三千世界の鴉なんて殺さなくても、我々は朝を迎えられる

片喰 一歌

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アフター・アフター・レイン・トーク

アフター・アフター・レイン・トーク<CXXXVII>

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 何度か連続して頷くと、歯の隙間から吐息が漏れる音が聞こえた。彼が息だけで笑うときの音だ。

「……やっぱり恥ずかしいか。気の利かない男でごめんね?」
 
 彼はわたしの意見を肯定するためにさまざまな事例や物語を例に挙げてくれる。それは誰もが一度は聞いたことのあるような馴染み深い話が主だ。わたしはこんなふうに少し遠回りしたり寄り道したりしながらゆっくり進んでいく彼の話が本当に大好きだった。

(彼に読み聞かせしてもらったらすごくよく眠れそう……♡ わざわざ読み聞かせなんてしてもらわなくても、ベッドでごろごろしながらまったりお話してるだけで眠くなっちゃいそうかも♡♡ ……でも、ベッドでごろごろしながらお話するってことは、その前になんかいろいろあったというか、しちゃったあとというか…………♡♡ だめだめだめ、いつでもどこでも妄想始めちゃう癖どうにかしないと! いつか本当に考えてることそのまま彼に聞かせちゃって、いまよりもっとずっと恥ずかしい思いすることになっちゃう……!)

 ――――いまは自分のせいでそれどころではなくなってしまっているけれど。

「でもさ、?♡♡」

 彼が左の口端を上げた。確信をもって問いかけられ、ただでさえせわしない心臓がさらにペースアップした。

 生まれたときに一生に心臓が鼓動を刻む回数は決められていて、それを超えて生きることはできないのだという話をどこかで見聞きしたおぼえがあるけれど、彼のせいでわたしの死期が早まるとしたら、それは不幸ではなく紛れもない幸福だ。このうえない幸福だ。心の底からそう思う。

「…………えぇっと…………?」

「きみが恥ずかしがってるのはふりじゃなくて本当だと思うよ。そこは別に疑ってない。部屋だって明るいし、こんなふうに下着姿見せてもらうのだって今日がはじめてだもんね。平然としていられる子も中にはいると思うけど、きみはとっても恥ずかしがり屋さんだから、たぶんいまもものすごい羞恥心と戦ってくれてるんじゃない?♡ ……だけど、恥ずかしいだけなら、きみが身体を隠せば済むもんね?♡ いまのうつ伏せの体勢も恥ずかしくないわけではないだろうけど、仰向けに比べたら、だいぶましなんじゃない?♡♡ ……ってことは、それ以外の理由があるんじゃないかと思ったんだけど……♡♡ 俺の読みは外れてる?♡」

「…………ううん、当たってる……♡♡」

 逃げ場のない推理に追い詰められ、顔を横に向けて肯定した。
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