三千世界の鴉なんて殺さなくても、我々は朝を迎えられる

片喰 一歌

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アフター・レイン・トーク

アフター・レイン・トーク<XXXVI>

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(わたしのは無欲とも違うと思うし。確かに欲しいもの聞かれるのはいちばん困るけど、『彼の考えてることが知りたい』とか『彼ともっと近づきたい』みたいな願いはいっぱいあるし、かなり欲張りなほうなんじゃないかと思うけどなぁ)

 『欲しいもの』と言われたとき、多くの人が最初に想像するのは形のあるものだろう。もちろんわたしもそうだし、希望として出すべきなのもそういったものだと思う。
 
「うん。わたしは窓華ちゃんが『これ欲しい!』って言ったものどんどんゲットしてくの、かっこよくて好きだよ? 欲しいものがあって、そのために頑張れるのってすごく素敵だし尊敬する。学生のうちからガンガン経済回しててすごいと思うし。……でも、いま思ったんだけど、欲しいものはなんでも自分で手に入れたい派の窓華ちゃんも、プレゼントの希望なかなか決まらないタイプだったりしない?」
 
「ええ、そのとおりよ。待ってるだけなんて性に合わないし、すぐにでも欲しいもの。私の理解者はあんただけよ……!」

 テーブルの上で遊ばせていた両手をがっちり掴まれた。

「えぇっ!? 戸田くんが泣いちゃう!!」

「あぁ、忘れてたわ」
  
 少し大袈裟に言ってみたら、彼女は気さくな笑顔を見せてくれた。すっかり元気を取り戻したようだ。

「窓華ちゃんは? 戸田くんに希望聞かれたら、なんて答えようと思ってるの?」

「そっちも忘れてたわ。なにかしら参考になるかもしれないのにね。……えぇと、予約し忘れたコフレとかかしら?」

「入手難易度がすごい……!」

「ええ。だけど、そのくらいだもの。自分の力でいますぐ手に入れるのが難しいものなんて。でも、無理言ってるのは私自身がわかってるから、『ゲットできなかったら他のものでいい』ってひと言添えるつもりよ。……あいつのことだから、おまかせしたら恐竜のルームウェアとかになるかもしれないけど、自分じゃ絶対買わないもの。それはそれで楽しいじゃない?」

「そっかぁ……。最初からおまかせにしちゃうのは相手頼りでずるいけど、そういうふうにしたらむしろかわいいね? ……あ、もちろん窓華ちゃんにそんなつもりないのはわかってるけど!」
 
「…………それで? いい案は浮かんだ?」

「ううん。ひとつも…………」

「やっぱりね。だけど、いいんじゃない? 他人は他人、あんたはあんたでしょ。欲しいものがないのも欲しいと思うものが他の人と違っても変じゃない。おおかた、会長に『クリスマスプレゼントはなにがいい?♡♡』って訊かれて、『なにもない』って正直に言ったら遠慮してると思われて取り合ってもらえなくて、こんなこと聞いてきたんでしょうし」

 先日のやりとりを言い当てた彼女は、思い出したように椅子に深く掛け直した。
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