三千世界の鴉なんて殺さなくても、我々は朝を迎えられる

片喰 一歌

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HONEYDEW RAIN

HONEYDEW RAIN<XX>

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(わたしだって意識したくてしてるわけじゃないけど、まだえっちしたことない彼氏と一緒にお風呂ってビッグイベントだよね? ……まぁ、元カレたちとだって一緒に入ったことないけど……)
 
 土砂降りで濡れてしまった身体を清めてあたためることが目的なのだから、なにもやましいことなんてないのに。

(…………ってことは、君がわたしの『』になるってこと……?♡♡)
 
 彼はわたしにいろんなものを与えてくれる。有形無形問わず小さなものから大きいものまで。――でも、わたしから彼に贈れるものはそう多くない。

(彼が初彼氏ってわけでもないし、ファーストキスも処女もあげられなかったけど…………)

 だから、いままでは後ろめたい気持ちでいっぱいだった。なにかをもらうたびに込み上げる感謝以上に、負債となってのしかかってきた罪悪感のせいで俯いてしまいそうだった。

(考えてみたら『はじめて』って別にそれだけじゃないよね♡ したことないことだったら、探せば他にもいっぱいあるはずだし……。恥ずかしいしどきどきするけど、すっごくすっごく嬉しいな……♡♡)

「急に黙ってどうしたの? 怖かった? ……ごめんね、あのくらいで不機嫌になったりして。みっともなかったよね。きみにはかっこいいところ見せたいのに、情けないところばっかり見せちゃうなぁ……」

 思考の海に沈んでいたせいで余計な気を回させてしまったらしい。いまの彼は雨に濡れた子犬のようだ。しょんぼりした顔だけでなく、毛先が湿って跳ねているのもそれっぽい。

「ううん、そうじゃなくて。君に改めてお願いしたいことがあるなぁって思ったの……♡」

 もっと気の利く子だったら、『君は情けなくなんてないよ』と先にフォローできただろうに。
 
「なになに?♡♡ なんでも言ってみて?♡」

 わたしの言葉を聞いて顔を輝かせた彼は、やはり動物に例えると犬っぽいと思う。

「…………わたしのはじめて、もらってくれる?♡♡」

「!!」

 大きな大きな瞳が限界まで見開かれたとき、わたしの視線を奪っていったのは普段はさほど目立たない喉仏だった。上下したそこは、彼が男性であるというごく当たり前の事実を突き付けてくる。

(引かれちゃったかな……? 『この子、突然なに言い出すんだ!?』みたいな……。現実はやり直しなんてできないのに!)

 答案用紙に消しゴムをかけて解答を修正する要領で発言の撤回ができればいいのに。そんなことできないのは知っているんだから、口にする前に熟考する癖をつけなくてはならないのに。
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