三千世界の鴉なんて殺さなくても、我々は朝を迎えられる

片喰 一歌

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アフター・アフター・レイン・トーク

アフター・アフター・レイン・トーク<XV>

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(甘えてばっかりだ、いろいろ……)

 自分以外の誰かといるときも、誰かと一緒にいることを忘れて考え事に耽ってしまうことがある。これはわたしの悪癖のなかでも上位に食い込む厄介なものだ。
 
 だが、いまはそうではない。繋がれた手の先には、誰より一緒にいたいと願うひとがいる。片時も離れたくない大切なひとがいる。

 願うだけでは永遠には届かなくて、願っても努力しても永遠に到達する愛なんてほとんど幻想そんざいしないかもしれなくて。

 ――――けれど、わたしはまだ最善を尽くしてはいない。現時点での最大限の努力なんてたかが知れていたとしても、人事を尽くしたと自分で思えなければ、この手が完全に離れてしまったときに後悔するだろう。

 そして、その後悔は……終生わたしを苛み続けるだろう。

「わたしも窓華ちゃんにはめちゃくちゃお世話になってる自覚ある……。自分ではしっかりしてるつもりなんだけどなぁ。君にもお世話になっちゃってるよね。ふたりがいなかったら、どうなっちゃってたんだろうってよく思うよ。……だけど、そんな協定(?)いつのまに結んでたの?」

 彼の隣に――――いちばん近くにいるにふさわしい自分でありたい。すぐにはそうなれなくても、時間をかけて。わたしが彼に釣り合う人間になるまで。……なってからも、どうかこの恋が続いてくれますように。
 
 祈りと決意を胸に、包むように優しく握られた手を握り返した。
  
「んー、いつだったかな? 2ヶ月くらい前とかそのくらいだった気がするけど……。今回は例外だったね。バイトの都合なんだったら俺が譲るべきだし、友達は友達で大事にしないとね。きみとマドンナちゃんと俺の3人がいたら、邪魔者は俺でしょ?」

「わたしは君のことも窓華ちゃんのことも大好きだから、どっちも邪魔者だなんて思わないよ? ……というか、その並びで仲間外れになるの完全にわたしじゃない?」

 普段は口に出さないように心掛けている後ろ向きな本音が、強風にさらされて力尽きた葉のごとく、ぱたりと落ちた。

「え?」

「あ。ううん、なんでもないの! 独り言!」

「そう? ならいいけど……。あ、うち着いたらミルクティーいる?♡」

 声のトーンか、あるいは浮かない横顔か。なにかを感じ取ったらしい彼は、深く尋ねる代わりに数十メートル先に見えてきた自宅を指して提案した。

「飲みたい♡♡ 昨日行ったカフェのミルクティーがわたしの口には合わなかったみたいで、それからずっとなにか飲むたびに『君の淹れてくれたミルクティー飲みたいなぁ』って考えてたから嬉しい♡」

「大袈裟だなぁ♡♡ プロのミルクティーになんて、一介の素人が敵うわけないのに♡♡」

 彼のはにかんだ笑顔を見上げ、なにかもうひと言足せないだろうかと考えた。例えるなら、毎回変えてくれる隠し味のように。
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