三千世界の鴉なんて殺さなくても、我々は朝を迎えられる

片喰 一歌

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アフター・アフター・レイン・トーク

アフター・アフター・レイン・トーク<CLXX>

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「もちろん協力するけど、そんなに難しいことはできないよ?」

 迷いながら答えたら、なぜか身体を離された。肩に手を置かれて少し後ろに押されたといった具合だ。

「ありがとう♡♡ 受けてくれたのも嬉しいし、即答してくれたのはもっと嬉しいよ♡ 協力っていっても簡単なことだから、そんなに緊張しなくて大丈夫♡♡ 自分で言うのも変だけど、だから♡」

 わたしは彼の瞳のなかを観察しているとき、満天の星を見上げている気分になることが多いのだけれど、このときは彼の瞳が無数の星が瞬く夜空ではなく、底が見えるほど透明な水面が太陽の光を反射しているかのように見えた。

「そう?」

 彼がなにか――おそらくほとんど答えのようなこと――を言っている気がしたけれど、いまのわたしにはそれをきちんと理解できそうにない。

(綺麗…………)

 なぜなら、大自然の美しさにも負けないその光景を目に焼き付けるのに忙しかったから。

「うん♡ ……許可も取ったことだし……早速なんだけど、俺の膝の上に座ってくれるかな?♡♡」

 そっけない返事など意にも介さず、彼は目の前で片膝をついた。わたしのほうから見て左の膝が床についていたので、彼は左膝を立てていることになる。

「…………こう?」

 本音を言えば、王子様度をよりいっそう増した姿をもう少し眺めていたかったけれど、言われたとおりに浅く腰掛ける。
 
 このときには、さすがにわたしにも彼のしようとしていることがわかってきていた。

「そんな感じ♡ ……なんだけど……♡ できれば、ギリギリまで俺のほうに寄って密着してくれると、やりやすいなぁ♡♡」

「……こんな感じで平気……?♡」

 右耳のそばで大好きな声が聞こえて、少し照れながらそちらに寄った。

「ばっちり♡」

「もしかしてなんだけど、君が『してみたいと思ってたこと』って……♡ そのぅ……♡ 女の子が憧れる…………?♡♡」

「たぶんきみが考えてるもので合ってるよ♡♡ ……俺のいちばん大切で大好きな女の子も憧れてたりするのかな?♡♡」

 耳朶にキスを受け、一気に身体が熱くなった。

「…………実はかなり……♡ やっぱり、ロマンティックな感じするし、力持ちなところ見ると『かっこいいなぁ』って思うから……♡」

「なるほど♡♡」
 
「……だけど、いつも君はわたしのことお姫様扱いしてくれるし、別に特別なことなんてしてもらわなくても、普段から大切にしてもらってるし、持ち上げてみたら結構ずっしりくるんじゃないかと思うから、無理はしないでほしいというか……!」

 膝の下に腕が通されて、いよいよ……というところで緊張が限界値を超えたらしく、パニックのまま口が独りでに動き、全身から汗が噴き出した。
 
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