三千世界の鴉なんて殺さなくても、我々は朝を迎えられる

片喰 一歌

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アフター・アフター・レイン・トーク

アフター・アフター・レイン・トーク<CLXXI>

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「もし無理そうだったら、いいからね? 今日はお外歩き回ったわけじゃないし、自分でちゃんと歩ける体力残ってるから!」

「あはははは♡ ……うん、きみはそういう子だよね?♡ 俺のこと非力だと思ってるとかじゃなくて、俺に負担掛けたくないから、そう言ってくれてるんだなってことはわかるけど、そんなに心配しなくていいのに♡♡ そのために体幹鍛えたり、色々準備してたんだから♡」

 わたわたと身振り手振りをまじえて言いたいことをばーっと言ったわたしを見て、彼は余裕の笑みを見せた。

(強がり……とかでもなさそうだけど……)

 なんとなく膝の上で揃えていた腕を首に回してみた。

 そのほうが彼の負担が少し減るのではないかと思ったし、単純にくっつきたかったから。

「きみは俺がなにをするつもりなのか、わかってくれてるみたいだね♡♡ 俺がこれからしようとしてることだけじゃなくて、きみをどこまで連れていくつもりかってことまで……♡♡」

 すると、普段より少し掠れた声が鼓膜を揺らして、余裕の笑みが恍惚の笑みに移ろっていった。

「…………君はわたしをお姫様抱っこして、ベッドまで運んでくれようとしてるところなんだよね……?♡♡」

 その光景は夕焼けに見惚れていたら、みるみるうちに夜の帳が下りていって、世界がまったく別の顔を見せるのに似ていた。

 昼が夜に変わるのなんて珍しくもない。毎日当たり前に繰り返されていることのはずなのに、少しも美しさが損なわれたように感じないところも、見慣れたと思っているにもかかわらず、毎分毎秒息を呑むほど綺麗な彼と共通している。

「大正解♡ 正直言って、このいまの状態でかなり満足しちゃってるところもあるけど、ベッドまで大好きな彼女のこと連れていくのって、ラブラブカップルの定番みたいな気がするから、絶対しておきたいなぁって思ってて、タイミング窺ってたんだよね♡♡ そういうことする予定もないのに、ベッドに下ろされたら、それはそれで『なんなの!? 怖い!』って思わせちゃいそうだったし、そうなったらきみにも悪いし…………」

(部屋を跨いでお姫様抱っこ……なんて聞いたことがないし、彼のこと力なさそうって思ってるとかじゃないけど…………。わたしを抱えて移動するのは、結構重労働なんじゃないかなぁ。でも、彼がしたいならいいのかな。わたしもしてほしいし……♡♡)

「前置きが長くなっちゃったけど、そろそろ出発していいかな?♡ 1回動き出したら、途中下車はなし♡♡ 終着駅ベッドに着くまで絶対に止まらないから、そのつもりでよろしくね?♡♡」

 通勤快速のアナウンスよろしくおどけた彼は、わたしを抱き上げていることなど微塵も感じさせないほどすっと立ち上がった。
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