 最初から非日常イレギュラー演出しなくたっていいでしょ♡♡ そういうのはもっと回数重ねてからで♡ いまはとりあえず、このボタンどうにかしないとなんにも始まらないからさ♡♡ ……外しちゃっていい?♡」

かろうじて質問の体裁を保っているけれど、器用な指はすでにボタンに掛けられていた。

「い、いいよ。どうぞ……!」

 取りやすいように胸を張ったら、彼の手が滑って左の胸に着地した。
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