三千世界の鴉なんて殺さなくても、我々は朝を迎えられる

片喰 一歌

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HONEYDEW RAIN

HONEYDEW RAIN<XIV>

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「でも、タオルとか着替えとか用意しなきゃいけないし。君に先に入っててもらったほうが効率いいよ?」

「きみの考えはわかったし、確かになとは思う。けど、こんなときまで効率重視じゃなくていいんだよ……!! きみに嫌いなところなんてないけど、もう少し…………というか、もっと自分を大切にしてほしいな……」

 両肩を掴む手には、腕を無理矢理外してきたとき以上に強い力がこもっていた。
 
「……君、来る途中で車に水撥ねられたでしょ? いつもとおんなじで道路側歩いて……走ってくれてたから、絶対君のほうが水被っちゃってると思うの。だから、効率だけで言ってるわけじゃないよ?」

 先に入浴を勧めた理由を説明する。これで納得してくれればいいけれど。

「いや、俺が言いたいのはそういうことじゃなくて…………!」

「だから、お先にどうぞ。洗濯するものは下のカゴに入れちゃってね。着替えとタオルは、君が出てくる前にこの上のカゴに置いておくから! それじゃ、またあとでね!」 

 遮って申し訳ないとは思ったけれど、一秒でも早くあたたまってもらいたいという気持ちのままに、伝えたいことすべて早口で言い終えた。

「…………なるほど。よーくわかった。きみがそのつもりなら、俺も強硬手段に出させてもらうよ」

 彼はその場を去ろうとするわたしの手首を掴んできた。
 
「強硬手段? とりあえず、手離してくれないと着替え持ってこられないよ……」

 こうして手首を掴まれたこと自体は数回あった気がするけれど、いままででいちばん強い力で引かれ、胸の高鳴りを押さえつけるのに苦心した。

(さっきからどきどきさせられてばっかり……。今日の君はいままででいちばん『男のひと』って感じがする……♡♡ もしかして、わざとなの?♡)

「…………着替えはともかく、タオルはここにある。さっきたくさん出してくれたもんね。サイズ的にも置いてある場所的にもバスタオルじゃないかと思ったんだけど、違った?」

 彼は水気取りに使ったタオルの山を指し、問うてきた。

「ううん。バスタオルだよ」
 
「やっぱりね。まだ結構枚数あるな。……これよりもうちょっと小さいタオルとかってあったりする?」

「もうちょっと小さいのだったら、その隣の隣のタオルはどう? これなんだけど……」

 該当のタオルを掴み取り、広げて見せた。

「あぁ、こっちは小さいやつなのか。全然気付いてなかった」

(……楽しいな。店員さんとお客さんになった気分。わたしのバイト先が雑貨屋さんとかで、勤務中に彼が見にきてくれたらこんな感じになるのかな?)

「うん、いいね。ちょうどいいサイズ♪」

 広げた状態のタオルをそのまま受け取った彼が満足げに頷いた。
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