三千世界の鴉なんて殺さなくても、我々は朝を迎えられる

片喰 一歌

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Interlude

Interlude<Ⅹ>

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「そうかも。楽しみにしてる予定に向けて準備する期間って、当日とおんなじくらい楽しいよね。学園祭とか……昔だったら遠足とか?」

 ひとりで観に行くほど好きだというイルミネーションを写し取ってしまったかのような輝きに照らされて、心があたたかくなった。

 わたしはこのひとに同じようなぬくもりを分けることができているだろうか。

「じゃあさ、俺とのデートは?♡♡」

「た…………楽しみだよ、いつも! 楽しみすぎて寝付けなかったりもするけど……! でも、君とのデートは当日がぶっちぎりで楽しいから、ちょっと区分けが違う気がするかなぁ?」

「あはは♡♡ 言わせちゃってごめんね♡ どうしてもきみの口から聞きたくて♡♡ 俺も毎回楽しみにしてるし、当日がそれまでと比べ物にならないくらい楽しいっていうのも同感♡」

 彼の声は、大学いもにいっぱいかけられた糖蜜よりも甘かった。
 
「クリスマスになにが欲しいか、考えておいてね?♡ まだ訊かないけど、ハロウィンが終わる頃までには決めておいてくれると、俺もいろいろ吟味できて楽しいなぁ♡♡」
  
「締め切りがシビアすぎない……?」

 『やっぱりきた』という気持ちを表に出さないことには成功したけれど、締め切りを迎える前から延長を目論むわたしは少し不審かもしれない。

「え? そうかなぁ? 俺の感覚だと、かなり待ってるほうじゃないかと思うけど……。まぁ、決まらなかったら決まらなかったで全然いいしさ、そんなに重く考えなくて大丈夫だから、一応の期限はそこってことにしておいて♡ 用意に時間かかるものだったら、早いに越したことないけどね」

「あの……。こんなこと言われても困るとは思うけど、一応言っておくね? もしわたしがぎりぎりになってもなにが欲しいか決められなかったら、君が決めてほしいの。なにもらっても文句言わないから……!」

 膝の上でスカートをぎゅっと握り締めて切り出した。
 
 前々からやんわり伝えてきてはいたけれど、彼はわたしの『プレゼントはいらない』という主張にあまりぴんときていない様子だった。

 ――――当然だ。主張という言葉を使うことも躊躇われるほど、わたしの意思表示はささやかだったから。

(『男はみんな控えめな女が好き』、か……。いまはそんなふうには思わないけど、自分の考えをはっきり言うのってすごく勇気がいるなぁ。だけど…………)
 
 しかし、この際、はっきりさせておいたほうがいい。元カレの呪縛を振り切って。

(クリスマスが好きでプレゼント選びまで楽しみにしてる彼には悪いけど、わたしもはっきり言っておかなきゃだめだよね)
 
 『お互いの価値観をより深く知っておくのが長続きの秘訣』という窓華ちゃん(最も身近な恋愛マスターだ。頼もしいことこのうえない。)に感化されたという側面も否めなくはないけれど、どのような類のものであれ、彼は隠し事を好まない性質だろうから。
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