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DESTINY CHAIN
DESTINY CHAIN<XIV>
しおりを挟む「……え、えぇと……♡ あ、えっと…………あとの楽しみ(?)にとっておこうかな……?♡」
だめなスピーチのお手本みたいに場を繋ぎながらも、ひとまず微笑み返すことには成功した。
(せっかくいい匂いにしてきたのに、腋に汗掻いちゃった……。目立たないといいなぁ。…………こんなところ、嗅いだり舐めたりはしない……よね?)
緊張で噴き出した汗が異臭を放ってはいないか心配になり、見咎められない程度に鼻をひくつかせた。
(とりあえず大丈夫そう……? でも、一応気を付けておこうっと)
「ふふふ♡♡ そっか♡ まぁ、好き好んで見たいものでもないと思うし、無理に見ようとしなくても大丈夫だからね」
わたしがさりげなく腋を締めたことに気付いていない様子の彼は、再び口元に手を持っていって、朗らかに笑んだ。
「……正式な婚約指輪……はまた別に、結婚指輪とも別に買うけどさ、なんか……それまでのあいだ、寂しいよね。お互い。……左手の、薬指」
そして、ふいに笑顔を消した彼がその手を裏返し、ほとんど囁くように独り言ちた。
彼が自身の手元に向けているのは、わたしが受けてきたような慈愛に満ちた眼差しではなく、冬の気配を連れてくるような物寂しい視線だった。
(左手の薬指が寂しい? ……言いたいことはわかるけど……)
聞き取れるかどうか微妙なラインの小声だったので独り言だと思ってしまったけれど、同意を求められているということはそうではなかったのかもしれない。
「…………ほんと? 君が指輪着けてるの、見たことないけど……。ほんとうに?」
「確かに着けないけど! 爪も鬱陶しくてすぐ切っちゃうような俺が、自分から指輪なんて着けるはずないけど。ひとつも持ってないけど!」
思っていた十倍くらいの熱量で否定され、目をしばたたいていると、彼がはっと息を呑んだ。
「…………っと、ごめん。熱くなりすぎた」
「ううん、わたしこそごめんなさい。疑ってるとか否定したかったとかじゃなくて、わたしは君と手繋いでないときは手ごと寂しいから…………」
「そっか。……そう言われると、俺も特定の指一本じゃなくて、全体が寂しい気がしてきたかも♡♡」
「!」
絡め取るように繋がれた手からは、いつも以上に彼の気持ちが流れ込んでくるような気がした。
「…………うん、そうだ。やっぱり寂しかったみたい、俺。独りでうちにいるときより、ばいばいってした直後のほうが寂しいのと同じ現象…………の、逆バージョンみたいなものかな? きみに触れたっていう記憶のせいでまだ触れてるみたいに錯覚するのと、きみに触れたことで前に触れたときの記憶がよみがえって、愛しさがますます込み上げてくるの……みたいな」
「寂しさは絶対的なものだけど、相対的な側面もある……みたいな?」
「そう♡ 内申と同じ♡♡ ……きみと繋いでる用の腕、もう一本増設されたらいいのになぁ♡」
言っていることはいつもの彼らしくずれていて、だけれど声には元気がなくて、このぬくもりがどこにも逃げないように手を握り返した。
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