三千世界の鴉なんて殺さなくても、我々は朝を迎えられる

片喰 一歌

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アフター・アフター・レイン・トーク

アフター・アフター・レイン・トーク<CLXXXIV>

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「うん、そんな感じ。チョコ渡すのはバレンタインの日だけだし、『トリックオアトリート!』ってするのもハロウィンの日だけだし」

 手触りに魅了されたのか、あたたかな手は境目を離れて完全にパンツ――要はお尻――の上にでんと乗っかり、長い指の先は尾骶骨の突起を撫で始めた。

(いま触られてるところ、気持ちいいかも…………♡)
 
 自分の意思とは関係なく下りてきてしまう瞼をこじ開けようとするけれど、どんなに頑張っても全開にはできない。

 とろんとした瞳に映し出された彼は、情欲の高まりを示すような手付きとは真逆の慈愛に満ちた眼差しをまっすぐこちらに向けている。
 
「恋人ってなると、特別な日もいっぱいできるもんね♡♡ 告白された日に交際記念日つきあったひ……はおんなじ日だから、お祝いするならまとめてになるだろうし、そこがはじまりだから特別中の特別はその日かなって思うけど、特別な日は1年に何回あったっていいし、毎回お祝いしちゃったっていいよね♡♡ はじめて2人で帰った日、手を繋いだ日、はじめてキスした日、はじめて泊まり掛けで旅行した日……みたいな感じで♡ 増やそうと思えば無限に増やしていけるね♡♡ 『サラダ記念日』みたいにさ♡」

(『ミルクティー記念日』は確かスケジュール帳にも日記にも書いたはず。……見返さなくても、覚えてるけど……♡♡)

 はじめてお手製のミルクティーをご馳走になった日のことを思い返して、にまにましていたら、彼は尾骶骨に指の腹を当てた状態で小刻みに震わせてきた。

「…………『ミルクティー記念日も何月何日だったか覚えてるから、これから毎年お祝いできるなぁ』って考えてたの……♡」

「ミルクティー記念日?♡♡ ……ああ、なんとなくわかったかも♡ あの日は俺にとっても大事だなぁ♡」

「……でも、いま触ってもらってるところも気持ちいい……♡♡ ちょっと不思議な感じで……♡ いままでにない感覚だから、うまく言葉にできないけど」

「不思議な感じ?♡ 位置的に…………ちょうど神経が女の子の気持ちいいところに繋がってる……とか、そういう感じなのかもね♡♡ そっちも気持ちよくしてあげたいなぁ……♡♡」

 モーニングコールの声に似た低く掠れた声で囁かれて、背筋になにかが駆け上がってきた。

 それが性的な快感だということは、経験のわりに快楽を得られた体験が極端に少ないわたしにもわかった。
 
「…………『特別なことをするのは特別な日がいい』、『特別な日まで待ちたい』っていうきみの気持ちもものすごくよくわかるんだけどさ、『あえてなんでもない日にはじめてひとつになれたら、特別な日がまたひとつ増える』って考え方もできるよ?♡♡ しかも、誰にとっても特別な日じゃなくて、正真正銘、俺たちふたりだけの特別な日♡♡ それはそれですごくいいんじゃないかなって俺は思ってるんだけど、きみはどう?♡」

 彼は両手を使い、背中からお尻にかけての広範囲をまさぐっている。

「もし今日……はじめてしたら、今日も特別な日になるね……?♡♡」

 各所の曲線を指先に記憶させていくかのような動きに翻弄されつつも、小さく口を開いた。
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